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1件
全てが1です。とても好きすぎます、
2000 4.11
桜の季節
僕は、母親の胎の中から出された。
何故だろうか
記憶は鮮明に残っている。
思い出したくも無いが、毎夜眠りにつく度その悪夢にうなされる。
金属同士が擦れる音、不快な音。
眼球を真っ白な絵の具で塗りつぶされた様な。
生臭い鉄の様な。
寒い冬、熱い風呂から出た時の様な。
聞いていた音楽が何らかの障害によって「プツり」と消される様な感覚。
ゾッとする
視覚で覚えているものは曖昧だが、感覚、五感だけはそれを鮮明に覚えている。もう母親の姿は覚えてない癖に
2014 4.11
今日は
僕の14歳の誕生日と14年前に僕の母親が死んだ日
その夜も僕は悪夢を見た。
これで5110回目の悪夢だ。
金属で出来た目覚まし時計がうるさい。
その金属で出来た塊を止めてから
毎朝、僕は母親の仏壇の写真を見ながらこう思う
母親の胎に帰りたい。
その後は
悶々とした気持ちの中で同じ工程を毎日繰り返す
母親が用意してくれるはずだった白いワイシャツに袖を通し、母親がアイロンをかけて真っ直ぐになるはずだった皺がついたスラックスを履く。
母親が用意してくれるはずだった、健康的な朝食を急いで食べて。それが喉に詰まりそうになると
それを流し込むために真っ白な牛乳を飲む
そして最後に
殺風景な部屋を見渡してから
家を出る。
いつまでこの生活が続くんだとうんざりする。
毎日、毎日同じ景色で変わらない空気を吸う
活気のない商店街
古ぼけた薬局
生きているのかも分からないいつも寝ている犬
つまらない道を長い時間歩いた先には僕が通っている中学校がある。
学校では新学期が始まって、同級生達はみんな浮かれている。
クラスがどーたらとか、恋人と離れたーだとか、人生終わったーとか
たった14歳でなに人生語ってんだとか思ってしまう。
同級生の世界はこの学校内だけの狭い世界みたいだ。
窮屈な世界に閉じ込められて可哀想だなと思い内心嘲笑っているが、不意に鏡に映る自分を見ても同じことを思う。
この捻くれた性格のせいか僕には友達が居ない。
見た目は母親譲りで悪くないとは思うが。友達が居たことがない。
作ろうともせずこの7年間過ごしてきた。
正直、寂しいが家に帰っても1人だから慣れてはいる。ずっと一人だ
また1年間同じことの繰り返しかと憂鬱になりながらその一日を過ごした。
僕はその時まだ知る由もなかった。
2014年のこの年が僕の人生を狂わすことになる。
2014 7.20
暑い夏の朝のこと
最近、僕のクラスでは席替えがあり喜ぶ人もいれば嫌な人の近くになったのか少し顰めっ面をしている人もいる。
友達がいない僕にとってはどうでもいいイベントだ。
でも、少し気になる人が僕の隣の席になった。
周りと違う雰囲気があって興味があるだけ。髪の毛が少しだけ茶髪で長い、学年の女子で唯一スラックスを履いていて、だけどボーイッシュって感じでは無い「鈴木さん」何処となく母親に似てる
そんな少し気になる存在
その「鈴木さん」が急に話しかけてきた。
「少し話したいことがあるの、休みに入ったら少し会えないかな。」
初めての出来事に動揺して僕は間髪を入れず承諾をした。
2時間目、3時間目、4時間目の間も僕は胸が浮ついて、鈴木さんの方を一度も見れなかった。
単純なもんだ。その日から僕は彼女のことが好きだったのかもしれない。
2014 7.31
夏休みに入って少し経った頃、家の固定電話に電話がかかってきた。僕は蒸し暑い廊下に出て電話を手に取った。
電話をかけてきたのは鈴木さんだった。
僕は声が上ずりそうなのを抑えて「もしもし」と言った。
鈴木さんは落ち着いた口調で「関くん、今日空いてるかな?」と聞いてきた。
日中はスーパーに買い物にでも行こうかと思っていたがそんな事はどうでも良くなり、また間髪を入れずに「空いてる」と少しうわずった声で答えた。
すると鈴木さんは「じゃあ、6時に学校近くの公園に来て」と言って電話を切ってしまった。
僕は突然のことに呆然として数分間蒸し暑い廊下に一人で立っていた。
今は5時半、あと30分後には鈴木さんとあの公園で落ち合う。
緊張と興奮で
心臓がうるさい。
部屋着から白いシャツに着替えて、髪も整えてから家を出た。
歩いてる間、鈴木さんと何の会話をしようか考えていた。鈴木さん…どんな人が好きなんだろうとか、僕も同級生達と何も変わらないんだなと少し可笑しくなって恥ずかしくなった。
2014 7.31 午後5時57分
公園に着くと既に鈴木さんがいた。
僕の姿を見つけると鈴木さん少し手を振った。
「待った?」と精一杯脳内で考えた言葉の一つを口に出した。
「待ってないよ」と鈴木さんは言った
鈴木さんは長いジーパンに少し大きめの白いTシャツを着ていた。いつもと違う雰囲気で少し胸がときめいた
ジッと鈴木さんを見つめていると
「何見てるの?どっか変かな?」
と言って少し困った表情をしていた
「あ、いやそうじゃなくて、その雰囲気がいつもと違うから…」
焦って誤解を解いた
「そういう事ね、いつも制服だもんね」
その後に数分間の沈黙が続いた
「少し歩こうか、関くん」
「う、うん歩こう」
鈴木さんと少し薄暗い公園を2人で歩いた。
歩いてる間に暑さと緊張で何を話していたのか思い出せない。
しばらく2人で歩いた頃
急に鈴木さんが僕の手に触れてきた
僕は何の事かと思い手を払ってしまった
「あ、ご、ごめんなさい、嫌だった…?」
「いや、ぁ違くて急だったから、びっくりしただけだよ」
急に大きな声を出してしまったせいか声が裏返ってしまったのが恥ずかしくて鈴木さんの顔を見れないまま言った。
するともう一度鈴木さんが手に触れてそのままぎゅっと握ってきた。
「私、家で虐待されてるの。毎日お父さんに殴られたり、蹴られたりして運が悪い日には身体触られたりするんだ。」
急な告白に驚いた。
「助けて、関くん」
潤んだ目で訴えかけてきた
思わず僕はこう言った
「う、うん、助けるよ」
「僕が鈴木さんをたすけるよ」
今思えば、鈴木さんが何故そこまで関わりの無い人間に秘密を打ち明けたのか不思議に思わなかった自分が不思議で仕方がない。
「ほんとうに?嘘じゃない?」
鈴木さんの表情が少し明るくなる。
それと同時に僕の鼓動も早くなった。
自分も手を強く握り返す
「僕が、文乃さんを守る」
何を勘違いしているんだ、僕は別に恋人でも無いのに名前を呼んで無責任に守る、たすけるだなんて言って。
「関くんなら、そう言ってくれると思った。」
鈴木さんがほっとしたような表情を浮かべそのまま僕に抱きついてきた。
その瞬間僕の中で何かがブチっと千切れたような感覚がした。
初めて、同級生に、女の子に抱かれた僕はそのまま理性が途切れそうになるのを抑えた。
「や、柔い」
つい感想を口に出してしまった。
どう考えても気持ち悪い僕の発言に鈴木さんは
「女の子って、柔いでしょ?」
と少し茶化してくれた。
その時の彼女の表情は、いつも写真で見る母親の笑顔にそっくりだった。
その後のことはよく覚えていないが、鈴木さんが
「今日はお父さんに怒られるから帰るね」
と言って帰っていくのをぼーっと見ていたのは覚えている。
7月31日の夜、僕は悪夢を見なかった。