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あれ?何だか本当に医療ドラマになってきた恋愛話描く予定だったんですけど💦ちょっと更新鈍るかもです😱筆者センシティブ不足です🤣
第二十三章 こっちだと思った
翔太💙「うわっ可愛い。お名前なんて言うんですか?」
大介🩷「こっちがシャチで、こいつはツナ」
翔太💙「美味しそうな名前ですね」
春の陽気。
スズメたちが電信柱に集まって、何やら騒いでいる。
病院の花壇には紫のチューリップが咲き乱れ、
その周りを蝶がふわふわと舞っていた。
――綺麗すぎて、少しだけ現実感がなかった。
個室に二人きり。
笑い声が響いた。
大介🩷「美味しそうってなんだよ」
大介🩷「お前マジで変わってんな?」
〝変わってる……〟
俺ってそんなに変わってるだろうか?
大介🩷「褒めてる。面白くて可愛いやって意味だよ」
翔太💙「えっ……」
不意に頭を撫でられて顔が熱い。
きっと顔が真っ赤だ。
〝ほらやっぱり可愛い〟だなんて言われて顔の熱の行き場がない。
翔太💙「揶揄わないでください」
大介🩷「俺は嘘つけねえからな」
頭から離れた指先が頰を優しく撫でた。
大介🩷「真っ赤だな……あんまその顔見せんなよ」
どんな顔だよ――
大介が入院してからというもの、毎日三度この部屋を訪れている。
特別室に移れない代わりと言ってはなんだが、
理事長の妙な計らいで、毎日3食、大介の部屋へ翔太が食事を運んでいる。
大介の病状は落ち着いているものの、
治療方針が未だ決まっていなかった。
どうやら、亮平と蓮で意見が割れているらしい。
――珍しいことじゃない。
でも今回は、
誰も軽く流せていないみたいだった。
それと……大介。
今後の芸能活動にも影響があるため、決め兼ねているようだった。
翔太💙「今度本物に会ってみたいツナ、シャチさん」
大介🩷「おう会わせてやるよ。外泊出来ねえかな?」
少しだけ、笑い方が軽すぎた。
大介は、ペットホテルへ預けている飼い猫の二匹のことが気掛かりのようだった。
翔太は子供の頃のことを思い出していた。
両親と二人。それと少し歳の離れた妹。
妹が産まれて間も無くして、渡辺家に新しく家族になったダックスフンドのテリー。
寝る時も、ご飯を食べてる時もずっと一緒に過ごした。
テリーのことを思い出すと、当たり前にあったはずの家族のことを思い出し胸が苦しくなる。
――それが、どれだけ幸せだったかなんて、
あの頃は考えたこともなかった。
スマホの画面を覗き込み愛おしそうに、幸せそうに笑う大介。
――あいつも、こんなふうに笑っていられたらいいのに。
翔太💙「会いに行きましょう!僕の方から先生に話してみます」
翔太💙「今日はもう帰ります」
大介🩷「珍しいな、早くない?」
翔太💙「ちょっと……用事があって」
今日は、定時で帰らなきゃいけない。
足は自然と医局へと向かっていた。
足を止める。
――朝。
来いって、誰かに言われた気がするけど……
医局じゃなかった気がする。
コン、コン、コン
翔太💙「渡辺、入ります」
第一医局室。
普段は放射線科の一室に籠っているラウ男が、珍しく医局にいた。視線が合うや否や、面白いおもちゃでも見つけたように
嬉しそうに近づいてきた。
ラウ男🤍「ナイスタイミング。面白いもの見せてあげるよ」
翔太💙「えっ?」
亮平💚「君の考えには妾腹しかねる」
蓮 🖤「俺の患者だ、引っ込んでろ亮平」
なんだか険悪な雰囲気の二人。
医局に立ち竦む、ミニスカナース服の翔太。
どうやったって目立つ。
医局員の視線が翔太へと向かった。
もちろん、蓮と亮平も。
蓮🖤「来なかったな」
翔太💙「……え?」
蓮🖤「朝、呼んだだろ」
翔太💙「……っ」
言われた瞬間、思い出す。
翔太💙「……すいません。すっかりうっかり……」
蓮🖤「忘れてた?」
低い声。
責めてるわけじゃない。
でも、
逃がさない声。
翔太💙「……ごめんなさい」
そのとき。
ラウ男🤍「来ると思った」
翔太💙「え?」
ラウ男🤍「……やっぱり、そっち来た」
軽い声。
二人の視線が動く。
悪びれもなく言う。
蓮の目が細くなる。
蓮🖤「……」
ラウ男🤍「ダメだった?」
本気で分かってない顔。
空気の重さにすら、気づいていない。
蓮は少しだけ笑った。
蓮🖤「別に」
でも、空気は一瞬で冷えていた。
蓮🖤「……勝手に動くな」
低い声が、逃げ場を塞いだ。
翔太💙「すいません……」
蓮の気配が遠ざかる。
空気が、少しだけ緩んだ。
翔太💙「……」
息が、やっと吸えた気がした。
亮平💚「翔太」
翔太💙「はい」
さっきまでとは違う声。
静かで、整っていて、逃げ場を与えるような声。
亮平💚「こっちへおいで」
自然と、足が動く。
亮平の方へ。
亮平はカルテを閉じた。
亮平💚「さて」
少し間。
亮平💚「本題に戻ろうか」
蓮の方を見ずに言う。
亮平💚「現状、保存療法で問題ない」
蓮🖤「……甘いな」
蓮🖤「血栓は放置すれば悪化する。今のうちに切除するのが最善だ」
亮平💚「でた……蓮はすぐ切りたがる」
亮平先生が、〝蓮〟って呼ぶの珍しい――
亮平💚「今の状態で侵襲的治療を選ぶ方が危険だ」
蓮🖤「後手に回るだけだ」
亮平💚「それは仮定だろ」
淡々とした応酬。
感情は乗っていない。
でも、互いに一歩も引かない。
翔太💙「……」
二人の間に立たされる。
さっきとは違う緊張。
冷たい。
でも、逃げられない。
亮平💚「翔太」
翔太💙「はい」
亮平💚「君はどう思う?」
翔太💙「えっ」
突然だった。
頭が追いつかない。
でも――
亮平の目は、逃がさない。
亮平💚「患者にとって、何が一番安全か、担当看護師の意見も聞きたい」
静かな問い。
でも、
翔太💙「……あの」
少し間。
翔太💙「これ……佐久間さんの、話……であってますよね?」
一瞬。
沈黙。
ラウ男が、肩を震わせる。
ラウ男🤍「はは……そりゃそうだろ」
軽い声。
蓮は小さく息を吐いた。
蓮🖤「説明してない」
亮平は、少しだけ目を細めた。
亮平💚「ああ……そうだったね」
まるで、
今思い出したみたいに。
翔太💙「……」
胸の奥が、ざわつく。
亮平💚「いいよ」
亮平💚「今から説明する」
その声は優しい。
でも――
逃げ場はなかった。
501号室の俳優 佐久間。
担当医 目黒。
舞台稽古中に倒れ救急にて対応。
その後の検査で脳に血栓があることが判明。
主治医 蓮はすぐに手術を薦めたが、患者はそれを
拒んでいるという。
大事な舞台を控えている。それが原因だろう。
亮平💚「患者にとって、何が一番安全か。それに患者本人が望んでない。選択肢は一つしかないだろ?」
翔太💙「……」
頭が、真っ白になる。
分からない。
正しいことなんて、一つも分からない。
でも――言わなきゃ。
一番近くで見てるのは俺なんだから。
翔太💙「……あの人」
小さく、口を開いた。
翔太💙「舞台、あるって言ってました」
翔太💙「だから……」
言葉を探す。
上手く言えない。
でも、止まれなかった。
翔太💙「今、やりたいことを……」
翔太💙「やらせてあげたい、です」
静かになった。
自分でも、正しいかなんて分からない。
でも――
それしか、出てこなかった。
亮平💚「そう」
少しだけ笑う。
亮平💚「いい視点だね」
蓮🖤「……甘いな」
蓮🖤「その間に倒れたら?」
少し間。
蓮🖤「――誰が責任取る」
蓮🖤「その判断で、患者が倒れたら」
怖い……。
自分の無責任な発言が、彼の命を奪うことになったら――
でも、
――また、こっちだと思った。
ラウ男🤍「……力入りすぎ」
ぽつりと。
無意識に握りしめた拳に、そっとラウ男の手が触れた。
温かいその手は、翔太の呼吸を楽にした。
顔を上げると、ラウ男の指先から、
ボールペンが滑り込む。
ラウ男🤍「落とすなよ」
気づけば、手の中にあったボールペン。
雪うさぎのマスコットが、かすかに揺れた。
翔太はそれを、無意識に握り返した。
ラウ男🤍「あげる」
翔太💙「えっ」
柔らかい表情から一転。
蓮と亮平に向けられた視線は厳しいものだった。
ラウ男🤍「現場の声も、要るだろ」
ラウ男🤍「二人とも」
少しだけ笑う。
ラウ男🤍「珍しく、余裕ないじゃん」
翔太は、
何も言えなかった。
手の中のボールペンを、ただ握ったまま。
小さな雪うさぎが、かすかに揺れる。
――また、こっちだと思った。
自分で選んだはずなのに。
どうしてか、
最初から決まっていたみたいだった。
無言で医局を後にした蓮を、追いかけた。
胸ポケットで、雪うさぎのボールペンが、静かに揺れていた。
翔太💙「目黒先生!待ってください」
コツ、
コツ。
どこかで、ヒールの音がした気がした。
春の風が通り抜けていく。
白衣が風に揺れて、蓮の足を止めた。
振り返った蓮は、少しだけ笑っていた。
――まるで、すぐに消えてしまいそうな春の陽だまりのように。
それでも、
視線だけは、離れなかった。