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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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何気ない日常の中で不穏な風が流れていく。晴れることのない雨雲から目に見えない雷の音だけが響き始めては耳を塞ぐ。両親から誕生日サプライズで貰ったお手製の造花でさえもう色褪せた。両親から貰った本はこの色のない部屋の中で唯一輝いている。だから、両親の暖かさに少しでも触れるために本を開いては閉じる、を繰り返している。だから、栞は小説を読むことが好きになったのだ。

スマホを弄りつつ、明日学校へ持っていく教科書のラインナップ表を見て準備を進めていく。ふと、本が持ち物になっていることに気づいた。もしかしたら、本を通して友達を作れるかもしれない。本に興味が無い子も、本に興味が湧くかもしれない。

最初に手にとったのは『象形コラージュ』という多重人格者の姉とその弟のひと夏の物語だ。昨日いた君(姉)は今、僕を見つめている君とは違うというこの小説での現象を空想夢という。その空想夢を元に繰り広げられる意思疎通のシーンが特徴的な純文学だ。

これももちろんお気に入りだ。だが、これはちょっとマイナーなのでは無いのだろうか。もう少し、皆が知っていそうな小説の方が話題を広げられる。友達は作りやすいのかな、なんて邪推が入って相当長い時間悩んで本を開き、それでも『象形コラージュ』が学校で読みたかった。その気持ちだけは栞は譲れなかった。好きなものを読むことは何も悪いことではない。

そもそも、ブックカバーがちょっと渋いため、とてもじゃないが『華々しい高校生』とは雰囲気が根本的に違ってくる。もはや、今からブックカバーだけでも買いに行きたい気分になってきた栞。こじんまりとした綺麗な時計を見るともう午後四時半を指していた。

少し離れた街にある大きくてアンティークな時計台を見つけた。ここから先は都会、先程いた場所とは何かが違う華やかで美しい道が続いていた。所々に生えている剪定された美しくユニークな形をした木が生えていた。

ここでなら、きっと好みのブックカバーを手に入れることが出来そうだ。栞は期待を高鳴らせつつ一つ目の『雑貨屋カトリー』というカラフルな雑貨屋へ入った。だが、そこにはブックカバーがなかったため泣く泣くその場を後にした。ブックカバーなんてそう簡単には売っていない。あの渋いブックカバーは旅行先の京都で両親がお土産として買ってくれたものだ。こういう洒落てる街にあるとは思えなかった。二つ目の「スターターペイント」というシックな文房具店へ入った。やはりほとんど文房具だったが、少し角を進んで行くに連れて本のコーナーの看板が顔を出した。そこに運良くブックカバーのレーンがずらりと並んでいた。無地のシンプルな物から、柄物まで流見しかしていないがざっと千種類以上ある。しかも、お洒落なことに本棚のような棚の上に置かれている。見栄えは美しく、どこか素朴な様子だ。

「純白鈴蘭の刺繍⋯⋯?」

一点物のように飾られているそのブックカバーを店員に見せにいくと、店員は

「あ、もうその残っている一点しかございません。」

と、お辞儀をした。

「でしたら、こちらを購入させて頂きたいのですがよろしいですか?」

「あ、お会計でしたらこちらのレジにお並び下さい」

栞は当たり前かのように

「無人レジを使います。お気遣い感謝致します。」

と、立ち去った。あんな田舎町に無人レジは設置されていないのだ。一度歩けば、こんなに栄えてる街に出られる。そもそも、田舎町にレジは無い。手渡しでシールが貼られて、そろばんで値段を計算する。それが当たり前の光景だった。

都会にある無人レジは真っ白で綺麗だった。そもそも会計で蜘蛛に気をつけながら待機しなければならぬ衛生環境が問題ではあるのだが。それは、また別の話。

ピッという音がぽんっと振動すると

「ほぉ⋯」と、栞は声を漏らす。温めていた空気が白く濁って季節外れの霜を見せた。

店の扉に見せたその霜は氷のように半透明で滴り落ちている。店の外と中との温度差と田舎と都会の温度差を感じつつレジから離れ、店をゆっくりと去った。

久しぶりの都会の喧騒に耳が慣れない。田舎と呼ぶに相応しくない栞の地域はここと比べると田舎に見えてしまうのだ。それは仕方がないことだ。人間、何かとモノを比べなければならぬ生き物なのだ。

紛失ノンストラテジー

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