コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
肌触りの良い、暖かな陽光が真白いキャンバスに色を落とす。世界が少しずつ色を取り戻し、ミモザ
の花が芽吹き始める今日この頃。 国と国とをを往来する人々の群れに呑まれ そうになりながら、今
日ばかりは僕も夢見心地な春の空気に浮かされていた。だって、今日はドイツに会えるから。今
日をどれだけ待ち侘びたことか。
「おい、イタリア。」
木琴の音色を思わせる彼の声はどことなく懐かしみと帯びていて、それがどうにもメランコリックな
気分 を引き出させる。
「ドイツ!久しぶりなんね!!」
「ああ、4ヶ月振りだな。元気にしてたか?」
まあ、彼といればそんな気分もすぐにどうしようもない幸福感に覆い隠されてしまう。
「お前が遅刻せずに来るなんて珍しいな。今日は槍でも降るんじゃないか?笑」
「はぁ!?ioはいつだって遅刻なんかしませんけど!?」
相変わらず失礼なことを言う。全く、一体僕をなんだと思っているのか… まあ、事実なんだけど。
「でも今日はドイツに会えるの楽しみにしてたからね!」
そうか、と言ってふわっと笑みを浮かべる君を見ると、なんだかホッとする。春の訪れに掻き乱され
心の内が一瞬にして暖かくなる。
「じゃ、行こっか!ioの家に!!」
僕達は仮にも国。今日の約束は個人的なものなのだからいつまでも外にいるわけにはいかない。万が
一国民 に見つかりでもしたら面倒なのだ。なんせ僕達の国民同士はすこぶる仲が悪い。だから、 僕
は 彼 の手をとり人に溢れた空港を足早に立ち去った。
***
「相変わらず美味いな、お前のとこの料理は。」
「そうなんね?まあ、io料理には自信あるからね!」
家に着いた頃は既にお昼時。僕は彼にピッツァを振る舞っていた。決してピザではない。ピッツァ
だ。何故だかピザとピッツァを一緒にする人が多いのは困りものだ。まあ、今は一旦置いておこう。
「ね、ドイツ。今回はいつまで滞在できるの?」
「2週間くらいだな。仕事も置いてきてしまったし…」
彼は相変わらず真面目すぎるのだ。昔からずっと変わらない。1人で色んなものを抱え込み、挙げ句
の果てに全てを失ったあの日から。
…? それは、いつの話?
「大丈夫か?イタリア」
「わ!?どうしたんね!?」
気が付けばドイツは料理を食べ終わって僕の真隣まで寄ってきていた。その上耳元で話すものだか
ら、本当、心臓に悪い…
「考え事してただけなんね。だから心配しなくて大丈夫!」
「そうか?お前が考え事とは珍しいな笑」
…本当、性格の悪い国。
それからたわいもないお喋りをして、その日の夜は別々の布団で眠りについた。
その夜、昨日と同じ夢を見た。君が死んだ日の夢を。
第二話 深淵