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ユキ
28
新しい車が納車された日。
仕事を終えた私の家の前に、一台の新車が止まった。
窓が開いて、ヤマが笑う。
「一番に乗りたいやろ?」
その言葉が嬉しくて、思わず笑ってしまった。
助手席に乗ると、新車の匂いがした。
「今日、行きたいとこあんねん。」
「どこやと思う?」
車を走らせながら、ヤマが楽しそうに聞いてくる。
「ヒントは?」
そう聞くと、少し照れくさそうに笑って言った。
「めっちゃくさいこと言うけど……思い出の場所。」
向かった先は、海と夜景が一緒に見える場所だった。
浮気が発覚する前。
二人で何度も笑った場所。
走り回って。
子どもみたいにはしゃいで。
息が切れるまで笑った場所。
あの夜だけは、時間が止まっているようだった。
今回は走り回ることもなかった。
ただ車を降りて、並んで座る。
静かな海を眺めながら、ゆっくり話をした。
言葉が途切れても、不思議と気まずくはなかった。
コメント
1件
第51話、読み終わりました。新車の匂いと、思い出の場所へ向かうヤマさんの「めっちゃくさいこと言うけど」という照れくさそうな口調が、すごくその人らしくて印象的でした。あの頃は走り回って笑った場所で、今はただ並んで座って静かに海を見る。同じ場所なのに時の流れを感じさせる時間の使い方が、胸にじんわり来ました。言葉が途切れても気まずくないって、ほんとに信頼がないとできない関係ですよね。