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数日して、私達は近場の温泉旅館に向かった。
祐誠さんが車を運転してくれて、私は助手席に座った。
旅行なんて、ただでさえワクワクするのに、隣にこんな素敵な人がいて……それだけで嬉しさは倍増した。
1時間半くらいで到着し、その旅館の前には女将さん始め、たくさんの方が出迎えてくれていた。
さすが榊グループの御曹司だ。
「おかえりなさいませ、お坊ちゃま。お待ちしておりましたよ」
「ただいま、女将さん。久しぶりにお世話になります。雫、こちらは女将の田中さんだ」
70歳後半くらいかな? とても上品な方だ。
着物姿が美しい。
「はじめまして。美山 雫と申します。よろしくお願い致します」
私は、ちょっと緊張しながら深く頭を下げた。
「まあ、本当に可愛らしいお嬢様ですね。お坊ちゃまが彼女さんを連れていらっしゃるなんて……本当に嬉しい限りです」
お、お嬢様って……
私はそんなタイプじゃないのに。
「女将の田中さんにはね、俺が子どもの頃から本当にお世話になってて、昔はよく家族で来ていたんだ」
思い出深く語る祐誠さん、嬉しそう。
「お坊ちゃまは、それはそれは可愛かったんですよ。頭もお顔も良くて、礼儀正しくて。あんなに小さかったお坊ちゃまが……こんなに立派な社長さんになられて。しかも、初めて女性をお連れになられて、とても感慨深いです」
「第2の母みたいな感じだ……女将さんは。ただ、その『お坊ちゃま』はもう止めてくれないか」
少し照れた顔で言う。
「あら、私にとってはお坊ちゃまはいつまでもお坊ちゃまですよ。少しおしゃべりが過ぎましたね。さあさ、お部屋にご案内致しましょう」
私達は女将さんや出迎えてくれた方々に一礼して、仲居さんに着いていった。
通されたのは、1番見晴らしの良い最高級のお部屋だった。
「素敵……」
「ここからは、美しい湖とその向こうに山が連なって見えます。ベランダの露天風呂に入って頂けますが、夜の景色も格別ですので、ぜひどうぞ」
仲居さんがお茶をいれながら言った。
ベランダに露天風呂が……嬉しいけど、自然に赤面する。
その時、祐誠さんは女将さんに話があると言って出ていった。
「美山様。私は先程の女将の孫なんです」
「そうなんですか?」
そう言えば、どことなく似てるかも。
「はい。母も若女将として働いております。私はまだ修行中で」
私より少し年下かな?
「頑張ってるんですね。お若いのに偉いです。いつかはここで女将さんになるんですよね」
「はい。まだまだ未熟ですけど、頑張ります。祖母みたいに皆様に愛される女将になりたいので。今回、榊様が予約をいれて下さった時、美山様のこと……大切な人と行くからって祖母に言ったそうなんです。祖母は、ずっと榊様のことを心配してましたから。それはそれは本当に喜んでいました」