シード権を得たチームの試合が始まる第三回戦では、先ほど戦ったばかりの勝ち上がったパーティが戦うこともしばしばある為、そのようなパーティの為に、救護室には治癒術師だけでなく、国家騎士専属の魔力回復に特化した医療班により、魔力回復が行われていた。
モモ・フレア率いる魔法学寮の平民の魔力であれば、すぐにその魔力は全快にまで回復していた。
しかし、試合の相手が “神童・雷帝レオ” と覚悟していた面々、特にほぼ前衛を任されるナイト、アイク・ランドには、汗が滲み、苦い顔を露呈させていた。
二日間しか行われない公式戦では、準備が整い次第、刻一刻と次の試合が執り行われる。
そしてまた、その非情なる試合も、淡々と終わる。
試合のゴングが鳴り響く瞬間、レオは剣を掲げる。
「ふぅ、一分ね……。殺しちゃダメだよ」
“草魔法・ホールド”
ルークは指を輪っかにすると、目に持っていき、全員を視界に移すと、全員の身体からは草の魔力が込められる。
これだけでは、特にダメージなどはない。
しかし、
“雷鳴剣・稲光”
ゴォッ!!!
激しい落雷がモモのパーティを包み、アイクの水の防御も、全ての支援魔法を悉くを火力のみで粉砕。
まさに一撃にして四人を気絶させ、会場は歓声に包まれるどころか、呆然とその光景に静まり返る。
MCの慌てたアナウンスにより、モモのパーティは静かに運ばれて行き、レオたちも淡々と立ち去った。
「アレが…… “草と雷の激化” …………」
呆然と見入るのは、ヒノトもまた同じだった。
魔族 セノ=リュークとの戦闘では、相性の悪さもあったせいで強みを見せられなかったが、ヒノトは認めざるを得ないことを悟る。
「今大会で一番強い魔法属性の掛け合わせか…………」
微細なシールドや、初級魔法のビルアスでは到底敵わない威力、雷帝と言わしめるレオの圧倒的力。
これは、他のパーティ全てをピリピリと威圧した。
しかし、呆然と見入る観客席の中で、ただ一人、レオとルークの動きを目で凝らす者がいた。
『続きまして第四試合、南門、キルロンド学寮より、前衛 ソードマン、リゲル・スコーン。中衛 ウィザード、カナリア・アストレア。中衛 メイジ、シャマ・グレア。後衛 シールダー、キャンディス・ウォーカー』
サイバーソードを構え、一年生ながらに凛とした姿勢で三人の前を歩く、リゲルただ一人は、レオの威圧に気圧されることなく、目の前の試合を見据えていた。
『続きまして西門、貴族院学寮より、前衛 ロングソードマン、キース・グランデ。前衛 メイジ、イーシャン・ブロンド。中衛 ナイト、ユス・アクス。後衛 ヒーラー、リューシェン・ブロンド』
貴族院学寮、水色の髪のあどけない少年の入場に、ヒノトは目を見開く。
「アイツ……あの背丈でロングソードマン……あんなデカい剣使うのかよ! しかも、編成も前衛二人に、中衛にはナイトって、色々おかしいだろ!」
「そうだね…………。確かに、彼らの編成はソルくんたちの編成並みに普通では考えられない……。しかし、彼らは貴族院学寮の中でトップ2と言わしめる実力を秘めているんだ……。常軌を逸した編成だからこそ、嵌ったパーティは恐ろしく強い…………!」
「リゲル…………大丈夫かしら…………」
リリムも、不安そうな顔で会場内を眺める。
最後の別れ、気合いは十分に送ったとは言え、魔族の力の本領を発揮することは恐らく出来ない。
つまるところ、以前DIVERSITYと戦った時の実力、レオのパーティや、ソルのパーティを下した時の実力はまず出せないことになる。
「アイツなら大丈夫だ。見てみろって!」
すると、ヒノトはリゲルではなく、カナリアを指差す。
「カナリア先輩? 私が今心配してるのはリゲ……」
しかし、リリムがカナリアに視線を移した瞬間、リリムもリオンも、ハッとした顔を浮かべた。
カナリアの足元からは、火炎が舞っていた。
「どうして……雷属性のカナリアから、炎が舞い上がっているんだ…………?」
流石のリオンも、魔族の魔法の知識は乏しい。
風紀委員が何をしようとしているのか、全く持って理解はできなかった。
しかし、ヒノトの言う通り、“何かしら考えがある” と言うことだけは、大いに伝わった。
そして、試合のゴングは鳴らされる。
直後、前衛であるキースを置き去りに、メイジのイーシャンと、ナイトのユスが駆け上がる。
それに合わせ、キャンディスは防御魔法を展開させる。
“雷防御魔法・雷衝陣”
「へぇ……雷の防御魔法、珍しいじゃん! でもね、しっかり私の炎で削り取っちゃうよ〜!!」
イーシャンは真っ赤な短髪の女性で、杖を掲げるとダンスを踊るように自分もくるくると回る。
“炎攻撃魔法・炎演舞”
その瞬間、螺旋状の炎がイーシャンの周囲をグルグルと回転し、攻撃と防御を兼ねる炎の渦を展開させた。
「飛ばし過ぎ……後でバテても知らないから……」
次いで、横から静かにナイトのユスも剣を構える。
“水魔法・クワイトレイン”
青髪のユスが魔法を発動すると、イーシャンと同じように、自身の周りに水飛沫の柱を何本か形成させた。
「キルロンド学寮だし、相手の戦力をしっかり見たかったけど…………まあ大丈夫かな」
その瞬間、水色の髪のキースは駆け上がる。
「ウチのエースの攻撃も……全てをぶち壊すから」
“炎魔法・ビルドアース”
その瞬間、後衛にいる赤髪のリューシェンも魔法を発動し、前衛にいる三人がピッタリ揃ったタイミングで、三人の地面に円状の陣を形成する。
“氷鷹剣・氷塊”
小さな身体を大きく翻し、ロングサイバーソードを縦に大きく振り下ろすと、巨大な氷の塊が飛び出す。
そして、その周囲を先ほどの炎と水がグルグルと回りながら、リゲルたちに襲い掛かる。
「あの魔法……さっきの平民パーティと同じ、魔法同士をうまく合体させてる “合体魔法” ってやつか!?」
しかし、リオンは汗をしたらせ、苦い顔を浮かべる。
「いや…………アレは合体魔法なんて生優しいものじゃない…………。もっと高度な、“ただ純粋に個々の魔法を放っているだけ” だ…………」
「は…………? それじゃあただ魔法を放ってるだけだろ…………? 合体魔法の方が高度じゃないの?」
「いや、普通、味方とは言え、魔法同士が近い位置にあれば、うまく合体させない限り互いに消滅させ合ってしまうんだ。それを利用するのが、“感電” であったり、“過負荷” であったりするんだけど、アレはね…………繊細な魔法を扱うスキルにより、ギリギリの範囲で魔法がぶつかるのを防ぎながら、相手に三種類の属性魔法を与えようとしている…………。どんな属性の防御魔法を纏っていても、どれかが弱点属性となり、残りの二つが確実に相手に大ダメージを与える高度中の高度な連携だ…………!」
「それじゃあ……どんな防御を張っても…………」
「そうだ……あの魔法を放たれる前に攻撃を仕掛けない限り、恐らくアレには対抗できない…………! カナリア…………!!」
ゴォン!!!
そして、炎と水を纏った巨大な氷塊は、大きな音を立てて、リゲルたち全員を縦横無尽に直撃した。
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