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巨大な氷塊にぶつかり、雷のシールドは炎に砕かれ、 “炎×水による蒸発反応” 、 “氷×水による凍結反応” 、そして更に、蒸発が追い付かなかった後衛の戦士に対し、凍結させた後の “凍結状態に炎で溶解反応” を起こす、ただの膨大な攻撃ではなく、相手にぶつかった瞬間に多様な属性反応を巻き起こす攻撃として、風紀委員の全員はその場に伏せられてしまった。
王族であるレオやルークが目立っていたが、ここに来て貴族院の本気を改めて見せ付けられ、会場は大きな歓声に包まれていた。
「これこそが魔法バトル! これこそがプレイバーゲームの醍醐味だよなぁ!!」
中には、大興奮でこんな言葉を向ける魔法ファンのおじさんも声を荒げていた。
MCも、再び一瞬で終わった試合に困惑しつつ、マイクを握り締め、貴族院学寮の圧倒的な勝利を宣言しようとしたその時 ――――――
ボウッ!
“炎魔剣・業火”
突如、目の前に倒れているはずのリゲルは、キースの眼前に炎を出現させ、自ら剣を構え相対する。
「お前…………そこに倒れているのは…………!」
“雷攻撃魔法・グロウサンズ”
“炎魔法・ヒートグラウンド”
ガガガッ!!
キースら前衛の三人が困惑を露わにしている途端、後衛のリューシェンの背後には、目前で倒れているカナリアら三人が回っており、 “雷×炎の過負荷反応” により、リューシェンを吹き飛ばした。
「リューシェン…………!!」
「姉さん…………ごめ…………」
リゲルは剣を構えると、剣に炎を纏わせる。
「これが……スコーンの息子……魔族の力かよ……!!」
「確かに……炎魔剣は強いです。ですが、やはり僕に炎魔剣の全てを扱うことは出来ませんでした」
「だとしたら……この力は…………!?」
「僕たち全員…… “パーティの力” です」
“雷魔法・雷円陣”
その瞬間、キャンディスは両手を広げ、微々たる電撃ではあるが、並んでいる三人を雷の円で囲んだ。
「ヒノト……俺も自分の力で戦うよ……」
“炎虎剣・炎舞”
ゴォッ!!
リゲルが横薙ぎに剣を振るうと、剣からは轟々とした炎が舞い上がり、キャンディスに仕掛けられた “雷×炎による過負荷反応” をモロに喰らい、三人同時に壁へと大きな音で叩き付けられた。
満身創痍なキースは、膝を突きながら睨む。
「そうか……お前の “雷洗脳魔法” か…………。しかし、未だ倒れている姿がある。いくら元王族とは言え、我々四人、いや…………会場内全ての人間に幻覚を見せるほどの洗脳の魔力量は無いはずだ…………」
しかし、言い終わった後にキースはハッとする。
「分かったかい? これは、リゲルくんの魔族の力と、僕の洗脳魔法を組み合わせたもの。皆さんお馴染み、シンプルな “魔力の譲渡” 。しかし、リゲルくんも僕も、到底魔族の力なんて扱えない。だから、少しの力をお借りして、 “会場内の全員” ではなく、 “僕たちだけ” に洗脳魔法を使い、幻影のみをその場に見せている」
「そんな発想…………一歩でも間違えたら、お前たち全員が魔族の力によって理性を失くす…………。どうして、そんな賭けみたいなことが出来るんだ…………」
そんなキースに、今度はリゲルが言葉を返した。
「僕とカナリア先輩だけが魔族の力を使うわけでは無く、全員に分担させているからです。元から微弱であれば、理性を失うことはない。その中で、僕たちができる最善手を考えてきた。課題はもう……超えてきたんです」
そして、試合続行は不可能と見做され、風紀委員の勝利のアナウンスが鳴り響いた。
――
そんな中、控え室のソルがほくそ笑む。
「それなりに力は付けてきたみたいだね……」
SHOWTIMEの全員の顔付きは、ギラギラと闘志を燃やしていた。
「でも、課題を超えるだけじゃ僕たちには勝てない。僕たちは、出来得る全てを超えてきた……」
次いで、ソル率いるSHOWTIMEと、貴族院学寮から、真っ赤な長い髪を翻す女性メイジが前衛を務める貴族院のパーティが入場する。
試合のゴングが鳴り響くと、途端に貴族院のメンバーたちは全員が一斉に魔法を発動した。
“炎魔法・ビルアス”
“水魔法・砂上の雨”
“風魔法・秋風繚乱”
三人の魔法は、ソルたちではなく、全員が赤髪のメイジへと集められる。
“炎攻撃魔法・グランドファイア”
ゴウッ! と舞い盛る炎は、仲間たちの支援魔法により更に巨大に膨れ上がり、観客席にまでその熱が伝わる。
「ソル、俺たちは何分で終わらす?」
「そうだね…………」
ソルは、早く戦いたくてウズウズしているロスの言葉に細目で笑いながら答えた。
「今、終わらす」
“風魔法・乗算”
ゴワッ!!!
「えっ、えっ、えっ!?!?」
その途端、巨大な炎魔法を溜め続ける赤髪メイジの足元から、静かな風が舞い込み、次第に巨大なハリケーンが生まれ、炎魔法を掻き消すのではなく、逆に利用し、巨大な炎のハリケーンを生み出した。
そして、風が止んだ時には、パーティ全員が気絶させられていた。
「運が悪かったね。君たちの魔法の組み合わせはすごく良かった。でも、風パーティの僕たちの前では、君たちの攻撃魔法すら、僕たちの餌食だ……」
咄嗟に、MCのアナウンスが鳴り響き、レオに次ぎ、キルロンド学寮の瞬殺に、会場は騒然とする。
今年のキルロンド学寮生は一味違う……と。
「ふふ、It’s Showtime だ…………」
そして、ソルたちはたった一人の、一つの魔法により勝利を収め、その場を颯爽と去って行った。
「な、なあ、リオン…………。ソルの奴……あそこまでの力を秘めてたのかよ…………。俺、正直アイツがそこまで強い魔法を発動したとは思えないんだけど…………」
「アレはシンプルな “拡散反応” だよ……。風属性って言うのはね、岩と草以外の、自然系属性の全てと “拡散反応” と言うものが起こせるんだ……」
「拡散ってことは、散らばるってことだろ……? なんであんな強力になるんだ…………?」
「相手が強力な炎魔法を溜めていたから、咄嗟にあの魔法を選んだんだろう……。本来、“拡散” の効果ってのは、ヒノトくんの言う通り、『散らばらせる』ことで、広範囲に自然系属性の魔法を広げる効果がある。しかし、彼はそれを、『相手の魔法を利用』し、巨大な風魔法を広範囲に向けることで、自分たちに降り掛かるはずだった攻撃を、むしろ相手の自滅に追い込ませたんだ…………」
「そんな効果があるんなら、風紀委員との戦いも、魔族との戦いも、アイツがいれば勝てたんじゃ!?」
「隠してたんだろうね…………。ソルくんはこの公式戦のことしか頭になかった。ここで全てをぶつける為に。今までは、風パーティとして、全員が風魔法を影響させ合い、支援魔法を主軸に戦ってきたけど、これがソルくんの隠し種…………。『相手の攻撃を自滅に追い込ませる程の拡散の使い手』と言うことだね…………」
「そんなの……風属性最強じゃねぇか…………」
「そうとも言えない……。あそこまでの拡散力、風パーティとして成立させるレベル……。きっと、あの四人でなければ不可能に近い……。普通は、仲間の支援に徹したり、治癒に徹する属性だからね……。限られた者にしか出来ない芸当だよ…………」
会場内がソルの拡散に騒めきながらも、それを掻き消す大声で、観客席から未だ整っていない会場に飛び降り、大声を上げる男が現れた。
「ンナッハッハッハ!! キルロンド学寮、相手にとって不足はないようだ!! 腕がなるぞォ!!!」
「アイツ…………!!」
突如、満面の笑みで飛び降り、準備すらしていない中で大声を上げたのは、次で本日最後の試合、DIVERSITYの相手になる、貴族院学寮から来た、紫髪の背丈の高い男だった。
「さあ、早く出てこい! DIVERSITY!!」
その声に、全員は静まり返る。
「いや……まだ会場の整備終わってないし…………」
半ばポカンとしつつも、DIVERSITYの四人は、本日最後の試合に向け、控え室へと足を運んだ。