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昼休み。
いつもは活気で賑わう職員室も、この時間だけは少し静かだった。
若井はデスクに突っ伏したまま、何も口にしていない弁当を見つめていた。
胸がズキズキと痛む。
――心の奥が、ずっと疼いていた。
大学時代から付き合っていた彼女から、
「もう無理」と、一言だけ。
「教師って、大変なんだね」と、穏やかに笑って別れを告げられた。
そうだ。
“生徒を守るために、何ができるか”ばかり考えていた。
でも――その分、自分自身は誰にも守られてこなかった。
職場では、保護者からの理不尽な電話に頭を下げ、
授業準備に追われ、休日は部活動。
何が正しくて、何が間違いなのかも、もうよく分からなくなっていた。
**
放課後。
吹奏楽部の音が遠く響く廊下を、若井は無表情で歩いていた。
その足取りは、どこか焦燥に駆られているようでもあった。
音楽準備室の前で立ち止まり、ノックもせず―― ドアノブを回して、そのまま入る。
藤澤が、机に譜面を広げていた。
振り返るなり、目を丸くする。
「えっ、若井先生? ノックくらい――」
バタン。
背後で、鍵がかかる音。
「……どうしたの?」
その問いに、若井は笑った。
けれど、頬には涙の筋。
「ねぇ……涼ちゃん……」
「……?」
「今度は、俺を癒してよ……」
そう呟いた若井の顔は、どこか壊れたような笑みを浮かべていた。
藤澤が言葉を失う。
次の瞬間、若井は一気に距離を詰めてきた。
「ちょ、若井先生、ま――」
その言葉ごと、藤澤の唇を奪った。
貪るような、衝動的なキス。
切なさと、苛立ちと、寂しさのすべてを押しつけるような――重たい熱。
「んっ……!」
舌が絡み、息を奪い合う。
藤澤の両肩を押さえつけ、椅子に押し倒す。
「涼ちゃん……俺、今日はもう……頭ん中ぐちゃぐちゃで……」
呟く若井の目は、涙で濡れていた。
「――俺のこと、癒してよ……お願いだから……」
彼は自分のズボンを乱暴に外すと、藤澤の頭を優しく、けれど強く抱え込む。
「……ね、お願い……口、使って……」
藤澤は戸惑いながらも、若井の悲しげな瞳に抗えなかった。
――その目は、助けを求める子どものようで。
けれど、その欲望は大人の男そのものだった。
彼の頭を包む手に導かれながら、藤澤はゆっくりと若井を咥える。
「あっ、く……っ、は、っ……!」
若井の腰が衝動的に動く。
堪えきれず、何度も、何度も突くように喉奥を責める。
「んぅうっ…いきなりすぎ…んっ…」
「…離すなよ。そう、 舌出して…もう、イキそう…っはぁっ…」
快感に震え、涙が滲むような吐息が漏れた。
「……涼ちゃん、っ…出るっ……ぁあっ!」
藤澤の頭を抱え込んだまま、絶頂を迎える。
甘く、濃い衝動の余韻に、若井はしばらくその場に崩れるように座り込んだ。
藤澤は、口元を拭いながら、静かに立ち上がった。
「…びっくりした。でも、こういうの嫌いじゃない。ねぇ、今度は俺の番だよ。」
その瞳の奥には――
ゾクリ、と背筋を撫でるような“熱”が、確かに潜んでいた。
**
それからというもの、隙あらば2人は音楽準備室で逢瀬を重ねた。
ノックもせず入ってきた若井を、藤澤が当たり前のように受け入れる。
更に、時にはトイレの個室。
吹奏楽部の楽器庫。
どこでも、互いの唇に口づけ、身体に甘え、快楽を求めた。
お互いを受け止めてくれる存在に――
もう、すべてを預けてしまいたかった。
それが“愛”ではないと、2人ともどこかで気づいていた。
けれど、“愛じゃない”からこそ、やめられなかった。