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それは遥か昔の事、
北の氷山、南の火山
北には人間の集落があり
南には鬼の集落があった。
ある日、南に住む小鬼の娘は
森の影から 人間の集落を見ていた。
彼女は人間の暮らしに憧れていた。
服があり、食べ物があり、家がある。
朝に目覚め、家族と共に朝食を摂る。
昼は働き、夜は暖かな布団で眠る。
その全てが羨ましく思った。
自身の生活とは全くの別物であると
幼いながらに彼女は思った。
「私にも、ああいう家族が欲しいな…」
しかし彼女は鬼の一族。
服は切れ端、食べ物は生魚、洞窟で暮らす。
夕に目覚め、自分の食い扶持は自分で賄う。
夜に働き、朝は枯れ草を敷いて眠る。
何より鬼の彼女と人間とでは
見た目が全く異なった。
赤の肌にボサボサの黒い髪。
爪は鋭く、 大きな牙がある。
そして何より薄汚かった。
彼女は思った。
「人間のようになりたい」
彼女は人間の集落を輝く瞳で見ていた。
家の扉が開き、人間の少年が姿を現す。
白い肌にふわふわの金の髪。
爪や耳は丸く、牙もない。
鬼の娘は初めて恋をした。
禁忌であると分かっていた。
入ってはいけないと分かっていた。
森を抜けて北の…人間の集落に入る
冷たい風がヒリヒリと肌に刺さる。
体の色は薄くなりピンク色になっていた。
いきぐるしい。
それでも想いは止められなかった。
「初めまして…」
鬼の娘は人間の少年に声をかけた。