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駐車場から歩くこと約二十分、登山道から逸れて少しだけ足場の悪い道を進んで行くと、沢が見えてくる。


木々に囲まれる中、澄んだ水が流れている。


歩いてきたことと蒼央とずっと手を繋いでいたからか、体温が上がっていた千鶴は少し暑さを感じていたので、水辺に寄って沢に流れる水に手を触れた。


「冷たいっ」

「千鶴、落ちないように気を付けろよ」

「はい、分かってます」


水を冷たがっている千鶴の横で岩場に荷物を置いた蒼央は中からカメラを取り出して写真を撮る準備を始めた。


「蒼央さんは、ここに写真を撮りに来ていたりしてるんですか?」

「ああ。ここは登山道から少し逸れている場所にあるから人も来なくてな、ゆっくり自然の写真を撮るのに向いてるんだ」

「確かに、人が来ないとゆっくり出来ますよね。あ、そうだ、実は私もカメラを持って来たんです」

「千鶴も写真を撮るのか?」

「本格的にって訳じゃ無いんですけど、空とかお花とか、そういうのを撮るのは好きなんです」


言いながら千鶴は蒼央の隣に寄ってると、背負っていたリュックを下ろして中からコンパクトなミラーレス一眼カメラを取り出した。


「カメラの知識も全然なので、お店でお薦めしていた物を買ったんですけど……実際あまり使う機会が無くて」

「そうか。なら今日は色々撮るといい」

「はい! 撮りながら蒼央さんの写真技術を学ぼうかなって思ってますのでよろしくお願いしますね」

「ああ、分からねぇことがあれば聞いてくれ」


こうして、二人は自然溢れるこの場所で好きなことをしながら思い思いに楽しむことにした。


蒼央に倣って千鶴も見様見真似で写真を撮り、慣れてくると、写真を撮っている場面や時折煙草休憩をしている蒼央の姿をこっそり写真に収めていく。


一方の蒼央もまた、空や木々、時折飛んでくる小鳥を写真に納めたくて奮闘している千鶴の姿を写真に収めていた。


二時間程そこで過ごした二人。


千鶴にとっては良い気分転換になったようで、来たときよりも笑顔が溢れていた。


車に戻り、蒼央は休む間もなく車を走らせ始めた。


助手席に座っている千鶴は疲れたのかウトウトしかけるも、運転してくれている蒼央に申し訳無いと何とか目を覚まそうとするけれど、睡魔には勝てないようで瞼が下がっていき、眠らないよう必死に目を擦る。


そんな千鶴に気付いていた蒼央は笑いを堪えつつ、気付かない振りをしながら、


「千鶴、もし眠かったら寝てて構わねぇぞ」


さり気なく眠かったら寝てて良いと告げる。


「い、いえ! 大丈夫です!」


声を掛けられたことで一瞬目が覚めたものの、少しするとやはり睡魔には勝てなかったようで完全に瞼を閉じて眠ってしまった千鶴。


信号待ちの際、そんな彼女を優しげな眼差しで見つめた蒼央は少しだけ窓を開けると煙草に手を伸ばして一本取り出してライターで火を点けた。


信号が青になり再び車を走らせながら、今日の出来事を振り返る。


まだ駆け出しのカメラマンだった当時、ああした場所によく足を運んでいた蒼央。


名が売れて忙しくなってからはあまり時間が取れず、疲れもあって休日は家で過ごすことが多くなっていた。


最近では一人で遠出をする気にはなれず、写真を撮りたい時は比較的近場で済ませていた蒼央だったけれど、今日はこうして久々に遠出をしようという気になれたのは千鶴のおかげだった。


一番は千鶴の気分転換になればと思い、こうして遠出を決めた蒼央だったけれど、実は自分が一番楽しめたのではと思っていた。

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