テラーノベル
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阿部は痛む足を引きずりながら、必死に廊下を進んだ。
走るたびに。
足首がずきずきと痛む。
「っ……。」
それでも止まれない。
後ろを振り返る。
目黒の姿はない。
足音も聞こえない。
「……来てない?」
ホールの近くまで来たところで、阿部は目についた部屋へ逃げ込んだ。
扉を閉める。
鍵はない。
それでも今は少しだけ時間が欲しかった。
阿部は扉に背中をつけたまま、耳を澄ませる。
「……。」
静かだった。
目黒が追ってくる気配はない。
「はぁ……っ。」
ようやく息を吐く。
でも。
安心なんてできない。
目黒はもう。
自分の血の匂いを覚えている。
どこへ隠れたって。
きっと見つかる。
「……隠れるのは無理だ。」
阿部は床へ座り込んだ。
ショルダーバッグを開ける。
中から取り出したのは。
調理場で見つけた果物ナイフ。
「……。」
自分が着ている白いワンピースを見る。
裾を掴み。
ナイフを入れた。
ビリッ。
布を細長く割く。
それを何重にも折り。
傷のある足首へ巻いた。
「っ……!」
きつく縛った瞬間。
痛みに顔が歪む。
それでも。
血は少しずつ止まっていく。
真っ白だった布には。
すぐに赤い色が滲んだ。
「……これで少しは走れる。」
立ち上がる。
まだ痛い。
でも。
朝までもう少し。
阿部は部屋を見回した。
窓がある。
そして。
やっぱり。
分厚いカーテンで覆われていた。
阿部は近付く。
さっき書斎で知ったこと。
目黒は。
太陽が苦手。
なら。
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#⛄️
kaede🍁
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「……。」
カーテンを掴む。
勢いよく開けた。
シャッ。
窓の外。
空はまだ暗い。
でも。
完全な夜ではなかった。
遠く。
空の端が。
ほんの少しだけ白み始めている。
「……もうすぐ。」
阿部の表情が変わる。
夜明けは。
近い。
「あと少し……。」
懐中時計を取り出す。
朝まで。
もう長くない。
それなら。
隠れる必要なんてない。
いや。
もう隠れられない。
血の匂いで。
目黒にはどこにいるのか分かってしまう。
だったら。
「逃げながら……。」
阿部は開けたカーテンを見る。
一つ。
考えが浮かんだ。
___________
阿部は果物ナイフをバッグへ戻した。
深く息を吸う。
そして。
扉を開けた。
「……。」
廊下へ出る。
顔を上げる。
「……っ。」
息が止まった。
目の前。
数メートル先。
目黒が立っていた。
「……。」
壁へ寄りかかり。
こちらを見ている。
「遅かったね。」
「……。」
阿部は何も言えない。
目黒の視線が。
阿部の足首へ落ちる。
白い布。
そこに滲む血。
「自分で手当てしたんだ。」
目黒が笑う。
「偉いね、あべちゃん。」
「……。」
阿部は一歩後ろへ下がる。
「でも。」
目黒が鼻から小さく息を吸った。
「分かる。」
「……何が。」
「血の匂い。」
目黒が微笑む。
「すごくいい匂い。」
阿部の背筋が冷たくなる。
「もう隠れられないね。」
「……。」
分かっている。
だから。
もう。
隠れない。
阿部は目黒を睨む。
そして。
踵を返した。
「……!」
走る。
「あ。」
背後で。
目黒が笑った。
「あべちゃん!」
追ってくる。
___________
阿部は廊下を走った。
足が痛い。
それでも。
今までとは違う。
ただ逃げているわけではない。
途中。
窓が見える。
「……っ!」
カーテンを掴む。
シャッ!
開ける。
そのまま走る。
次。
シャッ!
また開ける。
「……何してるの?」
背後から。
目黒の声。
阿部は答えない。
走る。
また窓。
カーテンを開ける。
「……。」
目黒が。
何をしているのか気付いた。
「あべちゃん。」
それでも。
追いかけてくる。
「それ。」
目黒の声に笑いが混じる。
「朝になったら困るんだけど。」
「知ってる!」
阿部は振り返らず叫ぶ。
「だから開けてるの!」
「賢いね。」
「褒めないで!」
「ますます好きになっちゃう。」
「嬉しくない!」
角を曲がる。
また。
窓。
シャッ!
カーテンを開ける。
外は。
さっきより明るい。
「……っ。」
もう少し。
本当に。
あと少し。
___________
階段を駆け下りる。
「痛っ……!」
足首が悲鳴を上げる。
手すりを掴む。
転びそうになりながら。
それでも走る。
目黒の足音は。
一定だった。
本気を出せば。
きっと一瞬で追いつける。
それなのに。
まだ。
追いかけてくる。
楽しんでいる。
「……っ。」
阿部は唇を噛む。
(だったら。)
(最後まで楽しませてあげる。)
捕まらなければいい。
朝まで。
逃げ切れば。
自分の勝ち。
廊下へ出る。
カーテン。
開ける。
次。
開ける。
また次。
開ける。
屋敷の中へ。
少しずつ。
夜明け前の薄い光が入り始める。
今まで真っ暗だった洋館が。
少しずつ姿を変えていく。
「あべちゃん。」
目黒の声が。
すぐ後ろから聞こえた。
「もう疲れたでしょ?」
「……っ。」
「足も痛いよね。」
「平気……!」
「捕まったら楽になるよ。」
「絶対嫌!」
「残念。」
目黒が笑う。
「俺は早く捕まえたい。」
「だったら本気出せばいいじゃん!」
阿部は叫んだ。
一瞬。
目黒が黙る。
「……。」
阿部は走り続ける。
すると。
後ろから。
穏やかな声が聞こえた。
「それじゃ。」
「鬼ごっこにならないでしょ?」
「……っ。」
やっぱり。
遊ばれている。
最初から。
ずっと。
___________
そして。
長い廊下の先。
大きな扉が見えた。
阿部には見覚えがある。
最初に。
友達三人と入ってきた場所の近く。
大きなホール。
「……!」
阿部は扉を押し開けた。
広い。
天井まで吹き抜けになった。
巨大なホール。
そして。
壁には。
何枚もの大きな窓。
全て。
分厚いカーテンで覆われている。
「……ここなら。」
阿部は走った。
一番近いカーテンを掴む。
シャッ!
開ける。
次。
シャッ!
また次。
「っ……!」
足が痛い。
息も苦しい。
それでも。
一枚ずつ。
開けていく。
窓の外。
空は。
確実に明るくなっていた。
「もうすぐ……。」
あと少し。
「朝になる……!」
その時。
ギィィィィ……。
阿部が入ってきた大きな扉が。
ゆっくり閉まった。
「……。」
阿部の動きが止まる。
バタン。
巨大な音が。
ホールに響いた。
「……っ。」
振り返る。
扉の前。
目黒が立っていた。
逃げ道を塞ぐように。
「あべちゃん。」
「……。」
目黒は。
笑っていた。
でも。
今までとは。
少し違う。
開け放たれた窓。
白み始めた空。
そして。
傷ついた足で。
それでも逃げ続けた阿部。
全部を眺めて。
目黒はゆっくり歩き出す。
「あべちゃん、本当にすごいね。」
「……来ないで。」
阿部は後ろへ下がる。
「こんなに長く遊べたの。」
目黒が一歩。
「初めて。」
また一歩。
「……。」
阿部はバッグの中の懐中時計を握った。
カチ。
カチ。
カチ。
夜明けは。
もう。
すぐそこまで来ていた。
コメント
1件
おお……第7話、めちゃくちゃ緊迫してたね。阿部、足を引きずりながらもカーテンを開けていく戦略、すごく頭使ってるなと思った。目黒が「本気出せば捕まえられる」のにあえて追いかける遊び感覚、その余裕が逆に怖い。ラストのホールで扉が閉まる音……あの瞬間、息を飲んだ。夜明けまであと少しなのに、このままじゃ……って。続きが気になって仕方ないよ。