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( うわー、雨だぁ・・・ )
灰色の空を眺め、今朝天気予報を見なかった自分を責める。
つまるところ、傘を忘れた。
コンビニまで走ろうにも、遠いから着くまでにびしょ濡れになる。傘を買う意味がなくなってしまう。
「・・・迎えに来て、とも言えないしなぁ」
そもそもルフィくんは携帯を持っていないため、連絡手段がない。
( 仕方ない、駅まで走ろ! )
濡れてはいけないものはハンカチにくるんで、走り出そうとしたまさにそのとき。
「・・・○○さん!」
「あ、」
最近何かと話しかけてくる、同じ部署の先輩。
「お疲れ様。今帰り?」
「お疲れ様です。そうなんですけど、傘忘れちゃって・・・」
「それは災難だね。だったら、俺も電車通勤だし送ろうか?」
「いやいやそんな、申し訳ないです!」
・・・この人ちょっと苦手なんだよなぁ。
「もう暗いし、危ないから家まで送るよ」
ほら行こう、と言われてしまっては断る理由もないし。
せめて駅まで、とお願いして送ってもらうことにした。
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──
「○○さん、最寄りどこ?」
「○△です。でもさすがに家までは・・・」
「あ、俺そこの二つ後の駅だから大丈夫!」
( そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ・・・ )
明らかに別の目的があるのはわかってる。
あわよくば、と思われているのは間違いない。
家にはルフィくんがいるし、そんな可能性はないとしても。
傘が1本だけ、という理由でやたら近い距離と腰に回された腕に、体がこわばる。
駅に着くまでの時間がやたら長く感じたのは気のせいか、それともこの人が少しゆっくり歩いていたからか。
特に会話もないまま電車に乗り、再び腰に回される腕。
つり革が届かない位置に立ったのが間違いだった。
やはり最寄りに着くまでが長く感じ、やっと改札を出たところで。
「・・・○○?」
彼の、声が聞こえた。
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コメント
8件
続きがッ気になる!!
コメ失礼します とても素敵な作品です応援してます