テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
楽屋に、太智ひとり。スタッフもメンバーも別室へ移動していて、さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かだった。太智はソファーに座ったまま、ぼんやりとスマホを眺めていた。
ふと、視界の端に上着が入る。ハンガーに掛けられた、柔太朗の上着。
「……」
別室では、まだ柔太朗が撮影中。太智はしばらく上着を見つめていた。最近、プライベートで会えていない。
今日みたいに仕事で顔を合わせることはある。顔を見られただけでも嬉しい。声を聞けただけでも嬉しい。
でも――。
気づけば、太智は立ち上がっていた。ゆっくり上着の前まで歩いていく。ハンガーからそっと外す。
そして、誰もいないのを確認するように一度だけ辺りを見回してから、上着を胸元へ引き寄せた。
「……」
襟元に顔を埋め息を吸う。柔太朗の匂い。それから、いつも彼がつけている香水がほんのり残っている。
「……柔太朗や」
思わず目を閉じる。もう一度、深く息を吸った。この匂いが、すごく好きだ。匂いだけで、柔太朗に会いたい気持ちがどんどん膨らんでいく。胸の奥がきゅっと痛くなる。
「……会いたいなぁ」
自分でも笑ってしまう。側から見たら、完全に変なやつだ。本人がいないところで上着を抱えて、匂いを嗅いでいる。
「……変態みたいやな、僕」
そう思っても、離せなかった。むしろもう一度、襟元に顔を寄せる。
「あれ……?」
何かが鼻腔の奥を伝う感覚。太智が少し顔を上げる。鼻先に、赤い雫がひとつ。そして、それがゆっくりと唇の端へ向かって落ちていく。
「……え」
慌てて指で拭う。赤い。
「うそ……」
そのとき。
ガチャ。
楽屋のドアが開いた。
「太ちゃ――」
柔太朗の声が止まる。太智も固まった。手には柔太朗の上着。そして、鼻血。数秒の沈黙のあと、柔太朗は太智を見つめたまま、ふっと優しく笑った。
「……おぉ、おー」
少し困ったように、それでも嬉しそうに笑いながら近づいてくる。太智が慌てて上着を抱え直す。
「ご、ごめんっ」
「うん」
「ごめん……」
「うん」
柔太朗は何度でも優しく頷く。柔太朗の手が、そっと太智の頬に触れた。太智は膝から力が抜け、ずる、とその場にしゃがみ込む。
「ごめん……」
「うん」
柔太朗も太智に合わせてしゃがみ込む。目線を合わせるように少し身体を傾け、太智の顔を覗き込む。
「太ちゃん」
「……ん」
柔太朗の手に鼻血がつくかもしれない。それでも気にする様子はない。
「大丈夫?」
太智が小さく頷く。柔太朗はそのまま、太智の頬を包むように手を添え――
そっとキスをした。軽く触れて、離れる。太智が驚いたように目を瞬く。柔太朗は微笑んで、今度は少しだけ角度を変えて。もう一度、優しく唇を重ねる。
離れたあと、柔太朗は自分の唇の端についた赤い跡を指で拭った。
「……ついた」
「ごめ……」
太智の声が震える。なぜか、涙まで滲んできた。
「ごめん、ごめんなっ……」
「太ちゃん?」
「柔太朗の服見てたら……」
涙が一粒、頬を伝う。
「匂い嗅いでもうて……最近、会えてへんなって……」
柔太朗の表情が、さらに柔らかくなる。
「うん」
「今日会えたのも嬉しかったんやけど……もっと会いたくて」
「俺も太ちゃんに会いたかったよ」
柔太朗は太智の目元を親指でそっと拭う。
「明日も仕事?朝から?」
「……午後から」
「じゃあ、少しだけ家来れる?」
太智の目が、ぱっと上がる。
「……行きたい」
即答だった。柔太朗は小さく笑う。
「じゃあ、来て」
「うん……!」
太智がまた涙をこぼす。柔太朗はそんな顔を見つめながら、心の中で思う。
鼻血が出てても、泣いてても。こんなに可愛い顔ってあるんだな。自分の服を抱えて。自分の匂いを嗅いで。会いたかったと泣いている。一つ年上の太ちゃんがたまらなく愛おしい。柔太朗はそのまま太智を抱きしめた。
「……」
太智も腕を回そうとするが、少し躊躇する。
「血、服についてまう」
「うん。ついちゃったね」
「ごめん……っ」
「んふふ」
柔太朗は背中をゆっくり撫でる。
「俺がやりたいの」
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
「もっとくっついて」
太智も背中に手を回し、ゆっくり顔を上げる。そして、少しだけ背の高い柔太朗を見つめた。そこにあるのは、ただ優しいだけじゃない。自分が大切にされていると、ちゃんと分かる目。
太智の表情が、とろっと緩む。
「柔太朗ぉ」
「ん?」
「えっちしたいわ」
柔太朗は目を細めて笑う。
「あとでいっぱいしようね」
「うん」
柔太朗は太智の髪を撫でる。
「……俺もめっちゃしたい。一緒だね」
しばらく抱きしめたあと、柔太朗がそっと身体を離す。
「ちょっと待ってて」
濡らしたハンカチを持って戻ってくる。
「上向いて」
「ん……」
言われるまま顔を上げる太智。柔太朗は、目元に残った涙や鼻血の跡をひとつひとつ丁寧に綺麗にしていく。
「痛くない?」
「うん」
「よかった」
柔太朗の指先が頬を撫でる。太智はすっかり力を抜いて、その手にされるがままになっていた。
「……柔太朗は明日仕事?」
「俺はないよ。……太ちゃんが大変じゃなければお泊まりでも」
「っ!ええの?」
「もちろん」
「泊まりたい!楽しみやなぁ!」
「俺も」
太智は目を細めて笑う。撮影が終わったら。久しぶりに二人きりになれる。家に行って、いっぱい話して、いっぱいくっつける。
そのことを思うだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。太智は、まだ少し赤い目元のまま、柔太朗の肩にこてんと頭を預けた。
「……早く夜ならんかなぁ」
「もう一回嗅ぐ?夜まで我慢する?」
柔太朗も太智の頭に頬を寄せる。
「んー……嗅ぐ」
太智はニヤッと笑って、ふざけて犬みたいに嗅ぐふりをし、柔太朗は口を大きく開けて笑った。
____________
自由に捕らわれる。パロです。
わたしはいつまで捕らわれるんですかね。ときめき止まらなくて小説も買っちゃいました。中学生から高校生役のピュアピュア24歳💙がかわいすぎて。
コメント
13件
待って私の大好きな…いやぁぁぁぁぁぁ😭本当に大好き!それに今しおたろうめちゃハマってるから本当に最高級の供給!本当にありがとう😭😭😭😭
自由に捕らわれるパロ最高です・・・!まさかしおたろうで読めるなんて・・・!あの鼻血シーン私も頭から離れません。なんであんなに儚い演技が上手いのか頭抱えます・・・。タクミくんのラストの長セリフも良かったですよねー。たまにどちらも見返してしまいます。