第三話 幽々子と妖夢との話会い
白玉楼の柔らかな日差しが居間の障子から差し込む中、穏やかな空気が流れていた。夜空夢は久しぶりにこの場所を訪れ、懐かしい空気と静けさに包まれていた。
「まさか……夢が帰って来ていたなんて」
西行寺幽々子は微笑を浮かべながら、驚きと嬉しさを滲ませた声で言った。
「気がつかなかったわ」
「まぁ……今さっき来たところですから」
夢は照れくさそうに肩をすくめた。
「そういえば……」と幽々子は何かを思い出したように続けた。
「紫が、あなたに会いたいって……泣きながら言っていたのよ」
「ほんとですか?」
夢は目を見開いた。
「本当よ。だから……なるべく早く会いに行ってあげてね」
少し沈黙が流れた後、夢は俯きながら答えた。
「まぁ……なるべく早く会いに行きます」
幽々子は夢の表情を見つめながら、静かに指摘した。
「あまり……会いたいと思っていない顔をしているわ」
「そうですか?」
「ええ……」
夢は溜息をついた。
「まぁ……あまり会いたいとは思っていないですけど……」
「どうして?会いたくないの?」
「会ったら会ったで……めんどくさいので」
その答えに、幽々子は苦笑した。
「それはそうね。昔から紫はあなたのこと、大切にしてきていたから……久々に親子水入らずで話してあげてね」
「……はい」
その時、控えていた妖夢がふと声を上げた。
「あのー」
幽々子と夢が振り返る。
「私の存在を忘れていますよね?」
二人は顔を見合わせ、同時に謝った。
「完全に……」
「忘れてた」
「酷くないですか!?」と妖夢が頬を膨らませた。
「ごめんね」
「ほんとごめん」
それでも妖夢は笑って首を振った。
「まぁ……怒ってはいませんけど……夢に聞きたいことがあって」
「何?」
「幽々子様とは、どのようなご関係ですか?」
「昔、たくさん遊んでくれた……お姉ちゃん的な感じ、かな」
「私は……弟のような感じね」
幽々子が楽しげに付け加える。
「そんな感じなんですね……」と妖夢は納得した様子。
「だから、幽々子お姉ちゃんって呼んでもいいのよ」
「えっ!?」
思わず妖夢が驚く。夢は少し照れたように頷いた。
「まぁ……いつか、多分……呼ぶと思う」
「多分なんだ……」
「幽々子さんは、呼んでほしいんですか?」
「まぁ……たまに呼んでほしいと思ったことはあるわね」
「へぇー」
「呼ぶつもりはあるの?」
「さぁ……わかんない」
話が一段落したところで、幽々子がふと尋ねた。
「そういえば……これからどうするの?」
「そこは……考えていなかったな」
「考えてなかったなんて……」
「次は……母さんに会いに行こうかなって」
「会ったら泣きつかれるかもね」
「そう、だから……あまり会いたいとは思えないんだよね」
「つまり……めんどくさいってことだったんだね」
妖夢が頷く。
「うん……」
幽々子はクスッと笑った。
「そういえば、紫さんとは親子なんですよね?」
「うん」
「でも……なんで苗字が違うの?」
「前に聞いたけど……」
「聞いたけど?」
「忘れた」
「えっ!? 忘れちゃって大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ……大層な理由じゃなかったと思うし」
「自信がない言い方じゃん……幽々子様、聞いたことありますか?」
「あるわよ〜」
「何だったんですか?」
「私が言っていいの? そういうのは本人に聞いた方がいいんじゃない?」
「そう仰るのであれば……本人に聞いておきます」
そして再び、話は戻る。
「で……いつ頃会いに行くの?」
「いつ行こうかな」
「決まってないのね」
「今のうちに行っておこうかな。不安をなるべく早く……無くしておくのが良さそうだから」
「そうね。その方がいいと思うわ」
夢は小さく頷き、そして微笑んだ。
「じゃあ……久々に幽々子さんと話したけど……やっぱり、いつ話しても楽しいです」
「あら〜、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
「妖夢も、楽しかったよ」
「私も夢の話、楽しかった!」
「ほら、さっさと行きなさい」
幽々子は優しく背中を押す。
「はい……少しの間でしたが……お世話になりました。では、さようなら」
「さようなら」
「さようなら!」
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