犬を拾った。黄色くて大きな犬。ゴールデンレトリバーだろうか…こんな大きな犬が捨てられているのなんて初めて見た。うちにはぴのがいるし犬を拾うのは正直躊躇ったがじーっと見つめてみる瞳から逃れることは出来なかった。案の定ぴのは遠くから警戒しながらこの犬を見ているしこの犬はぴのを興味深そうに見詰めている。
「はぁ…ぴのに手ぇ出したらすぐ追い出すからな?」
言葉が通じないのを分かりながら犬に忠告をすると、わん!と返事をするかのように鳴いた。名前付けないとな…蒸したじゃがいもに色が似てるからおいもでええか。ぴのとおいも。我ながらいいネーミングセンスだ。
「おいも、風呂入るで」
たった今名前を付けたばかりなのにこいつはちゃんと自分のことだと理解してついてきた。犬って頭がいいんやな。おいもを洗いながらこれからのことを考える。
「ぴのと仲良く出来ひんかったら他所の家行ってもらうことになるから、ちゃんと仲良くするんやで?」
その言葉が伝わったのかそれから数日経った今、ぴのとおいもは仲良く並んで寝ている。仲良くなり過ぎやろ…(笑)
さて、今日は会議や。行ってくるな!と、ぴのとおいもを軽く撫でてから家を出る。ペット用カメラを見れば仲良く寝てる2匹の姿が映った。
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「そういやぷり、新しくペット飼い始めたんだってな!」
どこから情報を仕入れたのかあっとが声を掛けてきた。
「ああ、犬拾ったんよ。見る?」
ペット用カメラを見るもカメラに映るところにおいもの姿はなくぴのだけしか見えない。仕方なく先日撮った写真をみせれば可愛いとあっとの頬が緩む、自分のペットを褒められるのは悪くない気分だ。しかしペット用カメラに映らないおいものことが気になる。死角なんてそんなにないはずだ。ドアが閉めてある俺の配信部屋以外はほとんど映っている。まさか配信部屋に入ったのか!?機材が心配だ…。
「ごめんあっと、もう会議終わったよな?もしかしたら配信部屋入られてるかもしれなくて、今夜配信もあるし機材やられたら終わるから帰るわ!」
「おっけー、機材無事だといいな。またな」
急いで家に帰る。未だペット用カメラにおいもの姿はない。
「ただいま、おいもどこや!」
玄関を開けるとぴのが足元に擦り寄ってきた、相変わらず可愛いやつやな…そっと頭を撫でてやれば満足気にどこかへ去っていった。もっと可愛がってあげたいけど今はおいもだ。直ぐに配信部屋に向かう、ドアは出かける前と変わらず閉まったままだ。
「おいも?ここに居る…ん!?は、え、誰!?」
ドアを開けると部屋の中心に座り込んでいる金髪で全裸のイケメンがいた。犬のような耳と尻尾を生やしたその人は俺の声に反応したのかくるりと振り返りこちらに四つん這いで近寄ってくる。
「いや怖い怖い怖い!」
思わず逃げるとその人は何も言わずに赤ちゃんがはいはいするような状態で追いかけてくる。…いや、待って?あの耳と尻尾に見覚えがある。それにあの首輪…
「おいも…?おいもなのか?」
名前を呼ばれたおいも…だと思われる人は嬉しそうに尻尾を振りながら飛びかかってきた。犬だとああも可愛いのに、人間になった瞬間恐怖でしかない。
「うわぁ!」
今まで気付かなかったがおいもは俺より身長が高い。そんな奴に飛び掛られれば耐えきれずに倒れ込んでしまった。全裸のイケメンに押し倒され顔面を舐められる俺。なにこれ。ほぼエロ漫画やん。
「ん、わん…ぅ?」
いつもと違う反応を示す俺においもは悲しそうな表情を浮かべた。人間になったからと言って話せるわけではないらしい。
「おいもなんやな?」
名前を呼ばれれば今度は一転して嬉しそうに笑う、ころころ変わる表情が見ていて飽きない。髪を優しく撫でてやれば撫でる手に頭を擦り寄せてくる。ああ、やっぱりおいもなんや…。なんでこうなったんやろ…俺の可愛いおいも返して…?
当然その日は配信を休んだ。機材を心配して連絡をくれたあっとには、やばいのは機材じゃなくて俺の頭だと伝えた。
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