言われて、視線を手元に落とす。牛乳やらビールやらの液体商品、白菜やレタスなどの大きな野菜をまとめ買いしたので、確かに重いけど。
「別に。慣れてるし」
私の職場は数人の会計士が合同でやっている事務所。そこの事務担当だから、いろんな業務がある。書類整理や買い出しで重い物を持つことはしょっちゅう。だからそう返した、のだけど。
「持ってやるよ」
と言われるが早いか、食材が満載のエコバッグをひょいと奪われた。
「え、いいわよ。あんただって同じでしょ」
彼の右手には、私のエコバッグと同レベルに品物が入ったビニール袋。その上に左手で私の荷物を引き受けたら、いくらなんでも重すぎるだろう。
自分で持つから、と奪い返そうとしたが、手が届く範囲外に避けられた。
「同じじゃねーよ。こういうのは力ある方が持つもんだ」
「だからって」
「じゃあさ、礼に一杯奢ってくれよ」
「はい?」
思わずスマホの時計表示を見ると、まだ午後三時にもなっていない。こんな時間からお酒を飲むつもりなのか。
じとっと見つめる目つきで察したのか、違う違う、と彼は首を振った。
「そこの、カフェでさ。コーヒーでも奢って」
袋を持ったままの手で示された方向を見ると、全国展開しているカフェチェーンの店があった。前は見かけなかったから、最近できたのだろう。
「なんでよ」
「見返りナシで荷物持ちされるの、嫌そうだったから。あと、ちょっと話したいし」
「……話?」
「そんな疑わしそうな目で見んなよ。久しぶりだから近況とか、気になるだけだよ」
「あっそう」
「──あ、もしかして冷凍物買ってる?」
「買ってない」
「なら、三十分ぐらい帰りが遅くなってもいいよな」
彼がそう結論づける頃には、カフェの入口まで来ていた。
運良く空いていた四人掛けの席に、向かい合って座る。荷物は空き椅子にひとつずつ置いた。
こいつ──原田倫之と会うのは、どれぐらいぶりだろう。
家が近く、子供たちの年齢も近いということで、私の実家である柴崎家と原田家は、昔から家族ぐるみで交流していた。
親同士も子供同士もそれぞれに気が合ったので、子供たちがとっくに成人した現在でも、何やかやと状況は伝え聞く。
「仕事忙しいの?」
注文したコーヒーをそれぞれ一口飲んでから、先に話題を出したのは、私の方だった。
「ん?」
「お正月、帰ってこなかったじゃない」