テラーノベル
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昔の双子ってさ、先に生まれた方が下で、後に生まれた方が上だったんだってさ。しかも、双子は『忌み子』って言われて、軽蔑されてたらしい。なんだっけ、跡取り争いになんだっけ。それが理由で。
もし、俺たちが昔に生まれていたら。
そんな妄想を、時々する。
そうしたら、俺は弟だから、つかさに逆に守ってもらう立場だ。そんなこと、考えたくなんかないけれど。
それで、きっと跡取り争いなんか起きないで、二人で逃げ出して暮らすんだ。いや、お父さんもお母さんもいたらいいな。皆で逃げ出すんだ。『名家』っていう世間体の抜け殻を投げ出して、皆で幸せに暮らす。
しかし、今の俺は『兄』という仕事を全うできているのだろうか。俺はお兄ちゃんなのに、つかさよりも力は弱いし、虫が怖いし、頭は悪い。おまけに、つかさに度々ヒドいことをされて、その度に言うことを聞かされる。
それがとてもみっともなくて、情けなくて。
でも、そんな俺のことを察してか、つかさはこう言ってくれるんだ。
「あまね、スキだよ。この世界で一番スキな、大切なお兄ちゃんだよ。俺のお兄ちゃんでいてくれて、守ってくれてありがとう」
って。天使みたいな笑顔で、ニッコリ笑いながら。そして、俺のことを殴りながら。
その言葉を聞くたびに、あぁ、愛されてるな、ちゃんと俺は『お兄ちゃん』なんだな、って安心する。
どれだけ暴力を振るわれたって、どれだけ痛いことをされたって、俺はつかさのことが嫌いになれない。だってこの世で一番大切な、血を分け合った片割れだから。
だから、俺はつかさのことが──
「……あ」
目が覚めて、汗でビッショリになった布団から身体を起こす。
なんだっけ。何だか夢の中で、大切なことを言いかけた気がする。絶対につかさに伝えたい、大切なこと。
「……忘れちゃったや」
何だろ、美脚な美人なお姉さんのピンクの雑誌見つけたから、一緒に見ようぜ、とか? ……違うか流石に。美脚……美脚……? 足太いのと美脚ってどっちのほうがいいんだろう。いやそりゃ美脚の方が綺麗だけど、ねねおねーさんの足は確か……。
じゃないじゃない!
「……まぁいっか」
どうせ、しょうもないことだし。
そういえば、今日はまだ宿題をやっていないな。
また土籠先生に怒られちゃうな。でもきっと、用事があって時間がなくってって言ったら、いつもの悲しそうな顔をするんだろうな。何で土籠先生は、俺が早く帰らなきゃとか、用事があるとか言ったら、悲しそうな表情をそのカッコイイ顔に浮かべるんだろう。
「……いってぇ……」
今日、つかさに潰された目を押さえると、そこにはガーゼが付けられていた。いつもつかさが土籠先生との謎の競争心から手当てをするとき、荒くて逆に痛くて辛いんだ。一体、どこまでが本気なのかがわからない。
つかさの言った通り、刃はそこまで深く入り込んでいなかったようで、少しだけ安心する。それと同時に、これであそこまで泣き叫んで必死に懇願したことが恥ずかしくなってくる。
次は、目玉が取れるところまでやるのかな。そうなったら、俺は兄として、我慢できるのだろうか。
いや、俺は我慢強いんだ。だから、きっと大丈夫なんだ。
「……つかさ?」
それにしても、つかさは一体どこへ行ってしまったのだろう。
そう、隣を見ると、その布団にはつかさがいなかったのだ。でも窓から見る空は真っ暗で、もう夜ということが分かった。
トイレかな。一人でいけるなんて、珍しいな。そんなことを考えていると。
「あーまーねっ!!」
つかさの、夜には相応しくない、大きな声が耳を貫いた。
おそらく、ベランダから聞こえてきている。
そんなところで、何をしているのだろう。
「とにかく来てー!!」
「はいはい……」
あそびたてで怠い身体を何とか立たせて、階段をのぼる。
ギシ、ギシと、階段が叫び、それが何だかお化けのようで怖くて、不安になって、早くつかさに会いたかった。
ベランダの扉を勢いよく開くと、俺の髪がさらさらと靡く。冷たい風が頬を吹き抜け、全身が少し冷えた。
「……わぁ」
真っ先に視界に写ったのは、満天の星空。キラキラと輝く星々はまるで笑っているようで、思わず口角が上がる。低気圧による頭痛を忘れる程、心の中にも星が宿る。
最近は曇っているか、雨という涙を流しているかで、この目に捉えることができなかった、星達は、まるで大好きだった人と再会したようで、全ての嫌なことを忘れられるようだった。
そんな中、相変わらず存在を強く主張しているのは、大好きな月。
それに手を伸ばし、掴んでもそれは捕まえることはできなかった。
「あまねっ! 綺麗だね」
「……つかさ」
綺麗というのは、果たして星達のことか、はたまた俺のことか。なんて、後者なわけがないのに、大好きなつかさに綺麗と言われたことを少しでも期待してしまったことに自己嫌悪が湧く。
しかし、そんな嫌悪感を吹き飛ばすくらい、満天の星空の下で笑う弟は、とても綺麗で、天の使いかと思った。
その蜂蜜色の瞳が月のように見えて、この夜空に月が三つ浮かんでいるよう。ひょっとしたら、つかさは月の王子さまだったのかもしれない。
「今日は、特別な日! お星さまが遊ぶ、梅雨の特別な日!」
「……綺麗だね、本当に」
「どっちが~?」
「……どっちも」
まるでナンパするかのように口から溢れた答えに、つかさは可愛らしく笑った。
あぁ、本当に、天使だ。
「そうだね! お月さまも、お星さまも綺麗だよね!!」
「いや、そういうことじゃないケド……」
「え~?」
天然なつかさに笑いながら、ゆっくりとその愛らしい頭を撫でる。
できるなら、ずっとこうしていたいな。あそびなんかやめて、優しい、楽しいことをしたいな。
「絶対、お星さまとってきてね!」
「……勿論! 宇宙飛行士になって、取ってくるさ!」
「……俺たちに未来なんかないよ」
「え? 何か言った?」
「別に~?」
星に手を重ねて、心を重ねる。
絶対に宇宙飛行士になって、月に行ってやる。何処へだって、行ってやるんだ。
「おやすみ~」
「おやすみ」
布団で向かい合わせになって、目を閉じる。辺りが暗闇に満ちると同時に、疲労からすぐにでも眠りに落ちてしまいそうだ。
明日もし殴られるとしても、俺はそれを受け入れる。
そして来年も、再来年も、その次だってつかさと暮らすんだ。
たとえお母さんがあのままだって、お父さんが帰ってこなくたって、俺は絶対に絶望なんてしない。つかさと二人で、未来を歩んでやるんだ。
……宇宙飛行士になれますように。……絶対になれますように。
つかさに絶対、星を取ってきてプレゼントをするんだ!
──カミサマ、カミサマ。お願い、叶えてくれますか?
END
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