その日は慎二が同じ方向だからと一緒に帰ることになった。
とても久しぶりでぎこちなかったけれど、色んなことを思い出しながら歩いた。同時に、蓋をして鍵を閉めたはずの想いが隙間から溢れ出てきた。私は慎二に片思いをしていた。高校のほとんど会っていなかった時もずっと好きだった。幸い慎二はそほぼ男子校のような学校だったので、恋人はできていなかった。
これで別れたら、もうしばらく会うこともないのかなと、悲しさを押し殺して、
「私の家、ここだから。じゃ、また今度ね。」
と言った。何となく泣きそうだった。少しだけ、俺の家来ない?とか引き止めて欲しいと思った。けど、思ったのとは違う答えが返ってきた。
「え、俺の家、そこ。」
と、慎二が指さしたのは私の住んでいる部屋の3つ右隣の部屋だった。
「え、は?うそうそ、こんな近くにいて会わないこととかある?」
「いや、俺は知ってたけど、お前が気づかないから、別にいいのかと思って。」
「いや、言ってよ!」
片思いしていた中学の同級生が、隣人だった。そんな都合のいい話あるだろうか。
(あるんだなぁ)
驚きを隠せない私だったが、彼とは恋仲とかではなかったし、彼は割とドライなので。
「まぁ、これからもよろしくー。俺眠いから、じゃね。」
と言ってそそくさと家の中に入っていった。
私はと言うと
「え?あ、じゃ、じゃあね!」
と、おろおろしながら家に入った。
その日はなんだがドキドキして眠れなかった。何かいい事が起きるそんな確信があった。
千紗がどこかでニヤニヤしている気がした。
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