side:wki
「休みます!」とあれだけ公に宣言した元貴が、作業場に篭ってかれこれ1時間。
「今いいかも!!」
なんて嬉しそうな顔されたら、止めれないよ。
曲を生み出す苦悩は、近くで見てきたからよく知ってるし。
でも部屋に入るのを見送った時の俺、絶対ダセェ顔してた。
だって2人だけの時間を過ごすのは、すげぇ久々だったからさ。
俺としては、元貴が面白いと言ってたドラマの話や、出演した年末番組を一緒に見て、笑い合う予定だったんだ。
久々の恋人らしい絡みも、それはもうすーっごく楽しみだったのに。
「…仕事人間め」
ソファに深く座ってポツリと呟いた声は、1人では広すぎるリビングに溶けて消えた。
虚しく響くテレビの笑い声と共に。
『休暇』
ホットミルクから、フワリと柔らかい湯気が上がる。
「あちっ」
暇を持て余して出来たてを口に含んでみたが、猫舌ではとても飲める温度ではなく、フゥーっと息を吹きかける。
今にも混じりそうになる溜息を堪えながら。
…一応、2杯入れたけど。元貴はまだだろうなー。
作業場へ持っていけば良いのにと、自分でも思うけれど。
元貴の邪魔にだけはなりたくない。
元貴にとって、不要な存在になりたくない。
そんな想いが、恋人になった今でもずっと心に引っかかって、俺の行動を縛るんだ。
2人でいるのに、俺はいつも独りだな。
マグカップを並べて置き、ぼーっと見つめる。
いいなぁ。
こんな風に、何も考えず隣に並べたらなぁ。
うつらうつらと下がってくる瞼の重みに従いながら、そんなバカな事を思っていた。
side:mtk
「んーーーーーっ」
背伸びをすると、凝り固まった身体が少しだけほぐれた。
ずっと放ったらかしていたスマホを手に取ると、部屋に入った時から3時間が経っていた。
「うん、良いくらいか」
僕的な体感30分くらい。
若井はどうかな。
ニヤつく口元を抑えながら、のそりと若井の元へ向かった。
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そっとリビングへ入ると、若井はソファの上で寝息を立てていた。
長い手足をダラリと放り出して、口まで開けて。
沸き起こりそうな笑いを耐えて、起こさぬよう静かに腕の中に体を滑り込ませ、耳元で密かに囁く。
「ファンが見たら、ガッカリするぞー」
ピクッと指先が動いたが、起きる気配は無さそうだ。
「…待たせて、ごめん」
さっきよりも感情を載せて甘く囁き、そのまま若井の口にキスをした。
軽く触れるだけのキスを数回繰り返し、最後に舌を入れる。
力なく開いていた口に段々と力が戻ってきて、気付けばあっという間に舌は絡め取られていた。
「ふ、んん…、、はぁ」
ぴちゃ…と音を立てて離れる頃には、完全に覚醒した若井に、熱く見つめられていた。
「最高の目覚ましじゃん」
「ナニソレ」
ふふっと笑い合い、絡み付く。
その瞬間、大好きな若井の匂いに包まれる。
「待たせてゴメン」
「いいよ。最高の1曲、出来たんでしょ?」
「うん」
ソファに押し倒されながら、幸せを噛み締める。
きっと若井は、不安な時間を過ごしたことだろう。
それさえも自分の欲にしてしまう浅はかさを許して欲しい。
ごめんね。若井。
僕はこんな風にしか愛せないから。
こんな僕に、一生縛られててね。
〜Fin〜
一貫性に欠けてたので、少し手直ししました。
コメント
1件
最っ高!でした✨ 幸せ〜