コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「見てて痛いからとか、将来生きずらくなるよとか、俺を気遣うようなこといってるようで自己中なだけだよな?それさ。」
今まで心で渦巻いていたことが口から出ていく。
同時に目の前の、ムルの顔が曇る。
場の空気は最悪。今にも全てのものが、軋んで悲鳴をあげて崩れてきそうな重圧。
「俺がこれを辞められないのと同じくらい、健常者にはこれ出来ないんだろ」
俺はムルを健常者だと突き放す。
言葉は乱暴さを増し、心を荒らす。
「なあ。」
消えない線のある腕で、刃物を向ける。
「切って見せろよ。俺の腕でも、お前の腕でもいい。お前の覚悟を見せてみろよ。」
「生半可な気持ちで、止めようとしてるわけじゃねえんだよな。」
_________________
別に腕を切って欲しいなんて思ってなかった。感情任せに口から出ただけだった。
心がもう、限界だった。
他人からかけられる言葉に、なんの意図があるのか、疑心暗鬼だけが倍増していく日々だった。
友人で、信頼しているムルの言葉さえも疑ってしまう自分が心底嫌だった。
でも都合よく疑心暗鬼は止まってくれたりしない。
__________________
「なあ。」
メディの声が路地に、夜に響く。ついでに僕の頭の中にも反芻される。でもそれは意味の無い形だけのものであったけれど。
「切って見せろよ。俺の腕でも、お前の腕でもいい。お前の覚悟を見せてみろよ。」
先端の錆びたカッターがこちらへ向けられる。
強い光で、腕の傷は無いように見えた。
本当になければ良かったと、
「生半可な気持ちで、止めようとしてるわけじゃねえんだよな。」
膨れあがっていた感情がしぼんで消えていく。
残ったのはただ平坦な自分。
面倒くさい、と、他人だからと分別をつけて友人を切り捨てようとしている自分。
最低だな、なんて現実逃避もいいところ。
多分、お互いにもう限界が近かったのだと思うよ。
口から言葉を発しようとした。出てくる言葉はやはり、普段思っていることと変わらないらしい。
激情を出すほどの元気は、俺にはなかった。
「僕はね、メディのこと大切に思ってるよ。」
刃物は変わらない。
「嘘くさいって分かってるよ。疑う気持ちもわかるよ。感情なんてものはいつだって信じきれないからさ。僕もそう思うよ」
荒んだ心から思ったことがそのまま口から堕ちていく。
「僕もね、もうメディのこと信じなくていいかなとかさ、全部捨てたい辞めたいとかさ、思ったことあるんだよ。君と同じでさ。
僕も人間なんだよメディ。」
僕が人間であることをメディに告白するとしたら、メディは
「失望してくれた?こんな人間信じなくていいんだよ。
僕以外に縋りなよ、メディ。」
「……」
呆然とした様子。
今までこんな気持ち伝えたことないもんな。そりゃそうか。
一時の気の迷いってやつかもしれないけど、もう手遅れ。失った人間関係は元に戻せないから。
何を、どうすればいいかなんてもう忘れてしまったよ。
「…あとは、腕を切ってみろ、だっけ?
悪いけど、俺は首吊る派だから。そんな周りからバレるようなやり方はしないよ。」
とっくに刃物は下ろされていた。
何を言えばいいか分からないみたいだった。
あぁ、破局か。
僕たちは関わらない方が良かったのかもしれないね。
精々死なないで生き長らえてくれよ。メディ。
死にたさが増しただけだった。
早く死んでしまいたいと、思わない日はやはり、無いみたいだった。