テラーノベル
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「あー……砂が服の中に入ってチクチクする! 暑いし、口の中までジャリジャリするんだけど!」
火の国と風の国の境界を越えた途端、世界は一変した。
青々とした緑は影を潜め、視界のすべてが黄土色の砂と乾いた風に支配される。
「アカネさん、日焼けは禁物です。この特製の日傘型傀儡『マキナ一号』に入ってください。……大丈夫、僕との距離はゼロミリです。これが本当の相合い傘……」
「近い!! 鬱陶しい!! 砂漠よりあんたの熱気の方が暑苦しいわ!」
鬱陶しそうにマキナを蹴り飛ばしながら、私は額の汗をぐっと拭った。
相変わらず「僕と結婚して」だのボソボソ言ってくる根暗男だけど、日傘を差し出してくれるあたり無駄に手際が良いのが腹立つ。
「うふふ♡ 砂漠の風の音……いい音だねぇ。ヒュ〜っていう乾いた音の中に、微かに聞こえる砂粒同士の摩擦音……あぁん、たまらない♡ 食べちゃいたい♡」
「シズク、頼むから砂を食べないでね。お腹壊すから」
「食べるわけないじゃないか、例えだよ♡ アカネちゃんってば、相変わらず風の国の景色よりも風情がないなぁ」
シズクは銀髪を風になびかせながら、涼しい顔で歩いている。本当にこの二人はどこに行ってもマイペースだ。おかげで「彼岸」への復讐に煮詰まりそうになる私の頭も、少しだけ冷やされる。
……でも、のんきに歩いていられるのもここまでだった。
ドォン……!!
地響きとともに、前方数百メートルの砂丘が豪快に爆発した。
「な、なに!?」
「……来た。重い重力波の振動と……甲高い金属の擦れる音……♡」
「アカネさん、僕の後ろへ……! チャクラの糸、展開……!」
煙と砂塵が舞う砂丘の頂から、四つの不吉な影がゆっくりと姿を現す。
黒くドロドロとした雷を腕に纏わせた、あの嫌な陰キャ——カムラ。
黒い金属の粒を浮遊させ、チャラチャラと笑う——テッサ。
重力を操り、無邪気に狂気を見せる——イワド。
そして、怠そうに水蒸気の煙を吐き出す——蒸月。
抜け忍集団「彼岸」。
たつまきの里を荒らし、父ちゃんたちの未来を奪った仇どもが、そこにいた。
「へ〜、マジで追ってきたんだ〜? たつまきのドラゴンちゃん。可愛いけど、命惜しくないのかな〜?」
砂鉄の槍を肩に担ぎ、テッサがチャラチャラとした声で笑う。
「ヒャッハー! 砂漠で龍が踊るのか!? 最高じゃん! 重力で砂の中に埋めて、干からびたトカゲの標本にしてやるよ!!」
イワドが狂気全開で手をかざす。その瞬間、私の全身にズンと目に見えない圧力がかかった。
「くっ……!」
「アカネさん!!」
マキナがすぐさま糸を伸ばし、絡繰人形の盾を私の頭上に展開して重力波を逸らそうとする。だけど、イワドの重力忍術は強力で、木製の足がミシミシと嫌な音を立てて軋んだ。
「ほう……傀儡師と音響使いか。無駄な雑音を連れてきたな」
カムラが暗い目を私に向けた。指先から溢れ出る『闇電』が、黒い蛇のように砂の上を這う。
「アカネ。お前の『竜人化』のチャクラ構造は、すでに分析済みだ。風の能力をどれほど高めようと、私の闇電でお前の経絡系を麻痺させれば、竜人化は強制解除される。お前はただの、無力な実験体に戻るのだ」
「……やってみなきゃ、分かんないでしょ!!」
頭に血が上る。怒りで視界が赤く染まる。
胸の奥で、暴れ出したがっている「龍」の衝動。使えば身体が壊れるかもしれない。でも——!
「秘術——……竜人化(りゅうじんか)!!」
ゴオオオオオオッッ!!
全身を駆け巡る凄まじい激痛。
背中から飛び出す風の龍翼、両腕を覆う漆黒の鱗。
だけど、カムラの言った通りだった。
「風遁・龍爪——っ!?」
飛び出そうとした瞬間、カムラが放った一筋の『闇電』が私の脚をかすめた。
バリバリバリッ!!
「ガアアアッ……!?」
激しい感電と麻痺。身体の中を巡っていた風のチャクラが途切れ、竜人化の翼が急速に崩れ始めていく。
(嘘……!? チャクラが……練れない……!?)
「言ったはずだ、無駄だと」
カムラが冷酷に苦無を構え、無防備になった私の首元へ肉薄してくる。
速い。避けられない——!
「アカネさんには……指一本、触れさせない!!」
ガキンッ!!
マキナの絡繰人形が割り込み、カムラの苦無を受け止めた。
「チッ……鬱陶しい傀儡使いめ」
「僕の……僕の大切なアカネさんを……道具みたいに言うな!! 秘技・機々界々(ききかいかい)!!」
いつも死んだ魚のような目をしているマキナが、見たこともない凄まじい執念でチャクラ糸を弾かせる。数十本の忍具が仕込まれた絡繰アームがカムラへ襲いかかる。
「あらあら♡ カムラくんの闇電の音……ドロドロしてて本当に不愉快だねぇ。僕の音で、上書きしてあげるよ……! 音遁・超重音波(ちょうじゅうおんぱ)!!」
シズクが笛を激しく吹き鳴らす。
目に見えるほどの音波の衝撃が空間を揺らし、テッサの砂鉄の追撃を強引に吹き飛ばした。
「マキナ……シズク……!」
「アカネさん、立ち上がってください! あなたの風は、こんなところで消える風じゃない!!」
「そうだよアカネちゃん! 敵を盛大に吹き飛ばす、君の無茶苦茶な音を聞かせておくれよ……♡ 食べちゃいたいほどの激しい奴をさぁ!」
ふたりの叫びが、麻痺した私の胸にドカンと届いた。
そうだ。私は一人じゃない。
原作の知識なんて何もない。大国のすごい術も知らない。
でも、私にはこの二人がいる。私の泥臭い風を信じてくれる仲間がいる!
「……カムラ!! 確かに私の竜人化は未完成だよ!!」
私は歯を食いしばり、麻痺する足で強く砂を蹴った。
体内のチャクラを無理やり力任せに練り上げる。きれいな流し方なんて知らない。ただ、仲間が作ってくれた隙に、全ての風を叩き込むだけだ!
「でもね……私の一族の風は!! 傷つけられても、何回でも吹き荒れるんだよぉぉぉっ!!」
ガアアアアアアアッっ!!
闇電の麻痺を強引に風圧で吹き飛ばし、私は龍の爪を限界まで肥大化させた。
「な……!? 闇電の麻痺を、チャクラの暴力だけで強引に押し通しただと……!?」
初めて、カムラの冷酷な顔に驚愕の色が浮かんだ。
「風遁・極大龍爪斬(きょくだいりゅうそうざん)——ッッ!!!!」
砂漠の砂ごと、彼岸の四人を呑み込む超巨大な竜巻が爆発した。
……砂塵が晴れる。
「クッ……ガハッ……!」
カムラたちは私の放った一撃に押され、大きく後退していた。倒しきることはできなかったけれど、奴らの不気味な余裕は完全に消え去っている。
「……面白い。だが、今日のところはここまでだ。風の国の正規部隊が近づいている」
カムラが忌々しそうに私を睨みつける。
「たつまきアカネ……次はお前のその『強引なチャクラの使い方』ごと、完全に解体してやる」
蒸月の吐き出した水蒸気に包まれ、彼岸の四人は砂漠の奥へと姿を消した。
「ハァ……ハァ……逃げられた、か……」
竜人化が解け、私はその場にドサッと倒れ込んだ。全身の筋肉が千切れそうに痛い。
「アカネさん!! 大丈夫ですか!? ああ、僕の愛で看病します、僕と結婚を……!」
「よくやったよアカネちゃん♡ 今日の君の風の音……ちょっとゾクゾクしちゃったかも♡」
駆け寄ってくる、相変わらず騒がしい二人。
「……ありがと、ふたりとも」
私は痛みで歪む顔をなんとか持ち上げて、へにょりと笑った。
敵は強い。私の力もまだまだ未熟で、使えばボロボロになる。
でも、絶対に負けない。
この泥臭い風で、いつかあいつらを完全に吹き飛ばして見せる。
「さあ行こう、マキナ、シズク! 彼岸を追いかけるよ!」
「はい、どこまでもあなたについていきます、アカネさん!」
「ふふっ、次はどんな美しい悲鳴が聞けるかなぁ♡」
砂漠の強い風を受けながら、私たちは再び、彼岸の背中を追って歩き出した。
#うちはイタチ
琴葉つきね
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コメント
1件
第5話、読み終えました!砂漠の舞台に変わって一気に空気が変わりましたね。マキナの「相合い傘」発言とか、シズクの「砂食べたい」発言とか、シリアスな戦闘シーン直前まで笑わせてもらいました。でもその後の彼岸との戦闘、アカネちゃんの竜人化が封じられて絶体絶命のところから、仲間の声で立ち直る展開がすごく熱かったです。特に「傷つけられても何回でも吹き荒れる」って台詞、彼女の泥臭い強さがよく出てて胸にきました。次回が楽しみです!