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元貴不在での打ち合わせ。
少し休憩入れまーす、と声がかかってスタッフさんがバタバタ動き出す。
(あと2時間くらいかなあ)
とスマホを確認しようとして。
横にいたマネージャーが、え、と少し驚いたような声を出した。
なんだろう、と思いながら見ると、大森が風邪ひいたみたい。とスマホを確認しながら言って、僕を見る。
それを聞いて、元貴無理して仕事しすぎなんじゃね?と若井が苦笑しながら横から言って、僕を見た。
…やめてよ。
2人とも、なんでちょっと憐れんだ慰めの目で僕を見るの。
すごく居心地が悪いんだけど。
わかるよ?
しばらく元貴とスケジュールがすれ違ってて、やっと元貴も僕も明日が休みの予定だってなってたから。
ちょっと今日は僕、浮き足立ってた自覚はあるよ?テンション高めだった自覚も。
そうだよ。君たちの予想通りです。
元貴に会うのを思い切り楽しみにしてたよ。
正直、テンションはダダ下がりしたけど、ふたりしてそんな同情に満ちた顔しなくてもいいじゃない。
僕のテンションは下がったまま、それを悟られないよう打ち合わせには集中して、時間通りに終わらせた。
帰り支度の最中、
「今日行くの?」
と若井が上着を羽織りながら聞いてきた。
「どうしようかなあ…その予定だったんだけど」
体調悪い時なのに邪魔じゃないかなあ。
と困ったような笑いが出てしまう。
(でも他に予定もないし、顔だけでも見たいなあ)
なんて続けて思ったことは、少し恥ずかしくて口には出さないけど。
今日は元貴の家に行って、久しぶりにふたりで過ごす予定だった。何をするってわけでもないけど、数日会えなかった間を埋める。翌日休みが被ってれば尚更。
…というか、僕たちの仲を知ってるマネージャーが、スケジュールやりくりして休みを合わせてくれている。
共有のスケジュールカレンダーが、ところどころそれを物語っていて、嬉しいけどこそばゆいような、恥ずかしい気持ちに毎回なる。
ご飯食べて、お互いに何があったかを話して、他愛なく笑いあって、ふとした瞬間にキスしたり、手を繋いだり、ハグしたり、一緒にお風呂に入りたいって言われたらいつも僕は拒否するけど、元貴が乱入してくることも少なく無くてそれも別に厭じゃないし、なんだかお互いに止まらなくなったらベッドやソファになだれ込んでアレして、色々。
別に、誰かに聞かれたわけじゃないし、わざわざ声を大にして言うことでもないけど、毎回会うたびに、なんか、そういう、 えっちなことしてるわけじゃないからね?
手を繋いでくっついて寝るだけ、みたいな時だってあるんだよ。
若井が、なんだかそういうこと想像してそうだから、言いたくなるけどさ。
それくらい、ふたりでの時間を取るのがなかなか大変だから色々埋めたいっていう話なんだけど。
風邪をひいたって連絡がマネージャーに来るって珍しい。ちょっとした体調不良だったら、僕と会う方を優先して連絡しなかったって前科がたくさんあるのに。
僕のスマホには元貴からの連絡はない。
それは、つまり遠回しにそういうことだ。
会えない、けど、直接言いたくない。そういうこと。
ふふ、と思わず笑みを浮かべてしまう。
いつでも強気で強引な元貴が、マネージャーに連絡したって言うのが、僕に会えない事の悔しさみたいなものを滲ませていて。
直接言えばいいのに、会えないって言うのが嫌だったんだって、悟れるくらいには元貴を知ってるつもり。
たまに見せるそういうところが、年下だなあって感じて、かわいいな、と思ってしまう。
同じような笑いが横から聞こえて
「しょうがない、リーダー様だよね」
と若井が言ったので、うん。と頷く。
きっと若井だってそれくらい元貴のこと解ってる。
で、行くんでしょ。と言われたので、これまたすぐに僕は、うん。と答えた。
さっきまでのちょっと迷った気持ちは整理されて、風邪で会えないと直接僕に言えない元貴に、会いに行こうと決めたからだ。
どんな顔するかな。
精神的に弱ってる時は僕や若井に頼ってくれるようになったからそういう姿見てきたけど、肉体的な体調不良で弱ってる姿はそうそうお目にかかれない。
会えない、と言っている元貴に会いに行こうとする、僕。
心配はもちろんあるけれど、稀な元貴の姿が見れるかな、とちょっと意地悪な、ドキドキした気持ちが、正直心を占めている。
飲み物とか持って行ってもらえる?とマネージャーも僕が行くことが当たり前のように言う。若井に応えた時と同じように、うん。と頷いて、身支度を整えた。
スタジオを出ようとドアに手をかけると
「…極力、風邪はもらってこないでね」
と、少しジト目をしたマネージャーに言われて
「えぇ…、うーん…、約束はできないかな」
それは、元貴次第だから。
と答えた。
多分言っても無駄だろうけど、と思っているだろうマネージャーは、それでも、建前でも僕が素直に、うん、と頷くと思っていたようで、僕の返しに少し固まった後、ああそう。と投げやりに返事をした。
若井が、ぶはっと吹き出して笑い
「あんまり元貴に無理しないように?あれ?無理させないように?してよ、涼ちゃん」
どっちがどっちかわからなくなった言葉はとんちんかんだったけれど、意味はよく伝わった。
ふふふ、と笑い、善処はします。と答え、僕はスタジオを後にしたのだった。
つづく