テラーノベル
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急に大人になって目の前に現れた睦月君にドキドキして振り回されて、でも、相変わらず私のことを大事にしてくれて…。
彼に釣り合わないと思うのであれば、私が彼に追いつけるように頑張ればいい。釣り合わないから引き下がるのではなくて、自分がその高みを目指すの。
折り紙で料理をするしか能がなかった私が、睦月君のおかげで世界に羽ばたけるチャンスが訪れた。そんなことは彼がいなきゃぜったいに実現しない話だったし、もし、プレゼンがうまくいかなくて、海外で缶詰を販売できなかったとしても、夢が持てた。
この小さな食堂の味が、たくさんの人に味わってもらえるチャンスがもらえたのだもの。なによりまた、父と守ってきた折り紙が復活できた。
睦月君に早く会いたいな。
会って気持ちを伝えたい。
時計を見ると16時を回っていた。ずっと父娘2人でやってきたお店に、スタッフを雇える余裕ができたので仕込みのためにやってきたパートアルバイトの人が店に入ってきた。
見るとまだディナータイムの1時間前だというのに、お客様が2組も並んでいた。かつての折り紙の姿…。もう2度と見ることはないと思っていた光景だ。幼いころの睦月君と私が、いつも一緒にいたこの場所――母が残してくれたからだけじゃなくて、私はまた、睦月君と楽しい時間を過ごしたかったのだと気が付いた。そして、ずっと一緒にいたいのだ、と。
仕込みをしながらそわそわした。
なんだかくすぐったくて、変な感じ。
浮足立って仕事をしたものだから、時間がいつもより長く感じられた。
忙しいディナータイムを乗り切り、ラストオーダー間際のこと。最後のお客様が店に入ってきた。
「こんばんは、佑里香さん」
水島君だった。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「最近大盛況だから、前みたいに気軽に来れないね。もうなにも残ってないし」
そんな風に言いながらも、水島君は嬉しそうに笑ってくれた。食事を並べてある棚はもうすでに空っぽで、ラスト間際のお客様はオーダーを聞いて都度作っている。そうすれば無駄も減り、不必要に作った食事を余らせなくて済むので、前からこのスタイルでやっている。
「同級生なんだから、気軽に来てくれたら嬉しいけど」
「同級生…ね」
「なにか変なこと言った?」
「いや。別に」
「なに食べる?」
「そうだな…玉子焼きがいいな。佑里香さんの玉子焼き、うまいから」
「ありがとう。他には?」
「適当に作って。ご飯は普通盛りでヨロシク」
「わかった」
18時になったら空いてくるので、パートの人はちょうど今の18時半くらいに店の入り口の電気を消し、看板を片づけてに帰っていく。父は18時を過ぎると年のせいで腰が痛いと、2階に上がって一足先に休憩を取っているし、お店に残っていたお客さんも会計を済ませたので、店内には水島君と私だけになった。
彼はじっと私の方を見つめている。視線が…気になるなぁ。
コメント
1件
うわ、水島くんが来た—! しかも「同級生…ね」ってちょっと含みのある言い方、気になりますね。佑里香さんが睦月くんへの想いを自覚して、折り紙再建という実績も積んで、どんどん大人の女性になってるのが素敵。水島くんの視線も含めて、この先どう転ぶのか楽しみです。