コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
記者会見が終わり、ティナ達はそのまま一旦プラネット号へと戻った。交流の途中経過のレポート作成などに時間を割くためである。次の来訪は明後日ということになり、地球側も準備と記者会見での影響調査に時間を割くことが出来た。
記者会見の翌日、正午前。場所はホワイトハウスの会議室。ハリソン大統領を含めた主要人物が集まり、いつものように定例会議が行われていた。
政務に関する話が一通り終わると、議題は昨日行われた記者会見の影響へと移る。
「やはりフェル嬢の発表を後にして正解でした。大多数の国民はそちらに熱狂しています」
「うむ、政治利用をしてしまい申し訳ないが……ね」
「ですが、大統領の宣言から完全に目をそらすことは出来ませんでした。知識層を中心に賛否両論となっています。民意に影響が出るのは避けられないでしょう」
「メディアはどうだね?こちらの要請に従ってくれているかな?」
「主要各社は大統領の真意を出きるだけ分かりやすく好意的に報道してくれていますが、フリーのジャーナリストや配信者達までは手が伸ばせませんでした。批判が相次いでいます」
報道官の言葉に、ハリソンは笑みを浮かべる。
「私への批判ならば甘んじて受けるさ。その矛先が、間違ってもティナ嬢達へ向かないように気を付けることが何よりも重要だよ」
「朗報と言えるのは、一部の知識人が大統領の宣言に賛同を表明していることです」
「ほう?」
「状況を正しく認識できていれば、そうなるでしょうな。確かに民主主義を真っ向から否定する、ファシズムと捉えられても不思議ではない宣言でした」
「しかし、それは地球内部の問題である場合に限ります。文字通り人類滅亡の危機に直結する問題ですからな、人権の否定などはやむを得ない処置であると考える人間も居ると言うことでしょう。相手は遥かに格上、しかも異星人です。地球が滅びては人権云々、民主主義云々どころの騒ぎではありませんからな」
合衆国としてもハリソンの宣言によって内外から猛烈な反発が出ることは想定していた。
だが、何が起爆剤になるか分からない合衆国政府としては何がなんでも反対意見や誹謗中傷、批判の類いを押さえ付けねばならなかった。
何故ならばスーパーマーケット事件が発生したその日の夜、ハリソンの個人的なPCにそれこそ合衆国崩壊の引き金を容易く引けるような機密情報が山のように羅列されていたのだ。更に核兵器を含めた保有する全ての兵器の制御を、容易く乗っ取るであろう内容のものまで含まれていたのである。
これ等はアリアによる警告であることは明白であり、既に合衆国だけではなく全世界のネットワークを完全に掌握していることを暗に知らしめたのである。
同時にアリアはティナの許可が出ない限り攻撃を行うつもりは毛頭無いと明言したが、この警告によってハリソンだけではなく合衆国上層部全員を青ざめさせて胃薬の摂取量が急増したことは言うまでもない。
異星人のAIに警告されたなどと国民に公表できる筈もなく、この件は上層部でも極一部の人間にのみ共有されることになった。
「うむ、ティナ嬢達には何の心配もなく地球を満喫して欲しいものだ。国外の反応は?」
ハリソンの質問に外交官が答える。
「反米的な立場を取る国家を中心に猛烈な反発が出ています。また友好国の中でも反対意見があり、身動きが取れない国も出てくるでしょう。ただ」
「ただ、なんだね?」
「唯一、日本に関しては例外と言えるかもしれません……あー……詳しくはミスター朝霧から……その、説明を」
誰もが視線をそらし、決して見ようとしなかった人物へハリソンが遠慮がちに言葉を投げ掛けた。
「あー……ミスター朝霧、何事かな?」
そこには姿形こそ半ブロリーではあるが身体から何やら黄色いオーラをバシバシ発している男が座っていた。我らが朝ギリーである。
「はい、大統領閣下。最新の世論調査ではティナさん達を歓迎する者は90%を越えています。これは大統領閣下が宣言を出された後の調査です」
ティナが前世を終えて数十年、世界はより一層インターネットと深く結び付き、当時で言うマイナンバーをより昇華させたシステムでより正確かつ迅速な民意の集計が可能になっていた。
「それはすごいな」
「もちろん日本国内にも疑問視する声はありますが、異星人そのものに対しては極めて好意的だと断言できます。サブカルチャー文化の浸透も無関係ではないでしょう」
「ううむ、流石は寛容な国だな」
「ええ、ティナさん達の訪問場所としては相応しいと自認しています。まあ、訪日外国人観光客と同じような扱いになるでしょう」
「うむ、我が国以外の訪問場所としては最有力だったからな。必要なら私からも日本へ声をかけよう」
「ありがとうございます、大統領閣下。ティナさん達が友好的である限り、日本人は礼を尽くして歓迎するでしょう」
また日本ならば下手な宗教問題などもほとんど関与しない。文字通りティナ達がのんびりと過ごすには最適な場所のひとつである。
「うむ。それで、その……体調はどうだね?今度は胃薬だったかな?」
「まるで十代に若返ったような心地ですよ。悩まされ続けてきた胃痛や血尿が治まりました。肌もまるで赤ん坊のようにツルツルです。問題があるとするならば、ちょっと気を込めると指先や目からビームが出てしまうことですかな」
真顔で答える朝霧に誰もが頬をひきつらせた。
そして最後に、もう一人の人物へ視線を向ける。
「あー……ケラー室長、国内観光地についてはどうかな?」
ハリソンの質問にジョン=ケラーは静かに答えた。
「先ずはイエローストーン国立公園、グランドキャニオンを予定しています。都市などを見せるより地球の雄大な自然を満喫して貰ったほうが喜ぶでしょう。上手く行けば、将来的にはアードから観光客を招けるかもしれません」
「実に夢のある話だ。是非とも実現させたいものだな」
「はい、大統領。実現のためにはティナが頼りです。彼女との交流を深めていきます。なに、誠意を尽くせばティナは必ず応えてくれます。難しいことではありませんよ」
そう語るジョンは真顔であった。プロレスラーのような肉体は変わらない。妙なオーラも出ていない。だがそのサハラと化した頭部にはふたたび緑が戻っていた。
問題があるとするならば、それがまるでデー◯ン閣下のような髪型であること。そして彼の瞳は何処までも澄んでいることだろう。
アードの胃薬は胃痛から二人を解き放ち、別のストレスをプレゼントするに至った。ティナが何度目かの土下座を敢行する。二日前の出来事であった。