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私が『ヒロイン』と決別して5年が過ぎ――いま……
あれから私はカッツェと晴れて結ばれて、すぐに女児を1人授かったの。リーリャの世話もあるから、私は孤児院を卒院した後もシスターと一緒に子育てをしているのよ。
そのリーリャも今年でもう5歳。
シスターの愛情を受けて、すくすくと良い子に成長まっ最中。
とっても素直で聞き分けの良い可愛い女の子に育ってるのよ。
だけど、なんだか私の幼少期と似ているとよく言われてるんだ……
私はもっとシスターにべったり甘えてたし、リーリャほど良い子ではなかったわよ?
さて、そんなことより今日は特別な日なのだ!
なんせシスターの誕生日!っていうのもあるんだけど、昨夜久々に1つのヴィジョンが頭に浮かんだの。
それはあの人が帰ってくるというもの……
「お昼まで孤児院から出ていて欲しいの」
だから私は孤児院の子供達に頼まれて、シスターを外へと誘導しているのだ。
「子供達に頼まれたの?」
「あちゃ、バレてる?」
まあ、シスターにはバレバレだったんだけど。
くすくす笑うシスターだけど……もう1つの方はバレてないわよね?
「それから今日はシスターにきっと良い事が起こりそうな予感がするの」
「予感?」
「そう……きっと神様からの素敵な誕生日プレゼントよ!」
ちょっと意味深な言葉と共に、不思議そうな顔をするシスターを送り出す。
5年ぶりの再会だものね。
ちょっとは2人っきりにさせてあげたいじゃない?
「さーて、私は戻って悪ガキ共の指揮官よ!」
孤児院に戻れば、既に子供達がわいわいと飾り付けなどの準備をしていた。大好きなシスターの為にと、みんな大張り切り。
だけど、ここは貧しい辺境。
できることなんて限られる。
だから前世の知識を総動員して見栄えが良くなる方法を子供達に伝授するのだ。
これぞまさに知識チート!――とは言っても、そんなに大した事は出来ないんだけどね。
それでも子供達は頑張って準備をしてくれた。
なかなか満足のいく仕上がりじゃないかな?
作業する子供達を眺めながら、うんうんと私は満足気に頷いたんだけど、1人ぽつりと佇むリーリャの姿が目に入って、あれっと首を傾げた。
「リーリャ?」
「シエラねぇね」
顔を上げて私をみたリーリャがとつぜん泣きそうになり私は慌てた。
「ど、どうしたの?」
「リーリャね。ちっちゃくてお手伝いができないの……」
みんなが準備に動き回る中、自分だけ何もしていないのに罪悪感を抱いたみたい。
ホントにええ子や。
「リーリャは何もしなくていいのよ?」
「でも、今日はシスターのためのお祝いだって……だけどリーリャはじゃまだって……」
境遇が似ているから、リーリャの気持ちが私にも分かる。私だってリーリャと同じ立場だったら、シスターの為に何も出来ないのは嫌だ。
だけど、リーリャは孤児院の中でも少し歳が離れて小さい。とても準備の手伝いはできないし、他の子に混ざって出し物をできる年齢でもない
「リーリャもシスターをお祝いしたいの」
「リーリャ……」
非力でもシスターの為を想う健気なリーリャに私は言葉が詰まった。
なんとかして上げたい。
だけど、この孤児院の中でリーリャと一番歳が近い子でも8歳。
この年頃の3歳差はあまりに大きい。
「リーリャはいいのよ……リーリャはいるだけでシスターは幸せになれるんだよ」
「……」
だから、こんな月並みな慰めしかできなかった。
私はなんて不甲斐ないのかしら。
その後、リーリャは唇を噛んでジッと他の子達の作業を眺めていたの。
自分の非力が悔しくて、見ているしかできない現状が辛そうで、シスターの為に何も出来ないと分かってとても悲しいのだと私にも分かる。
だから時折、気になって彼女の姿を視界に入れる度に私の胸も苦しくなった。
そして、私が子供達の作業を手伝って目を離した隙にリーリャの姿がいつの間にか消えていた……
酷く思い詰めていたし、リーリャがどこへ行ったのか心配にはなった。だけど、あの子はシスターの言い付けを守って教会の敷地内からは絶対に出ないから、特に危ない事もないでしょう。
果たして、窓の外を見ればリーリャが教会の敷地内でウロウロしている姿が目に入った。その様子に私はちょっと胸をなでおろし、再び子供達の準備の手伝いを始めた。
それに没頭した私はいつの間にかリーリャの事が頭から抜け落ちてしまった……
――準備もばっちり完了!
むふふ、悪くないデキね。
よし、さっそくシスターを呼んでこなきゃ。
シスターを探しに出ようとするのと入れ違いに、ちょうどリーリャが戻ってきた。
「あっリーリャ、何処へ行っていたの?」
「ん~ちょっと」
何か嬉しい隠し事をしているようにはにかむリーリャのちょっとはしゃいでいる姿に私はホッとした。
良かった。
リーリャの顔に明るさが戻って。
外で遊んでいたのかな?
それで気が晴れたのかも。
どんなに健気でも、やっぱりリーリャもまだまだ子供なのね……