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窓の外で、雨が降っている。
ぽつ、ぽつ、と規則的な音が、やけに耳につく。
昔は、別に嫌いじゃなかったはずなのに。
――あの日からだ。
雨の日になると、古い傷が痛む。
大したものじゃない。
ただの事故でできた傷だ。
それでも、雨の音を聞くたびに、思い出す。
忘れたはずのことを、無理やり引きずり出されるみたいに。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ピンポーン。
不意に、インターホンが鳴った。
こんな時間に誰だよ。
そう思いながら、ドアを開ける。
そこにいたのは――
「……お前」
びしょ濡れの、お前だった。
髪から水が滴って、服もぐしゃぐしゃで。
それなのに、傘もさしてなくて。
「おい、どうしたんだよ」
声をかけても、返事がない。
ただ、震えてる。
小刻みに、呼吸もおかしくて。
「……なあ」
一歩近づいた瞬間、
ぐっと、腕を掴まれた。
強くて、痛いくらいに。
「――俺、」
かすれた声。
息が詰まったみたいに、途切れて。
「……人、殺した」
時間が、止まったみたいに、何も聞こえなくなる。
「……は?」
うまく意味が理解できなくて、間抜けな声が出た。
「俺、……あいつ、突き飛ばして」
言葉が途切れ途切れで、うまく繋がらない。
「……いつも、やってくるやつ」
ああ、と頭のどこかで思う。
名前も出てこないのに、顔だけは浮かぶ。
「もう、無理で」
震えた声。
「……押しただけなんだよ」
必死に、言い訳みたいに繰り返す。
「押したら、……転んで」
そこで、言葉が止まった。
続きを、言わなくても分かる気がした。
「……動かなくて」
ぽつり、と落ちる。
外の雨音が、やけに大きく聞こえた。
「……なあ」
気づけば、声をかけていた。
「それ、見たのか」
「……うん」
「ちゃんと、確かめたのか」
「……わかんない」
その一言で、全部がぐらつく。
本当に、そうなのか。
ただ、そう思い込んでるだけじゃないのか。
でも。
目の前で震えてるこいつに、そんなこと言えるわけなくて。
「……とりあえず、中入れ」
そう言って、無理やり引っ張る。
冷えきった体が、やけに軽かった。
ふと、あの日のことが蘇る、蘇ってしまう。
―――――――――――――――――――――
「危ない!!」
そう言われた時、もう遅かった。考えるより先に、階段から落ちた。一瞬だけ見えた、自分を突き飛ばしたやつの顔。目が合った。笑っていた。それと、本気で心配してくれてそうな、純粋な目、きっとさっき危ないと言ってくれた子だろう。
―――――――――――――――――――――
「ねぇ、おれ、どうしたら、」
「……っ」
一瞬、言葉が詰まる。
何も分からない。
本当にそうなのかも分からない。
でも。
「……とりあえず」
なんとか、声を出す。
「一回、見に行こう」
「……え」
「ちゃんと、見てから考えればいい」
それしか、言えなかった。
「……う、ん」
近づくにつれて、サイレンの音が大きくなる 。
赤い光が、雨の中で滲んで見えた。
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