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「――ああ、うん。

そうだそうだ、アイナね」


ヴィオラさんは頷きながら、私の名前を思い出すように口に出した。

最初に名乗ってはいたけど、絶対に覚えていなかったでしょ……。


「そうそう、アイナだよ。忘れないでね。

それで、シェリルさんの近況も聞いておきたいんだけど」


「んー……。ここ数か月は、夜に少し出てくるだけだぞ。

この屋敷の連中は、俺が全部対応してるしな」


「へぇ、そうなんだ?」


「まぁ対応って言っても、ファーディナンド以外は強引に叩き出すだけだけどな」


「あれ? 魔法って全部、封じられているんじゃないの?」


「一定のラインを超えると魔法封じが発動されちゃうんだけどさ、それを超えなきゃ結構平気なわけよ」


「ふ、ふぅん……?」


「だから大体の連中は軽い魔法でドカン、だよ。あはははは♪」


なるほど……とは理解したいものの、それってお屋敷の人から見たら大迷惑だよね……。

唯一まともに相手が出来るファーディナンドさんに、負担が集中するのは無理がないのかもしれない。


「……それじゃ、今日はシェリルさんには会えなさそうだね。

折角だから会っていきたかったんだけど」


「泊まっていくわけにもいかないし、仕方ないよな。

用事があるなら、俺から伝えておくぞ?」


「具体的な用事っていうのは特には無いんだよね。

そもそもはテレーゼさんに、情報操作の魔法の使い手に心当たりが無いか、それを聞いたところから始まったんだけど……」


「情報操作? それなら俺が使えるぞ。掛けてやろうか?」


「ううん、掛けてもらいたいものは持ってきていないから」


「お前、本当に何しにきたんだよ……」


……いや、今回はシェリルさんに会うためだったし!

でもその申し出の可能性を考えられていれば、テレーゼさんの指輪はやっぱり持ってきていたかなぁ……。



「ところでさ、ヴィオラさんたちっていつまでこのお屋敷にいるの?」


「ん? そりゃ、一生だろ?」


「え?」


「何だかお前は知っているようだから、言うけどさ。

シェリルはユニークスキルを持ってるんだよ。ユニークスキルって、知ってるよな?」


「うん、まぁ……」


「この国の王様が、その力をこの国のために使えって言うんだ。

それ自体は別に良いんだけど、作れっていう魔法が人殺しのためのものばかりなんだよな。

だからさ、そんなものを作れるやつを……俺たちを自由にしたら、そのうち寝首を掻かれるかもしれないだろ?」


「でも、だからって閉じ込めておくのは酷いよ……」


「まったくだよなー。

ここだけの話だけどさ、俺はこの部屋の術を破るくらいの力は持っているんだよ」


「え、そうなの?」


「ああ。でもさ、そんなことをしたらこの屋敷の誰かが怪我しちまうだろ?

シェリルがさ、それは嫌だって言うんだ」


はぁ……とため息を漏らしながら、ヴィオラさんは首を横に振った。

人を傷付けたくないから自分を殺しておく……分からなくもないけど、それは程度問題ではないだろうか。


一生閉じ込められているくらいなら、私だったら少しは抗いたくもなるけど――


「ヴィオラさんも、優しいんだね……」


「は、はぁ!? 何で俺が!?」


「え? だってシェリルさんに付き合って、ずっとここに残っているんでしょ?」


「あ、あー……。そういうことか……。

いや、それとな? 逃げたところで、行く|宛《あ》てが無いんだよ」


「行く宛て?」


「仮にここを逃げ出してもさ、そこら辺の街で暮らすわけにはいかないだろ?

何せ公爵家の保護下から、逃げるわけなんだから」


「うん、確かに」


「仮に逃げられたとしても、結局は同じことの繰り返しになっちまう。

秘密なんて一度バレたら、どこから情報が伝わるか分かんねーからな」


逃げてもまたどこかの場所で捕まって、また軟禁されて――

……いや、そのときは軟禁どころでは済まないかもしれない……か。


「ちょっと話は変わるけど、このお屋敷で痛い目に遭ったことは無い?」


「ん? 拷問のことか? あるぞ?」


「えっ!?」


聞きにくい話のつもりだったが、ヴィオラさんはあっさりと答えてしまった。


「服を着てたら分からないけど……ほら、背中とか。な?」


ヴィオラさんが服を捲った場所には、痛々しい傷が残されていた。

見えないところを傷付けられる……キャスリーンさんと同じような感じだ。


「酷い……。誰がこんなことを……?」


「ああ、ハルムートのやつだぞ。まったくあいつさ、容赦しねぇんだよな」


そんな感じで不満そうには言うが、だからといって、怒ったり恨んでいる様子は無いように見えた。


「今も、まだ辛くされてるの……?」


「いや、最近はもう無いぞ。いつだったかな……、ファーディナンドが俺たちを助けてくれたんだよ。

俺もシェリルも限界だったから、あれは本当に救われたなぁ……」


「そうなんだ……。

だから、ファーディナンドさんには心を許してるんだねぇ」


「こ、心を許すっていうか……。そ、そういう言い方はやめろよっ!?」


ヴィオラさんは大きい声でそう言うと、顔を赤くしながら照れてしまった。

おやおや、なんだか可愛いぞ。


「それにしてもグランベル公爵がそんなことを……。

そんな感じには見えなかったけど――」


「あいつ、外面は良いからな。

ファーディナンドと家督争いをしたときも、裏ではずいぶん酷いことをしていたらしいし」


家督争いというのは、公爵家の継承問題とかの話だろう。

なるほど、ファーディナンドさんはそれに負けたから、このお屋敷の中では冷遇気味なのか。


「はぁ……。この家もいろいろあるんだね……。

でもたくさんのことが分かったよ、ありがとう」


「それは良かったな。

……それよりもお前! お前も創造才覚を持ってるんだよな!?」


「私は『お前』っていう名前じゃないんだけど?」


「む……。えーっと、アイラ!」


「ぶーっ」


「ア……アイナ……?」


「ピンポーン! はい、正解!」


「よっしゃあああ! ……じゃなくて!

アイナも創造才覚を持っているんだよな!?」


「ここだけの話ね?」


そう言いながら、鑑定スキルのウィンドウを出して見せる。


──────────────────

ユニークスキル

・創造才覚<錬金術>

──────────────────


「おぉ……、本当だ……!

そっか、そっかー……。シェリル以外にも、ちゃんといたんだなぁ……」


突然の潤んだ声に驚いてヴィオラさんの方を見ると、彼女は顔をくちゃくちゃにして、涙を流しているところだった。


「えっ!? ちょっと、どうしたの!?」


「だって……だってさ、シェリルがさ……。いつも言うんだよ……。

この世界に、こんな力を持ったのは自分だけだ……って。

あいつと、同じような力を持った仲間がいてくれたって思うとよぉ~……」


「そ、そうなんだ……。とりあえず、落ち着こ?」


なおも泣きじゃくるヴィオラさん。

そんな彼女をしばらく慰めていると、不意に部屋の中が少し暗くなったような気がした。


「――あ……。

そろそろ時間みたいだな……ぐすっ」


「え? 時間って何?」


「ほら……、最初に俺が盗聴の魔法を封じただろ……?

その効果……っていうか、扉がロックされる時間の30分なんだ。それがもうすぐ終わっちまう……」


「でもファーディナンドさんは、ゆっくりして良いって――」


「それは、盗聴が生きていればの話だろ?

ファーディナンドはともかく、この屋敷の連中はもうおしまいにさせるだろうな」


「そっか、これでお別れなんだね……」


「……でもさ、俺もアイナに会って……何だか元気が出てきたよ。

何だか、俺たちもまだ終わっていないかな、って思えた」


俺たちというのは、ヴィオラさんとシェリルさんのことだろう。

未来を諦めていた二人に何かが出来たのであれば、それは大きな収穫かもしれない。


「……それじゃ、また会えるかな?」


「ははっ、このままじゃ悔しいからさ。いつか絶対、アイナのところに会いに行ってやるよ。

――それでさ、シェリルからの贈り物があるんだ」


「え? シェリルさんから?」


「アイナに……ってわけじゃなかったんだけどな?

もし俺が、心から信頼できる人が来たら……俺たちの力になってくれそうな人が来たら、これを渡してくれ……って」


そう言いながら、ヴィオラさんは彼女のアイテムボックスから、赤黒い石を出して渡してくれた。


「これは……魔石? それにしてはこの色……」


「その魔石はシェリルが作ったんだ。まぁ、俺も力をずいぶん貸したけどな。

ちょっとクセは強いし、アイナには多分使えないものだとは思うけど、もしそれを託せるヤツが現れたら――」



……その瞬間、バタンと大きな音がして、この部屋の扉が開け放たれた。

私はそれに反応して、受け取った魔石をとっさに自分のアイテムボックスにしまう。


「アイナさん! ご無事か!?」


「シェリル! また暴れたな!」

「大人しくしろ!!」

「そこの方、こちらへ!!」


部屋に入ってきたのはファーディナンドさんを筆頭に、この屋敷の使用人と思われる人たち。


使用人……とは言っても、うちでいう警備メンバーのような出で立ちだ。

そしてヴィオラさんは、そんな彼らに拘束されていた。


「あの、私は大丈夫です!

ヴィ……シェリルさんを離して頂けませんか?」


「申し訳ないが、魔法封じを発動させたあとは少し……な。

アイナさんは気にしないで良い。

……それではそろそろ、ハルムートのところに戻ることにしようか」


そう言うと、ファーディナンドさんは元来た道へと私を促した。

ヴィオラさんを見てみれば、『いつものことだから気にすんな!』と言わんばかりの顔をしている。



……気にしないわけには、いかないでしょ……。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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