「おはようございます」
目を開けると、執事の美嘉が隣に立っていた。
「どうやって入ってきたの…?」
私は起き上がり、隣に立つ美嘉を睨んだ。
「私を誰だと思っていますかね」
美嘉はニッコリと笑い、執事用の鍵を上に投げて掴んだ。それに璃奈は無表情で「そう」とだけ返し、布団から出た。
「こんな朝に、何の用?」
「頼まれた任務、完了いたしました〜」
美嘉は、後ろに隠していた資料を持っている左手を璃奈に見せた。
「案外早いわね…前より少し遅いけど」
「うるさいですね。貴方のお友達はすごい人なので、時間がかかりました」
美嘉は少し怒ったような口調で言う。璃奈は目も向けずに、美嘉の左手に持っていた資料を取り、読み始めた。そして、驚くべき言葉が書かれていた。
「静樹 朱理の母は、人を轢いたことがある…」
本当に驚きが隠せなかった。あの時の言葉は冗談ではなく、本当のことだったのだ。そして、続きのページに静樹朱里の母の情報が記されていた。名前は静樹 理々花。そして、写真も載っていた。その女性は、まるで璃奈がその人の娘であるかのように、顔が似ていた。
璃奈は静樹 理々花の写真をじっと見つめた後、顔を俯けた。
「お嬢様?」
美嘉は璃奈の俯いた顔を覗き込むようにしゃがんだ。それを見た璃奈は、美嘉を睨み、資料を閉じた。
「もう見ないんですか?」
「時間があったらね…」
その言葉に、美嘉は不思議そうな顔をした。
──じっくりと、その笑顔を見せてもらうわ、静樹 理々花さん。私と似たその笑顔をじっくりと──
璃奈は何事もなかったように部屋を出て、リビングに降りた。
「お嬢様、おはようございます」
リビングには、新しいメイドが立っていた。そして、何かを盗もうとしている。
「盗むなら、昼にしてくれる?」
璃奈は冷静に言って、冷蔵庫の中に入っていた昨日のコンビニで買ったご飯を温めて食べ始めた。そんな璃奈に、新しいメイドは戸惑いながら恐る恐る聞いてきた。
「叱らないんですか?」
「私は別に…ただし、私の母の前では気をつけたほうがいい」
璃奈は何かを言おうとしたが、その時、兄の輝流が降りてきた。無言で冷蔵庫を開けるが、何もないことに気づいた。そして、さっき何かを盗もうとしたメイドに声をかけた。
「食べ物は?」
輝琉は笑顔で言ったが、その目は笑っていなかった。
「た、大変申し訳ございません」
メイドは焦りながら、すぐに食べ物を作り始めた。輝琉は無言でそのメイドを見つめていた。メイドは兄の目に気づいたのか、さらに焦り、卵を落としてしまった。メイドは真っ青な顔で兄を見つめた。兄は口の左端を少し上げて、メイドに衝撃的な一言を言った。
「明日からもう来なくていい」
その言葉を聞いたメイドは、足に力が抜けてしまった。璃奈はその光景に慣れているため、無言で片付けをし、部屋に戻った。
今日は土曜日、ピアノのレッスンがある日だ。私はピアノが大嫌いだ。でも…
「おはようございます」
「あら、今日も早いわね」
「先生の授業が好きなので」
私の音楽の先生は、優しく美しい人だ。そんな人に、なぜか母の愛を感じている。だから、私は毎回先生に媚びを売ってしまう。
「もう、口が甘いんだから」
私は何があっても、絶対に音楽の先生を利用しない。だって、母のような存在をどうやって利用するというのだろう…
「璃奈ちゃんは、全て完璧だから、先生の授業に来なくてもいいのに」
「そんなことないですよ。私はまだまだです」
先生と離れたくないため、何度も間違って先生を引き止めた。先生は文句ひとつ言わず、優しく接してくれた。
私はピアノに座り、先生に聞いた。
「今日は何の曲を弾くんですか?」
先生は優しく、笑顔で答えた。その笑顔は、どこかで見たことがあるような気がした。
だから、私は無意識に先生に言った。
「私たちはどこかで会ったことありますか?」
先生は驚いた顔をし、優しく答えてくれた。
「急にどうしたの?この前のレッスンで会ったでしょ」
先生はふざけて、人差し指で私の額を優しく押した。
「そういう意味じゃなくて」
私は、父に拗ねたように先生にも拗ねた。先生はそんな私に笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。
「人は、何万人もいるわ。その何万人の中で私たちと同じ顔の人がたくさんいるの。だから、先生と顔が似ている人に会ったのかもしれないね」
子供を慰めるように、先生は私を慰めてくれた。
「さ、レッスンを始めるわよ」
ピアノを弾きながら、私は思い出した。先生の笑顔が、なぜ見覚えのある笑顔なのか…私は、自分の考えが信じられず、ピアノを弾く手を止めた。先生は心配そうに、私に問いかけた。
「大丈夫?」
「ちょっと宿題を終わらせたのか、考えていました」
私は、さっきの考えを頑張って頭から追い出した。でも追い出せず、逆に共通点がいくつも見つけられた。
先生…あなたは、静樹 理々花なの?
コメント
8件
皆、コメントでミステリーって書いてあるけど、私もミステリーって思う笑
これって、ミステリーですか?恋愛➕ミステリーって感じで書かれていますよね!