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ベックの部屋
カイナはいつの間にか寝てしまっていた。
あれだけショックな出来事があったのだ。
無理もないだろうと思った。
ベックはカイナをベットに寝かせ、シャンクスに事情を話に行った。
「お頭」
「おう、ベック。どうした?」
「すまねぇな。急に連れて来ちまって」
「構わねぇさ。」
他わいの無い話をし、そこから事情を説明した。
一通り説明し、ベックはある質問をした。
「…なぁ、お頭。」
「なんだ?」
「…お頭は、自分の船に女が仲間になるとなったら、どうする?」
シャンクスは少し考え込み、話し始めた。
「…正直、いい気はしねぇな。」
「まぁ、だろうな。」
「何せ、女は戦いや航海に向いてねぇだろう。」
「……そうだな。」
まぁそうだろうという考えがベックの頭の中を過ぎる。
女は男に比べ力があまり無い為、とても航海出来る様なものでは無い。
しかしベックは何故かカイナを放っては置けなかった。
他の女には放って置けないなどという気持ちは一切無かった。
だがカイナだけは違った。
決して島で独りだからではなく、明らかに惹かれるものがあった。
だから、ベックはカイナをこの船に乗せたいと思った。
しかし、船長の許しが無ければこの船に乗せることは出来ない。
ベックは半場諦めていた。
するとシャンクスは意外な事を言い出した。
「でもまぁ、航海に付いて来られる様な奴だったら、俺は大歓迎だけどな!」
シャンクスはにこっと笑った。
太陽に負けないぐらいの眩しい笑顔をする。
(やっぱり、お頭には適わねぇな。)
ベックは心の底からそう思った。
「…あいつを、この船に迎え入れたいんだろう?」
「………あぁ」
「あいつが付いて行きたいと思うなら、俺はあいつが船員になる事を許す。」
「あぁ、すまねぇな。お頭。」
「それを言うのはあいつに確かめてからだ!」
「あぁ、そうだな。」
ベックはふっと笑い、カイナが眠っている自分の部屋に戻った。
ガチャ
なるべく静かにドアを開け、部屋へ入る。
(まだ寝てるか。)
そう思っていたら、カイナは急に飛び起きた。
「…はぁ、はぁ」
どうやら魘されていたらしい。
「大丈夫か?」
「…!……あの、ここは?」
「俺の部屋だ。」
「!…すみません。すぐ起きますね。」
「いや、まだ寝ていた方がいい。」
「……でも、」
「別に構わねぇさ。」
「…ありがとうございます。」
「…災難だったな。」
「…はい。まさかあんな事をされるなんて…」
「……酷ぇ奴らだな。」
「……はい。」
沈む様な空気が流れ、会話が続かなくなっていく。
すると、カイナは独り言のように言った。
「私、何かしたのかなぁ……」
その声はとても寂しいものだった。
「………」
「…………すみません。しばらく1人にして貰ってもいいですか?」
「あぁ、日が落ちたらまたここに来る。」
「…ありがとうございます。」
ベックは静かに部屋を出ていった。
日が沈み、辺りは暗くなっていった。
街の方も、だんだんと明かりが付き、賑やかになっていく。
船員達もその頃、夕食の時間となる。
皆各々食堂の席に着き、食事を始める。
ベックは、船のコックであるラッキールゥの元へ行った。
「ルゥ、ちょっといいか?」
「おう、なんだ?」
「ちょいと、体が温まるようなものを作って貰いたいんだが、」
「……あぁ、昼間の奴な!」
「そうだ。頼めるか?」
「問題無ぇよ!出来たら呼ぶから待ってろ!」
「すまないな。」
ルゥは急いで調理に取り掛かった。
ベックもその近くに座り、一服する。
「よう。副船長。」
その声の主はホンゴウだった。
「どうした?浮かねぇ顔してよ。らしくねぇ。」
からかう様に、無邪気に話す。
「まぁ、色々とな…」
「…へぇ、色々、ね」
「……なんだ。」
「いや、なんでも。それじゃあ。ごゆっくり」
「あぁ、」
(なんだったんだ。)
会話の意図が掴めず、なんだか分からない話をし、ホンゴウは立ち去って行った。
「副船長〜!出来たぞ!」
しばらくゆっくりしている内に料理が出来上がったようだ。
メニューは野菜たっぷりのポトフに、焼きたてのパンだった。
「あぁ、ありがとうな」
「冷めねぇ内に持ってけ!」
「おう、」
ルゥに急かされ、少し急ぎめに部屋へ向かった。
「…カイナ、入るぞ。」
ドアをそっと開け、様子を伺う。
「すみません。こんな時間まで休ませて貰って…」
「気にするな。 ほら、お前の分の夕食だ。」
「え…!? ぁ、大丈夫です!私、お腹空いてないですし……それに…」
「それに?」
「……迷惑、じゃないですか…」
「…別に迷惑と思ってねぇし、第1、用意されたものを食わないって方が迷惑だと思うぞ。」
ベックは優しく微笑み、カイナにそう言い聞かせた。
「…………すみません。」
「謝る事ねぇぜ」
「……本当に、頂いていいんですか?」
「あぁ」
「…………」
カイナはおずおずとしながらも、ポトフを1口食べた。
「………………」
「どうだ?」
「…………」
カイナは何も言わなかったが、美味しいと思っているのが伝わった。何故なら
カイナは泣いていた。
「……ぐすっ、とっても、美味しい…です。」
「そりゃあ、良かったな。」
「こんなの…久しぶりで…」
「暖かい……」
今まで、温かいものにありつけなかったのだろう。
それ程、今までの生活が辛かったと、流した涙が語っている。
その後、カイナは泣きじゃくりながらもしっかり完食した。
「……すみません。あんなみっともない姿をお見せしてしまって…」
「みっともなくねぇよ。」
「……そう言って頂けて嬉しいです。」
「…」
「……はぁ、」
「どうした?」
「……私、ここから先どうやって生きていけば良いんでしょうか…?」
「もう何も残ってないし…島にも居られない。」
「…………」
ベックは決心し、カイナに言った。
「カイナ、…もしお前さえ良ければ、」
『この船に乗らないか?』
「……え?」
「どこの島にも住まずに、この船に乗って俺達と旅をするんだ。」
「きっと退屈する事もないだろう。」
「…………」
「…どうだ?」
カイナはしばらく黙ってしまった。
少しして勇気を出して口を開いた。
「…ゃ無いんですか?」
「?」
「邪魔じゃ無いんですか?」
カイナはまた涙を浮かべていた。
「……あぁ」
ベックは柔らかな笑みを浮かべながら、カイナの手を握った。
「皆、喜んで歓迎してくれるさ。」
「居場所が無いなら、俺達が作ってやる。」
「だから、」
『俺達の仲間になってくれ』
「っ…!」
ベックの言葉を受けて、我慢していた感情が溢れてしまった。
ボロボロと涙が零れ落ちる。
「私、なんかで良いなら…!」
「あぁ、」
ベックはそっとカイナを抱きしめ、落ち着くまで傍にいた。