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「っ……ふ、ぁ……」
涼ちゃんの口から、どうしても抑えきれない吐息が漏れた。
(ダメだ……もう、ムリ……っ)
脚の奥が熱く脈打ち、
腹筋に力を込めても、震えが止まらない。
リハーサルはまだ続いていたが、
涼ちゃんの意識はほとんど演奏どころではなかった。
背筋を汗が伝う。
口内が乾く。
顔が赤くなるのが、照明の熱だけではないと自分でわかってしまう。
「……涼ちゃん、大丈夫か?」
今度は、滉斗がしっかりと近づいてきた。
涼ちゃんの前に立ち、心配そうに眉をひそめる。
「……あ、ごめん、ちょっと、くらっとして……」
声を絞るように答える。
もはや立っているのもつらい。
その瞬間、誰よりも早く、ステージ袖から歩み寄ってきた男がいた。
――元貴だ。
「涼ちゃん、大丈夫? ちょっと顔色悪い。……休憩室、行こっか」
涼ちゃんは、ほんの一瞬、目元をピクリと動かした。
でも、それは誰にも見えない。
「あ、うん……ごめん、ちょっと……休ませて」
「連れてくよ。滉斗ごめん、ちょっと行ってくるわ」
滉斗も心配そうにうなずき、涼ちゃんの肩にタオルをかける。
元貴は、涼ちゃんの背中にそっと手を添えて、
誰にも気づかれないように“支えるふり”をして、そっと腰を押した。
「……ねぇ、ちゃんと歩ける?」
「……ちょっとムリ、かも……」
ふたりはステージを抜け、スタッフの目をすり抜けるようにして、
奥の“休憩室”のドアを静かに閉めた。
「はぁっ……ぁ、もう……ムリだってば……元貴……」
ドアが閉まるなり、涼ちゃんが壁に手をついた。
背中は緩く反り、汗でシャツが身体に張りついていた。
「……どうしたの? まだスイッチ入れてないのに」
「……ッ、……嘘つけ……っ、ずっと……鳴ってるじゃん……っ」
「でも強さは、まだ中くらいだよ」
「っ……うそ……っ、これ以上、あるの……?」
「ある。まだ3段階くらい上がある」
涼ちゃんは喉を鳴らしながら、首を振った。
「お願い、元貴……っ、もう……限界……
早く、触ってよ……頼むから……っ」