「リディア様‼︎ 遅刻なさいます‼︎ 起きて下さい‼︎」
普段の穏やかなハンナは朝方豹変する。恐ろしいくらいに目を吊り上げて、煩いくらいに怒鳴っている。
「……ぅゔ」
(眠い……眠、過ぎる……)
久しぶり過ぎて起きれない。
ハンナにシーツを剥がされてもリディアはベッドにしがみ付き離れない。
「ご安心下さい、リディア様。リディア様は以前からまともに起きれた試しがございません‼︎」
心の声が洩れていた様だ。それにしても怖い……。たまに二重人格なのかと疑いたくなる程の豹変ぶりだ。
「さあ、リディア様‼︎ 着替えますから夜着を脱ぎますよ‼︎」
ハンナは、半目で未だに半分夢の中にいるリディアを抱き起こすと、夜着を脱がせて侍女服を着せていく。侍女服と言ってもリディアは王妃付きであり侯爵令嬢でもある故、普通とは違いかなり華やかな物だ。謂わば機能性を重視した簡易ドレスの様な物。着るのにも手間も時間も掛かる。
「ハ、ハンナ……あんまり締めないで……苦しぃ」
「何を仰ってるんですか‼︎ まだまだいきますよ‼︎」
ハンナは、悪魔の様な笑みを浮かべコルセットをキツく締めていく。リディアはひたすら寝惚けながら耐えるしかない。
(このまま締め殺されそう……)
その後、髪を整えて薄化粧を施し身なりを整えた……ハンナが。引き摺られる様に門前まで連れて行かれ、馬車に押し込まれる。ハンナはリディアを馬車に乗せると手をパンパンと、まるで一仕事片付いたと言わんばかりに叩く。そして姿勢を正しお辞儀をした。
「リディア様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
そして、また何時ものハンナに戻り穏やかに微笑みながら見送ってくれた。