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中庭の見える長い廊下を歩いて行く。朝日が差し込み木々が風で揺めき頗る美しい光景に感嘆のため息が……ではなく、空腹のため息が出る。
「お腹……空いた……」
何時もながらに朝食は食べそびれる。ギリギリまで睡眠を貪っているリディアには、朝食を食べる時間などない。いつもならハンナが簡単な朝食を包んで持たせてくれていたのだが、久々故多分ハンナも忘れていたのだろう……今日は無かった……。
(うぅ……ハンナの薄情者……)
いやハンナは悪くない。悪いのは自分だ。自分が悪いのだが……やはりこのまま何も食べずに仕事なんてあんまりだ。重苦しい空気を纏い項垂れながら歩くリディア。
「朝から陰気くさいな」
「……煩い」
「おはようございます、お兄様、の間違いだろう。挨拶くらいまともに出来ないのか」
(いや、それ貴方もだから!)
と思うが朝から面倒なので言わない。
「オハヨウゴザイマス、オニイサマ」
「何それ、その変な話し方は。苛つくな」
最悪だ。朝から鉢合わせるなんて……。城内でディオンと顔を合わせる事など滅多にない。何しろディオンの所属する黒騎士団の稽古場や宿舎などがある場所は、城の北側に位置する。リディアが仕事場にしている場所は城の南側故、真逆だ。
「それより、なんでこんな所にいるのよ……」
「別に……たまたま通りかかっただけだよ」
絶対嘘だ。どうやって真逆の場所をたまたま通り掛かる事があるのか。リディアは訝しげな表情でディオンを睨む。
「本当お前って可愛くないね。まあいいや……。ほら、やるよ」
「え」
少々乱暴に押し付けられた包みにリディアは一瞬呆気に取られた。見慣れた包みだ。
「さっきシモンがわざわざ届けに来た。ハンナから頼まれたってさ。全く、本当ウチの屋敷の連中はお前を甘やかし過ぎだよね。だから何時になっても成長しないんだよ、お前は。大体どうして俺がこんな小間使いの様な真似を」
リディアは満面の笑みで包みを開く。ディオンはまだブツブツと何か話しているが全くもって聞いていない。
「おい、聞いてるの?」
リディアは中庭の隅に座ろうとする。時間もないし、空腹だし、さっさと食べたい。
「リディア、待ちなさい」
腰を下ろす寸前、ピタリとリディアは止まった。普段兄に対して反発しているが、たまにこう言う風に厳しい口調で話されると、条件反射で身体が反応する。
幼い頃、母は病弱で床に伏せている事が多く、父は仕事で忙しく余り帰って来なかった。故に良く兄がリディアの面倒を見てくれた。
だからリディアにとって兄は、成長した今でも何だかんだと言いながらも、絶対的な存在なのだ。どんなに反発しても、最後には逆らえない。
「汚れるだろう」
呆れ気味にそう言うと、自分の上着を脱ぎ下に敷いた。ポンポンと軽く叩きその上に座る様に促される。
「早くしなよ、本当に遅刻するよ」
「うん……」
渋りながらも兄に従い腰を下ろした。少し顔が熱い気がする……何故か分からないが、むず痒くて恥ずかしく感じた。