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大樹が舌打ちするなんて驚いた。
基本、怒りの感情があまり無い人間なんだって思ってたから。だからいつもヘラヘラした居られるんだろうなって……。
それなのに今夜はさっきから些細などうでもいい事に拘って、怒っている。本当に大樹の思考回路って分からない。
まあ、怒りの矛先は私じゃないみたいだから、放っておいてもいいんだろうけど。
他のメンバーは皆楽しそうに過ごしていて、初対面だと言うのに、大樹の同僚との飲み会は成功だった。
食事が終ると、当然の様に次の店に行こうという話が出た。
私は疲れていたからパスしたけれど、沙希はすっかり仲良くなった井口さんの腕を強引に引っ張り次のお店に向かい、美野里達がその後を追って行く。
「花乃、俺達も次行こうか」
みんなの後ろ姿が小さくなると、まだ私の隣に残っていた大樹が言った。
「私はやめておくよ。飲みに行くなら早く追いかけた方がいいよ。それじゃあ、今日はありがとうね」
今日の飲み会をセッティングしてくれたことへのお礼を言い、ひとりで駅に向かおうとする。
ところが大樹が、当然の様に隣を歩き出した。
「飲み足りないんじゃないの?」
「花乃と飲みたかっただけ。花乃が帰るなら俺も帰る」
「……何、それ」
子供じゃあるまいし、いちいち私に合わせなくていいのに。
それに一緒に帰るとなると、家までずっと一緒ってことだ。
あと一時間も大樹とふたりで過ごさなくちゃいけないなんて疲れてしまいそう。
憂鬱になりながら改札を通りホームで電車を待つ。もちろん大樹はすぐ隣にいる。
「ねえ、花乃は二次会とか行かないの?」
まだその話? 私はうんざりしながら口を開く。
「その時によるけど……ねえ、やっぱり飲みに行きたかったんじゃないの? 今からでも合流したら?」
大樹は私の方に身体を向けて、真っ直ぐ見つめつながら応える。
「そうじゃないけど、花乃が普段どうしてるのか気になっただけ。こういった飲み会結構やってるの?」
「こういうのって、合コン的なの?」
なんで大樹に教えなくちゃいけないのかって反発心も湧いたけど、借りがある状態なので仕方ない。
「私は行かないよ。知らない男の人と飲むの本当は好きじゃないし」
「そうなんだ」
大樹は妙に弾んだ声で言い、機嫌良く笑う。
「でも今日は俺も居るし、次も行っても良かったんじゃない?」
なんだかやけにうれしそう。大樹が居るから尚更行きたくありませんって私の気持ちにはまるで気付いてないんだろうな。
「今週は仕事が忙しくて疲れ気味だから。それに来週遅くなるかもしれないからね……」
須藤さんとの飲み会は二次会だろうが三次会だろうが、最後まで行くんだから。
それだけ一緒に居たら、少しは話せる様になるかもしれない。
とにかく、緊張するなんて言ってないで頑張らなければ。
欠点を克服して、須藤さんい近付きたい。好き避けなんてしてる場合じゃない!
そんなことを考えていると、少しトーンの下がった大樹の声がした。
「来週何が有るの?」
「え?」
「遅くなるって言ってただろ?」
ああ、私余計な事まで言ってしまったんだ。
でも別に隠す必要も無いし、そのまま言えばいいか。
「来週も飲み会が有るの。そっちは最後まで参加しようと思ってるんだ」
そう言った途端、大樹がスッと目を細めた。
……何、この表情。まただ。いつもの大樹らしくない。
「誰と行くの?」
「……会社の人とだけど」
「男も来るわけ?」
大樹の視線が凄く冷たい。
「来るよ。それが何?」
なんだか落ち着かない気持ちになる。大樹はそれまでより一層低い声を出した。
「そんな飲み会行くなよ」
「……!?」
な、何、この強気な口調。上から目線。俺様っぽい態度。
いつもの暢気な大樹はいったいどこに?
「何で最後まで付き合うんだよ?」
詰問する様な口調。
最初は驚いて、うっかり何もいえないでいたけれど、段々苛立ちが込み上げて来た。
「大樹には関係ないでしょ? 何でプライベートなことまで口出しされないといけないの?」
大樹に負けないくらい冷たく言い放つ。
彼はハッとした表情になり、それから気まずそうな顔をした。
「……ごめん。そうだよな。俺が口出しする事じゃないんだよな」
しょぼんと項垂れて呟く。
ちょっと言い過ぎたかなと思いながらも、歩み寄る気持ちは湧かなかった。
「そうだよ。何不機嫌になってるのか知らないけど、私の事は放っておいてよ」
「……」
大樹は何か言いたそうにしながらも結局何も言わず、気まずい雰囲気のまま私達は電車に乗り込んだ。