テラーノベル
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テレビに映る姿の声で目が覚める。どうやら私は眠っていたようだ。
眠ってから時間があまり経っていないのか、自動消灯は稼働していない。液晶には神妙な面持ちのアナウンサーが座り、現在の世界について語っている。
『今日未明、〇〇県の〇〇町にて遺棄された二十代男性の遺体が発見されました。』
『この県では半年前から⸺』
テレビの電源を消す。嫌な目覚めだ。
他人の不幸ばかり追って恐怖して、楽しいのだろうか。
気分転換でもしようと思い、ふらつく脚で冷蔵庫に向かうと飲み物が切れている。コンビニでも行こうと携帯だけを持つ。
「……あ、鍵忘れた。」
少し考えたあと、「まぁいいや」と呟く。防犯の為付けられた鍵だが、物に執着がない私には別に関係ない。私は鍵を開けたまま家を出た。
「ねぇ、噂の「悪魔事件」、また被害者が出たんだって」
「あー、さっきネットニュースで見た。いい加減この街にも来そうで怖いよなー。」
街ゆく通行人の話す声が聞こえる。通行人はすぐに話題を別の物に変え、私の横を通り過ぎた。
「……。」
この県には、悪魔がいる。
私が住む、この街以外に。
買い物を終え、帰路につこうと顔を上げる。目に入ったのは向かいのビルだ。このビルは数ヶ月前からテナントに出されていて、人は出入りしない。新しいビルを建て直そうかという話も出ているほど古くて、興味を持つ人もいない小さな建物だ。
ふぅ、とため息を吐く。私は廃ビルに歩みを進めた。
重い扉を押す。少し生温い風が皮膚に触れ、一人と目が合う。
「あ!来てくれた」
その女の子は笑った。少し前、涼しい夜風に当たりたいと思いこの屋上に登ったとき、この女の子と出会った。
女の子は無邪気に、でも少し不敵に微笑み、口を開く。
「最近、よく来てくれるね。好きなの?このビル。」
「……割と」
「割とかー。」
常に微笑む女の子と対象的に、私は無表情で話す。仏頂面と言われ、人と関わるのが楽しいと思う感性を持ち合わせていない私にとって、このように自然体に言葉を交わせる女の子との時間は唯一の楽しみとなっていた。
「でも、いつもここいていいの?友達とか、彼氏いないの?」
「友達なんて高校卒業したらいなくなったよ。彼氏なんてもってのほか。それに、私は人と馴れ合いたくない」
「中二病引きずってるタイプ?いい加減やめなよー」
ヘラヘラと彼女は笑う。
「……元からよ、こんな性格。」
「ふーん……でも、その性格。他人に流されないっていうかで」
「私は好きだな。」
「……そう」
不思議と嫌な気持ちはしなかった。
手すりに手を乗せ、街を眺める。当たり前に皆誰かと歩いてて、混ざり合ってる。
「……私には理解できないや。」
呟くと、彼女は顔を覗き込む。
「いつもに増してつまんなさそうだね、嫌なことでもあったの?」
「……嫌な、こと……。」
背を曲げ、手すりに乗せた手に顎を置く。
「……そう、かもね。」
「隣町の殺人事件とか、”悪魔”とか。気が滅入る話ばっか好きよね、人間って。」
「疲れた。」
彼女は表情を変えず、少し考えて聞く。
「君はさ、天国があるなら、どんな場所だと思う?」
変な質問だ。普段、こんなこと聞いてこないのに。
「……天国なんてないよ」
「死んだら悪人も良い人になるとか、天国は楽しいとか」
「人ってそれぞれズレがあるし、それはその人の本当なわけで、その本当が違う人同士は仲悪くなるんだし。」
「それが全て矯正されて皆仲良くなるなんて、そんなの自分じゃない。誰かの本当に狂わされてるだけ。」
「もし天国があるなら、そこは間違いなく地獄だよ。」
遠くの鉄塔を見つめる。所々に同じものが立っているが、それぞれが自分の仕事をこなしている。
「……ふーん。君ってほんと変な子だよね」
彼女はそう返す。その表情は、どこか嬉しそうだった。
「……でも」
「もし天国があるなら」
「それぞれがそれぞれの本当で幸せを掴んで、それを実現できる夢の世界があるなら。」
彼女に目を合わせ、呟く。
「……この時間みたいな感じだったらいいな」
視界が緩くぼやけていく。霧がかかるみたいだ。護られていた願望に刺される私に、彼女は笑う。
「……ねぇ」
声が震える。頬には雨のような結晶が流れ、息が詰まる。
「わたし、死にたいなぁ。」
声に出た言葉。彼女はニコッと微笑んで私に手を差し伸べる。手を取ると、彼女は私を抱きしめた。
(……あれ)
(私、この子の名前知ってたっけ……。)
目を瞑る。風が耳を滑り冷たい。手すりに手を掛け、持ち上げられるように身体が上がる。
(まぁ、いいや。)
きっと私は、この街の最初の犠牲者だ。
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このアカウントで初めて投稿した「悪魔がいない街」のリメイクです。