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風間医院
マオの話から若い医者が沢山いるような総合病院的なものを想像していたが、内科と皮膚科のいわゆる診療所だ。
受付をするために、保険証を取り出して俺がまだ親父の被扶養者である事を確認すると無性に腹が立つ。
早くこの状態から抜け出したい、親父とはもう関わりたくない。
住所は念のために実家の住所を記入して椅子に座った。
患者は年配者が多く、この診療所が町に溶け込んでいるのがわかる。
診察室から一人の女性看護師が顔を出して誰かの名前を呼んでいた、その呼びかけに杖をついた高齢の女性が手を挙げるとその看護師はにこやかに近づいて高齢女性を補助している。
その看護師が一瞬こちらを向き目が合うと凍りついたような表情になり高齢女性に声をかけられ慌ててその女性を補助しながら診察室に消えていった。
その後も看護師は患者に声をかけられたり言葉をかけたりとこの病院でとても頼りにされているように見える。
俺は彼女のベッドの上での姿しか知らない。
俺の名前を呼んだ彼女の耳元で休憩時間は?と聞いてから診察に入り頭痛があると適当に症状を伝えると、彼女に血液を採取された。
その時に、1時 駅前のcafeと書かれたメモを渡された。
自分は平気で学校に現れるくせに、俺がくるとは思っていなかったんだろう。
彼女は1時10分過ぎにやって来た。
「働いているマオの姿を初めて見た。患者さんにも信頼されているのがわかるし、とても輝いていると思った」
マオは何も言わず黙っているがその姿はいつもの飄々としたものでも、瞳から聞いた不遜な態度でもなくただ無表情だ。
「家と大学に来たと聞いた。度を越していると思ったしストーカーとして警察に相談をするかマオの勤め先に話をするつもりだった」
俺の言葉を聞いたマオは「やめ・・て」と下を向いたまま小さく答える。
「でも、患者さんと話している姿を見てその気持ちは無くなった。それに、俺も悪かった。ごめん。マオの気持ちを知ろうと思わなかったし必要が無ければ勝手に終わらせればいいと思っていた。だから、スマホだけで簡単に済ませた。会って話すべきだったと思う」
「わたしが好きだと言っていたら、関係は変わっていた?」
「はっきり言うとその時点で関係を終わらせている。俺はずっと誰かを好きだと思う感覚がわからなかったし、煩わしいと思っていたから」
「わたしが何をしてもリョウの恋人にはなれなかった?あの人とはどう違うの?」
「セックスしている時はストレスが発散されて快楽だけ感じれば良かった、でも彼女に出会って隣にいてくれるだけで心が凪いだ。好きだとか大切にしたいと初めて思った」
「彼女さんにリョウの下半身事情をバラしてきた」
「聞いた」
「気まずくなった?」
「ああ」
「ザマアミロ」
「そうだな」
「じゃあ、仕事に戻るから」
「今までありがとう、そしてさようなら」
そう言って立ち上がると頭を下げた。
マオだけじゃない、今まで何人も傷つけてきた。
瞳と出会って、大切にしたいと思って初めて今までの俺の行動を後悔した。
頭をさげつづける俺にマオは「これからは体から始めるのはやめるわ」と言って店を出ていった。
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