夜も更けてきた頃、風呂から上がり、熱の篭った体から熱を逃がすためにベッドの上で横向きでスマホの画面を眺める。
眠気がふらっと現れて、襲いかかってきた。そろそろ眠ろう、と思った頃に何かが背中を掠めた。背筋をなぞるように移動する暖かい流動体。
もしや、と思って寝返りを打つと、そこには瑠璃色の瞳を持つ黒猫のきんときがいた。
sm「…きんとき?」
にゃー、と普段よりも高い声色で、呼応するかのように短く鳴いた。
そして、腹を前足で交互に踏んでから、そのままふてぶてしく腹の上で香箱座りをする。
柔らかい肉球が腹に沈まる感覚も、腹の上の圧迫感も心地が良かった。頬骨毛あたりに人差し指を添わせて、優しく撫でた。
頬の肉の質感やふわふわと広がる柔らかい毛を指先でなぞる。人間よりも少し高い体温の猫。腹や指から彼の熱が伝わって、体内に宿っていく感じがした。
撫でられるのが、気持ちよかったのか、もっと撫でろと言わんばかりに擦り寄ってきた。
sm「…なに?」
ふわふわな毛が指に絡まる。頭を撫でていると、煙を巻いて彼は姿を変えた。
腹の上にちょこん、と座っていた猫から、すっぽり覆い被さるほどの大きさの人間になる。
心地の良かった腹の圧迫感から、彼の自重を全身で享受する。圧迫されて、少し苦しいが、彼の背中に手を回して存在感を噛み締めた。人間に変わっても依然として変わらない高めの体温が心地よかった。
kn「いや…なんでもない」
そう言いながらも、彼はネコが毛繕いするかのように頬を舐めてきた。
ネコは舌の中心部の表面がザラザラと突起が付いている。ザラザラしていて、その舌で舐められるとなると、かなり痛い。彼なりの配慮なのか、その突起に触れないように舌先でグルーミングした。
こんなに甘えてくることは滅多にないし、何か裏があるはずだ。
sm「くすぐったいんだけど…。」
鳥肌が立って、ゾクゾクとする。背筋に何か冷たいものが急ぎ足で走っていくようだった。そんな感覚でも、慣れていくと気分が悪いものではなく、思わずくぁ、っと1つ大きな欠伸が溢れ出てしまった。目尻に熱が籠り、1粒の涙が目尻からこぼれていく。
kn「…スマイル、眠いの?」
毛繕いを辞めて、そう聞いてきた。
sm「きんとき暖かいから…眠い。」
涙で滲む視界で、サラサラと艶のある黒髪を手で梳かした。絡まらずに手からすり抜けて落ちていく。
kn「…!」
その言葉を聞いた彼は、ぱっと目を光らせてゴロゴロと喉を鳴らした。
相反して、俺の身体は眠気に包まれつつある。瞼は重たくて開いていられない。彼の綺麗な髪を撫でる手も止まっている。
kn「おやすみ」
彼はそんな姿の俺を見かねて優しく声を掛けた。熱が離れて、圧迫感が消えていく。白んでいく視界の端に映ったのは、口端を引き上げてあどけない笑みを浮かべていたきんときだった。
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腹の上がやけに重たくて目が覚める。内臓が上から潰されているような、そんなよく知っている圧迫感。腹の上で小さく丸まって眠る彼。
その感覚が愛おしくて、安心する。そのまま重たい瞼をまた閉じて再び眠りについた。
コメント
2件
化け猫kn...? めちゃすきです...