コメント
3件
僕のヒーローアカデミア ホークス 様の夢小説
⚠自己満夢小説
⚠全面戦争前後の話
⚠雰囲気重視
⚠長いです(3000字超え)
⚠終始夢主視点
それでも良い方だけお進み下さい𓂃🦅
「別れましょう」
「…………え?」
2年付き合っていた彼氏に、突然別れを告げられた。
同棲している広めのマンションのリビングで、一人ぽつんと立ちすくむ。
追いかけられなかった。足が動かなかった。
突然の事で頭が回らなくて、彼が飛び立ったベランダをただ呆然と眺めていた。初春の夜風が部屋に入ってきて、ふわりとカーテンが舞う。
それはまるで私を嘲笑っているかのようだった。
私と彼の出会いはとあるカフェ。
私はそこで働いていて、彼は毎朝コーヒーを買いに来ていた。いつも決まってミルクとシュガー多め。
連絡先を聞かれて交換して、オフの日に会うようになって。告白は彼から。一目惚れだったと当時語っていた。
一目惚れから始まる恋は長続きすると聞くが、それはどうやら嘘らしい。少なくとも私達には当てはまらなかった。
まあNo.2ヒーローで女性人気も高い彼のことだ。今思えばなぜ私を選んだのかも分からない。彼は自分の生い立ちや昔のことを話さないし、私も聞いたりはしなかったから、結局最後まで何も知らない。
知っているのは、公表されていない本名と、鶏肉が好きなこと。あとはヒーローをやっている理由とエンデヴァーファンなことくらいだ。
それでも同棲していた以上、彼のファンや仕事仲間は知らないような、彼の癖とか、普段の生活とかは知っているつもりだけれど。
あれから私は心ここに在らずな状態で毎日を過ごした。仕事に行って、家事をして、寝て、また起きて。彼がいなかった頃の生活に戻っただけなのに、こんなに喪失感があるのは、彼がいるのが当たり前になっていたからだろう。今思えば贅沢だったのかもしれない。
そんな私を心配してくれた店長が、シフトを交換して平日にもかかわらず休みをくれた。有難いけれど、それ以上に申し訳ない。
特にやることもなくボーッとテレビを見ていた。ニュースでは、とある区域で起こっているヒーローと敵の抗争が激化していることを伝えていた。
ほとんどのヒーローが動く大変な事態になっているらしい。
彼は大丈夫だろうか。
そう、胸がざわついていた、その時。
プツンッ
画面が突然切り替わり、顔や腕に火傷を負った青年の映像が流れた。どのチャンネルに回しても同じ映像。乗っ取られているのだろうか。
その青年が話す内容は、とてもじゃないが信じられるものではなく。エンデヴァーの息子と名乗る青年は、エンデヴァーの家庭事情についてツラツラと述べる。
そして、
『No.2ヒーロー ホークス』
突然上がる彼のヒーロー名に、テレビを消そうとしていた手が止まる。
そしてまた画面が切り替わり、敵の背中を剛翼の刀で突き刺す彼の写真が流された。
『ホークスは泣いて逃げる敵を躊躇無くその刃で貫いた。僕が守ろうとした目の前で』
次に語られたのは、私も知らなかった彼の生い立ち。彼が犯罪者の息子であること、それを隠すために本名を公の場に出さなかったこと。
なんの証拠も根拠も無かったエンデヴァーや彼の話が、点と点が線で繋がったように真実に見えていく。
心臓がドクドクと早鐘を打って、痛い。息が浅くなって、ソファから立ち上がった。
彼が私に別れを告げたタイミング、理由。
それは私に飽きたり愛想を尽かしたからだと思っていた。でも、或いは…。
或いは、この全面戦争で命を落とす可能性があるから、私を悲しませないために。もしくは今まで自分がしたことを償うために。
私の杞憂ならそれでいい。でもそうでないのなら。そう思うと動かずにはいられなかった。
彼の事務所の事務員であり、彼と付き合ったことをキッカケに仲良くなった友達がいる。その子に彼の居場所を聞き出した。
そこは最先端の医療技術を備えるセントラル病院。彼は大怪我を負って、ここで入院しているらしい。その子に同行してもらい、許可を貰って病院に入ることが出来た。
カツカツと早足で廊下を進み、入院室に入る。
「啓悟」
「!?、〇〇ざん…」
室内に置かれた一つのベッドに座る彼。私を見るなり目を丸くして名前を呼ぶけど、喉に火傷を負っているため、すぐに咳き込んでしまった。
全身に包帯が巻かれ、彼のトレードマークである赤い翼は残っていない。口元には黒いマスクをしていた。
彼はスマホを取り出すと、カタカタと何かを打ち込む。すると無機質な音声が流れた。自分の声の代わりらしい。
「〈なんでここに…〉」
「会って話したかったからだよ」
「……〈もう話すことなんてないでしょ〉」
「あるよね?多すぎるくらいに」
ベッドの横に立ってそう返す。少し強い語気。でも弱気じゃダメだ、しっかり伝えないと。
そう心の中で自分を鼓舞して、私は真っ直ぐ啓悟の瞳を見詰めた。
「ねえ、なんで私のことフッたの?飽きちゃった?愛想尽かしちゃった?」
「……」
「全面戦争のこと、言ってほしかった。別れるんじゃなくて、ちゃんと話して、2人で決めたかった」
「……〈貴方も見たでしょ、荼毘のビデオ〉」
布団の上に置かれた彼の拳に力が籠る。
「〈俺は犯罪者の息子で、仕事とはいえ敵を殺して、それを貴方に話もしないような奴なんです。俺に貴方の隣にいる資格なんてない〉」
「それはっ、」
「もう帰って下さい」
カサついた声が私に冷たく放たれる。
「もう、これ以上…、 !!」
声を渡るように身を乗り出して彼の体に腕を回す。優しく、傷に擦れないように。安心させるように。
「何、して…」
「ねえ啓悟、啓悟は頑張りすぎだよ。今まで誰にもバレないように、ずっと生きてきたんでしょ。辛かったんじゃない?苦しかったよね」
「〇〇さ、離して、俺なんかに…」
「”俺なんか”じゃないよ。啓悟の家族がどんな人でも、啓悟は啓悟。啓悟が人を殺したのが本当だとして、それが許されないことだとして。それでも私は、私だけは啓悟を許すよ」
「!」
彼の肩口に顎を置いて話す。私の言葉に啓悟の体がぴくりと揺れた。片手を彼の後頭部に回して、ゆっくりと撫でる。
彼は頑張り過ぎてる。幼い頃に苦労したからか、人に頼るということを知らない。きっと頼るという発想がない。
それなら、これから覚えていけばいいと私は思う。
「〈でも俺は、犯罪者の子供で、人を殺して、明るい世界で生きてきた善人の貴方とはあまりにも違い過ぎる。俺は汚れ過ぎたんです〉」
「汚れたんなら洗い落とせば良い。まだ間に合う。私が手伝うから。だから、別れるなんて言わないでよ」
最後の最後で声が震えた。
彼を安心させるはずだったのに、私が泣きそうになってどうするの。
「好きだよ」
「ッ、」
「大好き。啓悟と一緒なら何だってできる気がするの。大丈夫、大丈夫だよ」
「ごめんなさい…。俺、貴方を傷付けないために距離取ったのに、結局貴方に救われてばっかで…」
彼の両手が恐る恐る私の背中に添えられる。彼の額が左肩に触れて、じわりと冷たく湿った。
「私こそ、啓悟の力になれなくてごめん。何も気付いてあげられなくてごめん」
「謝らんで、」
「うん、だからこれからは一緒に」
一緒に歩んでいこう。少しづつで良い、前へ。
頬を濡らしながらもへにゃりと力無く笑う彼と、小指を絡めてそう約束を交わした。