コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私の名前は塩地(しおじ)星夏(せいか)。年齢は秘密っ!
私は企画開発部に所属する会社員。企画開発部に所属する以上、自分の企画を通して
世の中に自分が考えて製作に携わった商品を届けたいという思いが少なからずあるもの。
私は入社当初、宣伝部に所属していたが、企画開発部に行きたくて行きたくて、念願叶って企画開発部に。
張り切って企画書作ってプレゼンするも、私の企画が通ったことは未だ無し。
落ち込んでいたときに同僚で親友の千石(せんごく)夕彩(ゆあ)に
マジックバー&バー「immature lure portion」に連れて行ってもらい
RENさんに会い、RENさんのマジックを見て以来、私は絶好調!
仕事もテキパキこなし、上司からも褒められ、後輩からも慕われ
仕事も自分の分はもちろん、人のにも手を回せる余裕まで。
「すいません!資料、家です!」
という人のために予備資料作りをしていてそれを渡したり
提携企業の先方の方との会議で、先方の方が好きなものを事前にリサーチして
会議用の飲み物やお茶菓子などをその方に合わせることで、会議を円滑に進めることができ
「助かったよ」
と課長から褒められたり、企画プレゼンで念願の私の企画が通って
もちろんその企画のリーダーは自ずと私になり、自分のプレゼンした、自分が考えた商品を作るため
少しでもいいものにするために、プライベートだって1分1秒を削り
より良いものが店頭に並ぶように、皆さんに手に取ってもらえるように
そして皆さんに満足していただけるように、忙しいけど充実した日々を過ごし…
「ってなる流れじゃないの!?なんで未だ私は鳴かず飛ばずなの!?」
お昼休憩で休憩スペースで同僚で親友の夕彩(ゆあ)とお昼ご飯を食べながら嘆く星夏(せいか)。
「いや知らんがな。マジックバーに行ってそんな変わるんなら私も変わってるし」
パンを食べながら言う夕彩。
「物語の流れ的にはそういう流れじゃないの?」
「なんの物語だよ」
「私がヒロインのウメンワーキングドラマ?ほら、ポスターも容易に想像できる」
「…ふっ。全然イメージできん」
「おい」
「オフィスドタバタコメディのほうが似合ってるわ」
「しばくぞっ?⭐︎」
「恐っ」
お昼ご飯は食べ終えたが、お昼休憩はまだ残っていたのでそのまま話す。
「マジックバー行ってそんな仕事できるようになったら、マジックはマジックでも手品じゃなくて魔法だよ」
夕彩が笑いながらスマホを見ながら言う。
「たしかに。…魔法でもなんでもいいからかけてほしいわ」
「紅茶でもかけたろか?」
「…そのかけるじゃない」
と言いながらも後輩の有恩(ありお)怜視(さとし)と郷堂(きょうどう)四季(しき)が
2人で座ってお昼ご飯を食べながら話しているのが視界に入る。
「あの2人同期だよね?」
夕彩がスマホから顔を上げ、星夏の視線の先を見る。
「あぁ、有恩くんと郷堂さん?」
「そ」
「だね。付き合ってんのかな」
夕彩が何気なく言うと星夏はじーっと2人を見る。
「四季ちゃん…若くて企画も通って彼氏もいたら…呪ってやるからな…」
と恨めしい顔で言う星夏に軽チョップをする夕彩。
「カッコいい先輩でいなさい」
「うぅ〜…」
「あの子同期に同性の友達いないっぽいし。私らが仲良くしてあげなきゃ」
「そうなの?」
「なんかね。ずっと有恩くんといるし。ちなみに有恩くんも」
…
それは有恩 怜視、郷堂 四季が入社してきた年。新入社員たちは固まってお昼を食べたり
「まだ慣れないぃ〜」
とか
「今日コピーミスったけど先輩が優しくてさぁ〜」
とかそんなことを話していた。怜視も誘われてその輪に入ってはいたものの、自分から喋ることはなかった。
そんな中、少し職場に慣れてきた頃、お昼を一緒に食べ、お昼休憩の時間を一緒に過ごしていた同期が
「いやぁ〜なんかあれやれこれやれって、よく考えたら立場利用して楽しようとしてるんじゃね?
これパワハラになんのかな?」
と笑って言っていたり
「私は逆に気遣われすぎて仕事しに来てんのになぁ〜って感じ。
これホワハラ(ホワイトハラスメントの略称。ホワイトハラスメントとは
上司や先輩が部下や後輩に対し、「仕事の負担をかけないように」といった過剰な配慮や優しさを示すことで
結果的に相手の成長機会を奪ったり、場合によっては精神的な苦痛を与えたりするハラスメントの一種である)
に該当する?」
などと話している中、 怜視が口を開く。
「…ハラスメントハラスメントうるせぇな」
「は?え、なに?」
今まで話しかけられても2、3言ほどしか喋らず、自らは喋りにいったことのない怜視が自ら喋ったこと
そして喋った内容にもビックリして同期の視線が怜視に集まる。
「聞こえてただろ。ハラスメントハラスメントうるせぇっての。
んなんならさっさと辞めろよめんどくせぇ。辞めるつもりないならそれ直接本人に言えよ。
自分でやってくださいとかもっと仕事くださいとか。
それ言えないくせにハラスメントで全部片付けようとしてんじゃねぇよ。
ハラスメント側もこんだけ乱用されてハラスメントだろ。あと周囲にも気遣えよ。
くだらねぇ話してるのも充分にハラスメントだってことわかんねぇのかよ。
マジくだらねぇ。…あんたらと一緒にされたくないからもう昼誘わないでください」
と言い放ってその場を離れたのだ。
…
「ってことがあって以来同期の同性の友達いないらしい。ま、聞いた話で本当かどうかは知らないけどね」
「まあぁ〜…。そんなこと言ったら友達なんてできるもんもできないでしょ」
「カッコいいけどねぇ〜。それで仕事できるんだし」
「たしかにねぇ〜」
なんて話してお昼休憩の時間が残り少なくなったのでオフィスへと戻った。
夕方になり、店の掃除のために早めに店を開ける恋斗。店の清掃は恋斗ともう1人の従業員で順番に担当する。
「おはーっす!」
本日の担当はテンション高めのギャル風味がある
八重歯が光るミルクティー色の髪の女の子、土成田(となだ)友恵乃(ゆめの)。
「おぉ。お疲れー夢魅(ゆめみ)さん」
マジックバー&バー「immature lure portion」での源氏名は「夢魅」。
「お疲れー店長ー」
「店長ー…まあいいや。掃除始めようか」
「うぃーす」
掃除は食器洗い、灰皿洗い、店内の掃き掃除、店の前のスペースの掃き掃除
店内のモップ掛け、トイレの鏡拭き、トイレットペーパーを三角に折ったり
トイレットペーパーの残りを確認したり、消臭スプレーの残量も確認したり
カウンターやテーブル席のテーブル拭きなどを行う。
掃除が終わると、カクテルに使うソフトドリンクや牛乳などの在庫確認
お酒の残量の確認、トランプや外国のコインなど、マジックに使う小道具の確認をする。
掃除に店内のいろいろな確認などで時間を使うので、ゆっくりやっても少し時間が余るようにしている。
早めに集合して早めに終わる分にはそれはそれで良し。
その日も一通り終わっても時間が充分に余ったので、余った時間は自由時間。
「ちょ外出てきます」
「ん」
友恵乃が外に出ていった。恋斗はソファーに座りスマホをいじる。しばらくすると店の入り口のドアが開く。
「うぃ〜す。恋(れん)ちゃん」
と1人の男の人が入ってきた。
「あ、颯希(さつき)さん。お疲れ様です」
「お疲れー」
彼は美神楽(みかぐら)颯希(さつき)。恋斗が働いているマジックバー&バー「immature lure portion」の
近くのホストクラブ「Run’s On1y」のホストである。
「また同伴ですか?」
「そそ。待ち合わせ時間までまだ時間あるからここで潰させてもらおーと思ってねー」
と言いながらソファーに座り、スマホを出す颯希。
「自分のホストクラブの店内で潰せばいいじゃないですか」
「嫌(や)だよー。他のホストも続々と出勤してくるし、職場で待つの嫌(や)じゃない?」
「よく職場で時間潰してる自分に向かって言えますね」
「いや、恋ちゃんはそのままここで仕事するわけじゃん?オレは一回外出てお客さんと一緒に戻るわけだから」
「あぁ〜。なるほど」
「社長出勤みたいで嫌じゃん?」
「ナンバー1なんですから堂々としてればいいのに」
そう。颯希はホストクラブ「Run’s On1y」のナンバー1。しかも数年不動のナンバー1。
街中に飾られているホストクラブ「Run’s On1y」のホストの写真の脇には
「不動のKing 一希」と書いてあるほどだ。
ちなみに「一希(いつき)」とは颯希がホストクラブで使用している名前、俗に言う源氏名である。
「まあねぇ〜…」
と空返事をしながらスマホをいじる颯希。
「あ、恋ちゃん。タバコ吸ってい?」
「えぇ〜…。ま、いいっすよ。電子っすもんね」
「そそ〜」
と言いながら電子タバコを取り出してテーブルの上に置く颯希。
恋斗はソファーから立ち上がり、カウンターへ行って
灰皿を持って颯希のテーブルに近づき、灰皿を颯希の前のテーブルに置く。
「あんがとぉ〜」
「いえいえ」
電子タバコを吸いながらスマホをいじる颯希。
「あ、そうだ。こないだ双子くん来ましたよ」
「あぁ、舞雪(まゆき)と真白(ましろ)?」
「ですです」
舞雪と真白とは颯希と同じホストクラブ「Run’s On1y」のホスト。
なんと世にも珍しいことに一卵性の双子で、鏡のように同じ顔の2人が同じホストクラブでホストをしている。
ただ珍しいだけでなく顔も良い。そのため物珍しさから指名するお客さんも
単純に顔で指名するお客さんもたくさんいるのだとか。なので2人とも2位という不思議な順位になっている。
「2人で来たん?」
「はい。たぶんお客さんと一緒に」
「同伴か。…あ、そっか。ここ教えたのオレだ」
「颯希さんすか。ま、ありがたいですけど。でもすごいですよね。髪の毛2人とも真っ白で」
「あぁ〜。名前通りだよな」
と笑う颯希。
「でもあいつら本名、花火と祭だから季節真逆なんだけどな」
と笑う。
「へぇ〜。そうなんですか」
「あ、そうだ。あともう1人来るー…かも」
「今、これからですか?」
「あー違う違う。あのぉ〜。同伴で店使うかもって話」
「あ、はい。うちとしてはありがたいっていうか。颯希さんが変な人来させるわけないって信用してるので」
「変な人…。ま、暴力的とか暴言吐くことはないけど…すこぶるバカだからなぁ〜」
と2人でしばらく話して颯希が電子タバコを吸い終え、吸い殻を灰皿に出して
電子タバコの機器を灰皿に軽くあててからタバコ、スティックの箱に乗せる。
「んじゃーそろそろ行くわ」
と言って電子タバコ一式とスマホをパンツのポケットにしまって立ち上がる颯希。
「はい」
「うちの箱(ホストクラブのこと)行く前に寄るから」
「了解しました」
「空いてるかLIMEする」
「助かります」
「じゃ、姫様を楽しませてきますわ」
「いってらっしゃい」
と颯希が店から出ていこうとすると扉が開く。
「うおっ。ビックリした」
友恵乃が店に帰ってきたのだ。
「おぉ。夢ちゃん」
「あぁ颯希さん。ちーす」
「ちーす」
「これから出勤すか?」
「ううん。同はーん」
「うげぇ〜。ホストォ〜」
「ホストでぇ〜す。ナンバー1でぇ〜す」
友恵乃が扉を支え開けておく。
「あ、ごめんごめん」
と言って外に出る颯希。
「んじゃ、夢ちゃん。また後でね」
「あ、来るんだ?」
「行く行く」
「お待ちしております」
「またねぇ〜」
手を振る颯希に手を振る友恵乃。
「もうここ颯希さんの第二の拠点ですね」
と店に入りながら恋斗に笑いながら言う友恵乃。
「そうね。ま、しょっちゅう来て売り上げに貢献してくれてるし、単純に良い人だからいいんだけどね」
と話していると扉が開いて青い髪でメガネをかけた翔煌(しょうき)が出勤してきた。
翔煌はワイヤレスイヤホンを外して
「おざっす」
と恋斗に挨拶をした。
「お疲れー」
「おぉ〜翔煌パイセン。お疲れっす!」
「おぉ…お疲れ」
と友恵乃に控えめな挨拶をして控え室に入っていった。
「今日3人でしたっけ?」
友恵乃が恋斗に聞く。
「ううん。オリビアさんもシフトある日」
「おぉ!オリちゃん来るんだっけか!癒されるんよねぇ〜。
でもそっか。オリちゃんも来るのか…。オリちゃんも可愛いしな…。
店長には勝てるけどオリちゃんと翔煌パイセンには勝てるかなぁ〜」
「オレには勝てるってサラッって言ったね?」
「オリちゃんは日本人離れした綺麗な顔してるし、翔煌パイセンはアイドル的人気あるんで」
「どっちかって言うとホスト的じゃない?」
「いえ!ホストは女性に媚び売りますけどアイドルは媚び売らないんで」
キッパリ言い切る友恵乃に
いや、媚び売りまくりのアイドルもいるでしょ
と思ったが口には出さないでいた。
「私もアイドル的人気を誇るんで、オリちゃんと翔煌パイセンと人気勝負してるんです」
「勝手にな」
と言いながら青い髪のメガネなしの翔煌が出てきた。
「あ!それー!ズルいっす!」
友恵乃が翔煌を指指す。
「なにがだよ」
「その「いつもはぁ〜メガネだけどぉ〜今日は特別…コンタクトだよ…」っていうギャップ!」
「なんだそのねっとりした言い方。あとお客さんの前ではコンタクトだよ。だいたい」
「あ、そっか」
「逆にメガネの翔煌を見たお客さんはレアかもな。
よし。あと20分くらいで開けるから指解(ほぐ)しといて。準備運動とか」
「うーす」
「はぁ〜い!」
帰宅可能な時間になり自分の席で、背もたれにもたれかかるように伸びをする星夏。
「んん〜!」
「塩地(しおじ)先輩」
背伸びをした先に逆さの怜視が目に入る。
「おぉ。どうしたの有恩くん」
「昼もらった資料のデータなんですけど、誤字が何箇所かあったんで訂正しておきました」
「おぉ。そっか。ごめんね」
「いえ。たぶんもう大丈夫だと思いますけど、一応確認してもらって
塩地先輩と自分以外の第三者の人に改めて確認してもらったほうがいいかもです」
「あぁうん。ありがとう」
「いえ」
と言って自分の席に座る怜視。
「あれ。帰んないの?」
「あぁ。もう少し仕事してから帰ります」
と怜視が言うと
「おぉ〜い。お前らが帰んないとオレも帰れないだろぉ〜」
と自分の席でイスごと自分を回転させる男性。
「別に私らがいるからいいっすよ?青牙(あおきば)先輩帰っても」
「あそ?なら帰るか」
と言って立ち上がる青牙 竣(しゅん)の両肩に両手を置いて体重をかけて座らせる
竣の同期の篠時(しのじ)青音羽(あおば)。
「はぁ〜い。座りましょうねぇ〜。でも有恩くんも郷堂さんもよく残って仕事してるけど
早く家帰りたいとかないの?」
と青音羽が言うと怜視はパソコンを操作しながら
「ないっすね。家帰ってもテレビとか動画見て寝るだけなんで」
とあっさり、さっぱり言う。
「わ、私もです」
四季もパソコンを操作しながら言う。
「他の部の2人と同期の子らはすぐ帰るって言ってたよ?急ぎの仕事じゃない限り、次の日に持ち越すって」
「へぇ〜。そうなんすね」
「ないの?なんかーそれこそ推し活ーとか好きなMyPiperがいてその人の動画見たいーとか」
「篠時、好きなMyPiperも推し活の1つだろ」
と言う竣に
「…うるさいな」
と言って手を乗せていた竣の肩を思い切り握る青音羽。
「いっ」
「アーティストとかMyPiperとか推し活とか趣味とかペットとか。
…。あ、これってハラスメント?なんかのハラスメント?」
と急に不安になり竣に聞く青音羽。
「ガッツリハラスメントだろ。略してガツハラ?」
と笑う竣。続けて
「なにハラか知らんけど。…調べてみるか。…えぇ〜っと?「プライベート 聞く ハラスメント」っと」
と調べて始める。
「全然ハラスメントじゃないっすよ」
と相変わらずパソコンを操作しながらさっぱり言う怜視。
「あ、そお?」
「ま、“自分は”ですけどね。ハラスメントって思う人はいるんじゃないっすか?」
「はあはあ…。パーソナルハラスメント。パワハラに該当する。だってさ」
と検索エンジンで検索した結果を読み上げる竣。
「マジ?」
と竣のパソコン画面を覗き込む青音羽。
「星夏ー今日行く?」
と夕彩が言う。
「どこに?」
と星夏が聞くと夕彩が水晶玉を目の前に置いた占い師のように腕を肩幅ほどに開いて指をクネクネを動かす。
「あぁ」
マジックバーのことだと気づく。オフィスの時計を見て
「ちょっとだけ行こうか」
と言うと夕彩がコクンと頷く。結局
「じゃ、あと20分な」
と言う竣の言葉で20分だけ残業して全員でオフィスを出た。
星夏と夕彩は電車に乗って真新宿へと向かった。真新宿駅で降りた2人は
「ちょっ」
という星夏の言葉でトイレへと行った。
しかし星夏の目的は用を足すことではなく、メイク、そして髪型のチェックだった。
「メイク直しかよ」
「女性の…嗜みでしょ?…」
と鏡で確認しながら言う星夏。
「私はリップ塗り直すくらいだなぁ〜」
「夕彩も…あそこに推しいるんでしょ?」
「あぁ、翔煌さん?」
「そそ。ちゃんとメイクしときな?」
「推しは“推し”だからなぁ〜」
「?推しにも綺麗に可愛く思われたくないの?」
「あぁ〜。ま、汚いよりは綺麗なほうが」
「それは誰にだってそうでしょ。よしっ。私はオッケーだけど夕彩はいいの?」
「うん。私はいいや。行こー」
ということで2人はマジックバー&バー「immature lure portion」へと向かった。
ネオン街を歩き、キャッチを掻い潜り、ホストクラブのホストたちの大きな写真が飾ってある前を通り
ビルの階段を上って、木枠の黒板がついている立て看板があるお店の扉の前についた。
「あ、マジックバー&バーって書いてあったんだ?」
「書いてあったよ。こないだも書いてあったんじゃない?」
「気づかんかった…。めっちゃ可愛い」
と立て看板を指指す星夏。立て看板の黒板にはマジックバー&バーと書かれ
その下に店名「immature lure portion」が書かれていて
その下のスペースにはマンガやアニメのキャラのデフォルメ、ちびキャラのような
頭身が低いキャラがマジックをしているようなイラストが描かれていた。
「ほんとだ。めっちゃ可愛い」
なんて話して店の扉を開く。相変わらず少し古風な、ウエスタンなバーのような
ダイナーのような内装に、現代的なネオンような明かりが照らす。
ごく普通のバーのようにカウンター内でバーテンダーさんというか店員さんがいるが
どことなく雰囲気が普通のバーとは違う。翔煌が店に入った2人に気づいて
カウンター内からペコリと頭を下げて手で「こちらへどうぞ」とカウンター席を指す。
星夏はRENを探すとカウンターで他のお客さんの話し相手をしていた。
「いらっしゃいませ」
音楽がかかった店内では聞き取れるか聞き取れないかギリギリの
落ち着いたトーンの翔煌がおしぼりを2人に渡す。
「あ、どうもです」
と言う夕彩。隣でペコリと頭を下げる星夏。
「今日もお仕事帰りに」
「そうですね。また行きたいねーって話になって」
「ありがとうございます」
「あー。私はシャンディガフをお願いします」
「シャンディガフですね。ビールの銘柄は」
と聞かれてビールの銘柄を答え、翔煌がシャンディガフを作り始める。
「あ、私はカルーアミルクを、お願いします」
と作っている最中で少し申し訳なさそうに言う星夏。
「カルーアミルクですね」
と言った後翔煌はオリビアに目を合わせる。オリビアが翔煌の近くに来る。
「カルーアミルクお願いしてもいいですか?」
「OKです」
頼まれた綺麗な顔を、綺麗な髪をしたオリビアが綺麗な手で、綺麗な指でカルーアミルクを作り始める。
「海外の方ですよね?」
「あ、はい。イギリス出身です」
流暢な日本語で答えるオリビア。
「日本語お上手ですね」
「ありがとうございます」
笑顔で答えるオリビア。
「日本語はやっぱりマンガとかアニメから学ぶんですか?」
「そうですね。キッカケはアニメでした。そこから日本のアニメが“本当”に大好きになって
マンガやアニメでは学べない日本語も日本の友達や先生なんかに教えてもらいながらここまで来ました」
「すごいなぁ〜。私英語勉強するってなっても続かない気がするもんなぁ〜」
「私も」
「お待たせしました。シャンディガフです」
「お待たせしました。カルーアミルクです」
シャンディガフとカルーアミルクがそれぞれ星夏と夕彩の前に置かれる。
「じゃ、かんぱーい」
「かんぱーい」
グラスを軽くあてる。
「あ、そうだ。看板の絵って」
「誰が描いたんですか」と星夏が言い切る前に翔煌がオリビアを手で指す。
「え!えぇ〜っとお姉さんが描いたんですか!」
「はい!」
と笑顔で答えるオリビア。
「あ、すみません遅れました」
と言ってオリビアはティッシュを丸めて左手の人差し指と親指で摘み持ち
右手でライターを着火させ、左手のティッシュへと火をつけた。
すると左手のティッシュが一瞬で燃え上がり姿を消したと思ったら
ティッシュを持っていたはずの左手の人差し指と親指には名刺が挟まっていた。
「「おぉ〜」」
星夏と夕彩は揃って声をあげた後揃って拍手をした。
「ありがとうございます。オリビアと申します。よろしくお願いします」
名刺をカウンターに置くオリビア。
「オリビアさん。オリビアさん絵がお上手なんですね」
「いえいえ。まだまだです」
「絵師さんとかなさってるんですか?」
と星夏が言うとオリビアはハッっとしたように、嬉しそうに目を大きく見開いたかと思えば
グッっと目を閉じて顔を左右に振る。
「絵師さんなんて滅相もありません。私はそんな大層な、素晴らしいイラストは描けませんので。
なんならイラストとも言いたくないほどへたなので」
「いやいや。充分上手いですよ。ね?」
と隣の夕彩に振る。
「うん。私の5万倍は上手い」
「いえいえ」
「なんか絵関係の仕事はしてないんですか?」
と星夏が聞くと夢魅がスッっと会話に入ってくる。
「オリちゃんはマンガ家になりたいんですよぉ〜。ねぇ〜?」
と言われたオリビアは恥ずかしそうに肩を小さくする。
「えぇ〜。そうなんですか。あんだけうまかったらなれますよ。きっと」
と言われ、どこか自信なさげに小さく首を横に振るオリビア。
「自信持ってください!めちゃくちゃ絵うまいです!なれます!私なんていまだに企画通らなくて…」
と相手を励ましているはずが自分が落ち込むことになる星夏。肩を落としていると入り口の扉が開く。
颯希、もとい一希が女性と共に店に来た。RENは颯希に気づいて
「あ、颯…」
と本名を言いかけて言い留まる。
「一希さん。いらっしゃいませ。すいません。ソファー、テーブル席埋まってて」
「あ、カウンターでいいよ。大丈夫」
と言って女性と共に星夏、夕彩の隣に座った。しばらく話していると星夏があることに気づいた。
星夏はスマホに気づいたことを打ち、その画面を夕彩に見せる。
「ん?なに?」
画面には
隣の人、ホストの看板の人だ
と入力されていた。夕彩が颯希のほうを見る。女性と話していて顔が確認できない。
「マジ?」
コクコク、ブンブンと首が取れるんじゃないかというほど頷く星夏。
しばらくすると女性の方がトイレに立った。星夏はRENに
「あの、こちらの方って」
と聞くと
「あぁ」
と言って紹介してくれた。
「こちら、ホストの一希さんです」
急に名前を呼ばれて「ん?」みたいな顔をRENに向ける。
その後隣の星夏と夕彩を向いて目が合って微笑み会釈をする。
「あ、え。ですよね?あの看板になってる」
と星夏がテンションが上がって話しかける。
「お恥ずかしいですが」
「って言ってますけど全然恥ずかしがってないですからね」
と笑うREN。そして続ける。
「だって数年ずっと飾ってあるんですから」
「撮り直してるけどな」
「数年ずっと?」
と星夏が疑問に思う。
「あ、一希さんずっとナンバー1を保ってる不動のKingなんですよ」
と少し揶揄うように言うREN。
「やめろー」
「すごいですね!」
颯希はポケットから名刺入れを取り出して名刺を2枚取り出し
「よかったら」
と星夏と夕彩に渡す。名刺は自分の写真が印刷されたホスト特有の名刺だった。
「Run’s On1y?」
「店の名前です。よかったら来てください。
初回割引の値段で、本当は指名できないで新人がつくんですけど、特別に自分がつくので」
と微笑む颯希。
「あ、はい」
行かないけど
と内心思う星夏と夕彩。
「うちの大事なお客様に営業かけないでくださーい」
とRENが冗談混じりに不機嫌そうな顔で不機嫌そうに言う。
「いや自己紹介がてらに、ね?」
「いや、自己紹介で源氏名名乗る人いないっすよ」
とRENに言われ、わざとらしく口笛を吹くように口を尖らせて誤魔化す颯希。
女性がトイレから帰ってくるとすぐさま颯希はその女性のほうを向いた。
源氏名…
RENの言葉にRENの名刺を思い出す。
マジックバー&バー「immature lure portion」
REN
もしかしたら「蓮」もしくは「恋」かもしれない。
いや、「恋」は女の子感が強いから可能性としては「蓮」の可能性が高い。
でも「REN」が本名という可能性は低い。RENさんは見たところハーフっぽくもない。
「REN」とは全く関係ない名前だってこともあり得る。本名…。聞く?でもどうやって?
「本名教えてください!」
って言ったら
「えぇ。なんで?」
と怪訝な顔をされるかもしれない。…いやこういう職業だから怪訝な顔はしなくても、笑顔であしらわれて
「いやぁ〜さぁ〜?なんか今日急に本名聞かれて。マジキモいっしょ」
とか裏で言われるかもしれない…
と思いつつも気になる星夏。
「この子また企画通らなくて」
と夕彩がRENに話しているのが聞こえ、それどころではなくなる。
「えっ!?ちょ!なに言ってんの!?」
「本当じゃん」
「本当だけど…」
「そうなんですね〜。じゃあ、気分転換にマジックでもいかがですか?」
とRENが微笑む。
「はい!お願いします!」
と星夏が「ぜひ」と目を輝かせて言う。
「じゃあ、またトランプマジックを1つ」
RENがトランプを取り出し、箱を開ける。
「例の如く新品じゃないので、仕掛けがないか確認してもらって」
と二つに分けて星夏、夕彩に渡す。
星夏も夕彩も弾いてみたり裏表を見たり、重なってないか横から見たりする。
「じゃお手隙ですがシャッフルしていただいても」
と言われシャッフルする2人。そしてRENに返す。
「じゃ、念の為私も」
とRENもシャッフルする。そのシャッフルを見て
私らがシャッフルする必要あるん?
と思う夕彩。
「じゃ、広げるんで1枚お好きなもの選んでもらっていいですか?」
と星夏に広げたトランプを差し出す。
「じゃあぁ〜…。これ」
とトランプを1枚指指す星夏。
「じゃ取ってもらって」
と言われてトランプを取る。RENは黒いネームペンを星夏のほうに置く。
「じゃ、私は後ろを向いているんで、トランプ覚えてもらって
数字の書いてあるほうに自分のだってわかるようにサインかなにか書いていただいて」
と言われて、トランプになにか書くだなんて芸能人みたい。と少し非日常感に心が少しワクワクして
ネームペンのキャップを取って自分の名前「星夏」と漢字で書いて、その周囲に⭐︎(星)を数個描いた。
「はい」
「書けました?」
「はい」
「じゃ、向き直りますね」
向き直るREN。
「じゃトランプ弾いていきますので、好きなところで差し込んでください」
とRENがトランプを弾く。星夏が差し込む。
「ここでいいですね?」
と差し込まれたことを確認させるために星夏が差し込んだトランプを少し横にずらして
星夏、夕彩に見えるように確認させる。
「はい」
「では」
と言ってもう片方に持っていたトランプを星夏の差し込んだトランプの上に乗せ
半分にして上下を入れ替え、交互にカードが差し込まれるように弾いていき
互い違いに差し込まれたトランプを少し曲げることで
まるでカードが意思を持っているようにまとまっていくというリフルシャッフルというシャッフルを行う。
「では。運気が上昇しますようにという私の願いを込めて…」
RENが左手に持ったトランプに右手で念を送るようにしてからパチンと指を鳴らす。
「一番上のトランプ捲ってみてくだだい」
と星夏にトランプを捲らせる。
「え…」
と恐る恐る一番上トランプを捲ってみると
「えぇ!?」
星夏のサインが書かれたトランプだった。
「すごぉ!」
「でも前回お店に来てくれたのにパワーが足りなかったということで」
表向きになった星夏のサイン入りのトランプを裏返す。
「星夏さんの運気は落ちることなく常に上昇しているということの証明を」
と今一度一番上に星夏のサイン入りのトランプがあるということを捲って確認させるREN。
頷く星夏と夕彩。星夏のサイン入りのトランプを裏返し、山札の真ん中に差し込むREN。
RENがパチンと指を鳴らし、山札の一番上を捲ると
「えぇ!?」
星夏のサイン入りのトランプが。
「えぇ〜…!?」
夕彩も驚く。
「星夏さん自身が「あぁ〜ツイてないなぁ〜」とか「運気下がってるなぁ〜」と思っても」
と喋りながら星夏のサイン入りのトランプを山札の真ん中に差し込むREN。
「実は」
パチンと指を鳴らすREN。そして山札の一番上を捲る。
「運気は常に上昇してるんです」
一番上には星夏のサイン入りのトランプが。
「えぇ!?えぇ!?」
「わからん…」
「ですよね。わかりませんよね。
星夏さんも運気が上がっているっていうのを“視覚的”に確認したいと思いますので」
と一番上の星夏のトランプを持って湾曲するように曲げるREN。
「曲げたら」
と言って山札を2つに分け、曲げたトランプを置く。
「わかりやすいと思います」
頷く星夏と夕彩。分けたトランプのもう片方の山札を星夏の曲がったトランプの上に置く。
RENが星夏のサイン入りのトランプが入っていたであろう山札の真ん中を指指す。
その指が山札の上にどんどんと上がっていって、一番上に来たら、一番上に湾曲したトランプが出現した。
「えぇ!?」
「ヤバッ」
「そうなんです。星夏さんの運気は常に上昇してるので大丈夫なんです」
と一番上のトランプを捲る。するとやはり星夏のサイン入りのトランプだった。
「すごー!」
拍手する星夏と夕彩。
「ありがとうございます。よろしかったら」
とRENが星夏のサイン入りのトランプを星夏に差し出す。
「もらっていいんですか?」
「ぜひ」
星夏は嬉しくてニヤケそうなのを堪えて堪えて堪えた。
「いや、このトランプあってもマジックには使えんて」
現実的なことを言う夕彩の太ももを軽く叩く星夏。
その後も星夏、夕彩も1杯ずつ飲んでお会計をして帰ることに。
「ありがとうございました。元気出ました」
「よかったです」
「また来ます!」
「お待ちしております」
RENが出入り口まで見送ってくれて2人は家へと帰った。帰りの電車の中
「どお?企画いけそ?」
と夕彩が聞く。
「いけそう!」
と満面の笑みで答えた星夏。星夏に家にピンクの桃味の飴の隣にトランプが加わった。