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■ 第六章:人質奪還 妹を取り戻せ
再結束したロジン小隊は、山に点在する敵の痕跡を追っていた。
その途中、ホシュワンがロジンのもとに歩み寄り、静かに言った。
「隊長……妹を救いたい。
彼女がまだ生きているなら、俺はこの手で
助けたい。」
ロジンは深くうなずく。
「ああ…。
あんたの妹を取り戻すことは、私たちの士気も上げることにも繋がる。」
小隊は本作戦と並行して
“人質奪還の臨時ミッション” に移行した。
■ 敵の“人質収容所”
偵察役のアザルが、地図を指し示す。
「この谷の奥、小さな廃れた農場…。
見張りが多すぎる。普通の拠点じゃない。」
ロジンは顎に手を当てる。
「人質を集めている可能性が高いな。」
その周辺には哨戒ルートが張り巡らされ、
敵が“内部の者が逃げることを前提に”警戒しているのが明らかだった。
ホシュワンは拳を強く握る。
「妹がここにいるはずだ。」
■ 潜入作戦
ロジンは小隊の輪を見渡し、短く指示を出した。
――― 作戦案 ―――
アザル:北側の小川沿いからスナイパー位置を確保及び後方支援。
シラン:無線妨害の準備及び妨害工作。
ホシュワン:先導役としてロジンと共に内部へ潜入
残りの隊員:周囲を包囲し、脱出路確保。
ロジンはホシュワンにだけ、小声で言った。
「冷静に。
あなたの判断ひとつで、全員の生死が決まる。」
ホシュワンは真っ直ぐ前を向いた。
「はい、分かっています。」
■ 収容所内部
深夜。霧が低く漂う中、ロジンとホシュワンは建物の影を縫うように進んだ。
中から、女性の声が聞こえる。
「お兄ちゃん…?」
ホシュワンの足が止まりかけた。
ロジンが彼の腕を掴む。
「待って。罠かもしれない。」
二人は慎重に扉を開き、中を確認した。
そこには…。
鎖につながれた女性が一人。
確かにホシュワンに似た顔立ち。
だが同時に、ロジンは部屋の空気の異常に気づいた。
(人が一人も見張っていない? おかしい)
ロジンが言いかけた瞬間、
後ろの廊下に、敵の足音が殺到した。
シランの無線が耳に届く。
「隊長! 敵が一斉に動きました!
あなた方を閉じ込めるつもりです!」
ロジンは即座に判断した。
「ホシュワン、妹を抱えて後ろの窓から脱出!
アザル、援護射撃!」
ホシュワンが妹を抱き上げると、涙を流しながら弱く笑った。
「お兄ちゃん…来てくれたんだね。」
ロジンは背後から迫る敵に向けて発砲する。
「走れ! あたしが抑える!!」
■ 脱出
外ではアザルの狙撃が火を噴き、追手を次々と牽制した。
シランが無線で叫ぶ。
「隊長、南の谷間に退路を確保しました!」
ロジンは小隊に合流しつつ、ホシュワンの妹を担架に乗せる。
ホシュワンの妹は弱々しく
ロジンの手を掴んだ。
「ありがとう」
ロジンはその手をそっと握り返す。
「あんたはもう安全よ。」
敵の追撃が止まない中、小隊は夜の山へと撤退を開始した。
■ 小隊の絆
数時間後、山の奥の安全地帯に到着した小隊。
ホシュワンは涙をこらえながらロジンに向き合った。
「隊長…ありがとう。本当に……ありがとうございます。」
ロジンは静かに笑う。
「あんたが仲間でいたから、救えた。」
小隊には疲労があったが、その空気には以前より強い一体感があった。
誰かの家族を救えたという結果が、彼らをさらに結束させたのだ。
しかし、ロジンはまだ気を緩めなかった。
「皆、聞いてくれ。
仲介人は、この件を利用して
私たちの動きを探っていた。
このまま終わらせるつもりはない。」
小隊は頷き、
“次は仲介人を追う”という意志を一つにした。
■ 第七章:風を裂く声 ―ロジンの過去
山奥の安全地帯。
夜の闇は深く、焚き火の橙色の灯りが、ロジンたちを柔らかく照らしていた。
ホシュワンの妹は治療を受けて眠っている。
隊員たちも順に仮眠に入り、残ったのはロジンとアザル、そして、シランのみ。
風の音だけが二人の間を抜けていく中、
アザルが口を開いた。
「ロジン隊長。
あなたはなぜこんな戦いを
続けているんですか?」
唐突な問いに、シランも目を向ける。
ロジンは少しだけ俯き、焚き火の火を見つめた。
「話すのは、あまり得意じゃないけれど。」
そう前置きして、彼女は静かに語り始めた。
■ ロジンが最初に失ったもの
ロジンが十歳の頃、
暮らしていた村は小さな農村で、静かなオリーブ畑が広がっていた。
「父は農夫で、母は織物職人。
私はただ、それを継ぐんだと思っていた。」
ロジンの声はどこか遠くを見ていた。
だが、ある夏の日、武装勢力が村を襲撃した。
目的は食糧と人の強制徴用。
「父は、村人を逃がそうとして撃たれた。
母は、私と妹をかばって…。」
焚き火の火が弾け、ロジンの言葉が一瞬止まった。
シランがそっと
手を握ろうとしたが、ロジンは静かに首を振った。
「あたしは、逃げ延びた。
でも、妹は連れ去られた。」
その声には震えがあった。
■ 戦う理由
「私はずっと思っていた。
“妹を取り戻せない自分は弱い”と。」
幼いロジンは、村に残されたわずかな人たちと共に避難した。
その後、女性だけの民兵訓練に身を投じた。
「訓練はきつかったけれど、あの頃のあたしには、 “生き延びる理由”になるものが必要だった。」
銃を握る手が痛みで震えても、
銃の反動で肩が青く腫れ上がっても、
ロジンは一度も途中で諦めようとは
思っていなかった。
アザルが小さくつぶやく。
「あなたが強いのは、生まれつきじゃなかったんですか。」
ロジンは苦笑した。
「強くなれたなんて思ってないわ。
ただ
もう誰にも、家族を奪わせたくないだけ。」
その言葉には、揺るぎない意志が宿っていた。
■ 仲介人への因縁
ロジンは話を続けた。
「そして、仲介人…。
あいつは、あの時の襲撃を指示した武装組織に武器を流していた人物。」
アザルとシランが同時に顔を上げた。
「つまり…隊長にとって“個人的な因縁”でもあるってことで?」
ロジンは焚き火の先を見つめながら頷いた。
「ここで終わらせたい。
あたしのためにも、あなたたちのためにも。」
その静かな決意の音を、山風がさらっていった。
■ 眠る前の一言
二人が黙り込んだころ、
シランがぽつりと笑った。
「ロジン隊長。
隊長の妹さんも、絶対に生きてますよ。」
ロジンは驚いたように目を向ける。
シランは続けた。
「だって…
強い
お姉さんが迎えに来るんだからね。」
ロジンは少しだけ肩を震わせ、微笑んだ。
「ふっ…ありがとう。」
その夜、ロジンは久しぶりに深く眠れた。