太陽が、憎たらしいくらいに眩しく輝いている。
こんな日に、彼氏に振られるなんて。
普通ならドラマみたいに雨が降って、しとしとと肩を濡らしてくれるんじゃないの?
なのに、空は雲一つなく晴れ渡っていて、私の心の状態なんてお構いなしだ。
目に涙が溜まっていく。
でも、泣いたら負けだと思った。
この人混みの中で泣き顔を見せたくない。
だから、ぐっと奥歯を噛みしめて、俯きながら足を動かす。
周囲の視線が刺さるように感じるのは、きっと自意識過剰だろう。
だけど、今の私はそんな些細なことにも耐えられなくて――
ふいに、足が止まった。
「……もう、やだ。」
心の中でだけ呟いたつもりだったのに、かすれた声が口からこぼれた。
途端に、涙が溢れる。
視界がぼやけ、どうしようもなくなった私は、その場に崩れ落ちてしまった。
誰かに見られるかもしれないのに、立ち上がる気力すらない。
だけど、通行人たちは私を気にすることなく、まるで障害物を避けるようにして通り過ぎていく。
ああ、そうだよね。誰もこんな女、構ってる暇なんてないよね。
「……大丈夫?」
不意に、頭上から優しい声が降ってきた。
顔を上げると、見知らぬ男の人が立っていた。
ミルクティー色の髪で、整った顔立ち。
けれど、なによりも目を引いたのは、その柔らかい眼差しだった。
「立てる?」
彼はしゃがみ込み、私の目線に合わせてくれる。
優しさに触れた途端、余計に涙が止まらなくなった。
「……大丈夫です。」
そう言いながらも、体はまったく動けない。
立ち上がる気力が湧いてこないのだ。
「無理して立たなくていいよ。」
彼はそう言って、少し考え込むように視線を落としたあと、
「僕、知らない人だけどさ」
と、穏やかに笑った。
「こんなところで泣いてるの、ほっとけないから。」
不思議だった。
この人の言葉は、全然押しつけがましくないのに、温かくて。
それが、心に沁みた。
「……知らない人なのに、なんで……?」
絞り出すように問いかけると、彼は少し困ったように目を細めた。
「んー……なんでだろうね。」
彼自身も答えが見つからないようだった。
でも、少しだけ間をおいて、ふっと微笑む。
「君が泣いてるのを見たら、守りたくなった。」
守りたい。
その言葉が、胸の奥でじんわりと広がっていく。
誰かにそんなふうに思われることがあるなんて、考えたこともなかった。
彼はゆっくりと手を差し出した。
「ちょっと歩こうか。少しでも気が紛れるかもしれないし。」
私がその手を取るかどうか、迷っているのを察したのか、彼は言葉を続ける。
「ほら、立つだけでもいいよ。」
そんなふうに促されると、不思議と少しだけ動いてみようと思えた。
私はそっと彼の手を取る。
「あったかい……」
思わず、そう呟いてしまうと、彼はくすっと笑った。
「そりゃ、生きてるからね。」
そんな何気ないやりとりに、思わず小さく笑ってしまった。
泣いていたはずなのに、もう涙は止まっていた。
「……ありがとう。」
ぽつりと呟くと、彼は「どういたしまして」と優しく微笑んだ。
「僕、叶って言うんだ。」
「……え?」
「名前くらい、知っててもいいでしょ?」
叶。
その名前が、今日の涙を救ってくれた人のものだと、私は胸に刻んだ。
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