遺跡に入る為のギミックを解除したおれたちは石扉をようやく開けることが出来た。それはいいとして、元々はザームの連中を追って来ただけなのに、いつの間にか遺跡攻略になってしまっている。
「軽い気持ちでしたのに、何だか大ごとになってしまって申し訳ないですわ……」
「ま、まぁ、遅かれ早かれってことで。敵がレイウルムを侵略していたわけだし、成り行きだよ」
「……それと、結果として精霊が使えるようになったエルフを追い出さなかったのは正解でしたわ。あたしの浅慮によるものだったとしか……」
ミルシェだけを責められない――というのも、サンフィアの扱いについては今でも簡単じゃないからだ。
それに偶然にしては出来過ぎている遺跡内で見つけたエルフの村のこともある。ツンデレはともかく、そこでの態度が悪ければこうして連れて行く考えにはなっていない。
敵を見つけて倒して終わるだけのつもりが、まんまと遺跡に翻弄されている感じだ。
「扉の中に扉があるのだ。またなのだ?」
「も、もしかしてわたしの出番が!?」
「とにかく近付いてからだな」
遺跡の全体的な構造は把握出来ていない。しかし外のギミックを見た限り、単純な力任せでは進めない造りになっているのは明らかだ。
この遺跡は大部分が石で出来ている。文明遺跡群と呼ばれているが、使い勝手のいい石をどこまで利用しているのか。
「ウニャ? 何て書いているのだ?」
石で作られた通路をまっすぐ進んだ先にまたしても扉があった。扉の辺りをシーニャとルティがぺたぺたと触って確かめている。
ルーンが毎回何かを示しているようだ。
「この先イグニスダンジョンにつき、特定属性使用不可……って書いてるな」
「ダンジョンだと……? ふん、くだらないことを」
「不満か? サンフィア」
「我にとって、何であろうと取るに足らないことだ。だが、くだらないことでも貴様……アックがいれば少しはマシになる。貴様さえ近くにいれば……の話だ」
やはり素直になってくれそうにないが、少しずつ心を開いている感じか?
「アックさま。特定属性は相反する属性という意味なのでは?」
「どうだろうな。でも、ルティの力と火属性で開いた遺跡だし、そうかもしれないな。そう考えるとおれの得意な氷と君の水にとっては苦しい場所になるな」
「……ふふっ、アックさまはあらゆる属性を得意としていますのに、何を言っているんです?」
おれとミルシェは与えた属性の関係上水と氷が得意。もっとも彼女の場合は、守りに長けた水属性。攻撃だけではなく防御でも使えないとなれば、守備力は低下してしまうだろう。
この辺りの問題は進んで確かめるしかない。
「イスティさま、どうするなの?」
「フィーサ。君には一応魔法剣としていつでも使えるように、全属性を預けておく」
「わ、分かったなのっ!」
魔剣ルストのことがあるので、人化したままのフィーサの手を握ってそこから属性魔法を注ぐ。そうすれば剣の姿でなくてもフィーサなら上手く使うことが可能だからだ。
「アック、アック!! 扉が勝手に開いたのだ!」
「――ん?」
シーニャが興奮しているが、近くのルティがまたしてもばつの悪そうな顔をしている。
「そのぅ……わたしは特に何もしてなくてですね……」
「問題無いよ、ルティ」
「えっ、あのっ? 本物のアック様ですか?」
「そりゃそうだろ」
「怒らないで優しく声をかけてくれるなんて、偽者か何かかと……」
ルティは未だにトラウマが残っているようだ。
人型機械がどれだけ似せていたのかというのも気になるが――ここは口調を改めて接することにした方がいい。そうした方がルティの突発的な行動を未然に防げる。
「ルティには厳しくしすぎてたし、これからは柔らかくするから。だからよろしく頼むよ」
「――っ、ひゃあぁぁぁぁぁ!? ア、アック様? どうしてわたしを撫でて……」
「いや、何となく」
恐らくだがイグニスダンジョンではルティをメインとして進むことになるはず。そうなると今までのように厳しくは出来ない。ルティが本気を出せやすくなるためにも、最善のことをする。
サンフィアの態度のこともあるし、彼女たちへの態度を少しずつ変えていかねば。
「ウウゥゥ……ドワーフがずるいのだ」
「よ、よしよし……」
「フニャウゥ~」
サンフィアを見ると「くだらん」といった表情を見せている。
「アックさまは相変わらず小娘には甘すぎますのね」
「そうかな……。じゃあ、君も――」
「……今はそれどころでは無いのでは?」
「あ、うん」
「あたしには人目のつかない所でお願いしますわ」
――などなど、彼女たちの機嫌を取ってダンジョンへ進む。