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「侵略者への対策会議を始めます」
王城の三階の広間にて。
ホワイトボードの前で、伊達眼鏡をかけたリシェルがサインペンを回した。
リシェルは黒いビジネススーツを着ている。異世界における成人女性の正装らしいが、おそろしく似合わない。見た目年齢が十五そこらの彼女では、どうも着せられて見える。
ご丁寧にキャスター付きの椅子や机も用意している。会議の雰囲気を出すのに本気らしい。
「リシェルお前、家具とか服とか、どんだけたくさんストックしてんの?」
「ふふふ」
リシェルは意味ありげに笑う。
俺にもようやく彼女の能力が分かってきた。
彼女は異空間にモノを収納し、好きな時に取り出す能力があるらしい。便利な力だ。ゾンビ世界で彼女が拾った文明の利器の性能を考えると、そのポテンシャルは計り知れない。
「さてさて、七王国の現状を整理しましょうか」
リシェルはキュッキュと音を立てながらホワイトボードに文字を書き連ねていく。
アストリア王国
侵略者:ゾンビ
備考:ゾンビ化の原因は生物兵器パラサイト・コア。侵略者は全員、王国騎士カイルの支配下にある。
ヴァルグレイブ王国
侵略者:エイリアン
備考:第二皇子アゼルが交戦中。レーザービームを放てる艦隊がいる。
リュミエール王国
侵略者:ギャング
備考:第八皇子ハロルドが交戦中。ヒャッハァ!
カストレア王国
侵略者?:隕石
備考:二十四日後に月が落ちる。第一皇子カイアスが重力異常の原因を調査中。
ノルディア王国
侵略者:怨霊
備考:祠を壊されてキレてる。他国に比較して通信障害が激しい。第四皇子エレノア、行方不明。
ギデオンハート王国
侵略者:ダークヒーロー
備考:『助けを求める顔』をしてるとヒーローが殺しに来る。第三皇子ミモザ、ダークヒーローの刺客と交戦中。
カーディナル王国
侵略者:メガシャーク
備考:サメ。第六皇子アレイウス、行方不明。
リシェルがキャップを閉じる。
「今のところ、六人の皇子が侵略者を抑え込めた例はないようですね」
なるほど。
って、あれ?
「足りてなくね? 皇子も王国も八じゃなかったか?」
「何言ってるんですか? 私たちは七人兄弟ですよ」
「いやでも、ハロルドは第八皇子って」
(何言ってんだ?)
(七王国に、七人の皇子が侵略してきたんだろ?)
「……ああ、悪い。数が数えられなくて」
俺は頭を押さえながら、ぼうっとホワイトボードを読み返した。
違和感はもう、消えていた。
「侵略者たちの動向は、君の便利なスマホで追えたりしないのかい?」
アラン・スミスが黒縁の眼鏡を磨きながら、リシェルに訊いた。
リシェルが首を横に振る。
「召喚の儀の映像が撮れたのは、あらかじめ各王宮を私の使い魔に監視させていたからです。継承レースの動向を知るつもりで、用意してた子たちですが……今はもう、みんな騒乱に巻き込まれて死んでしまって……」
「おや、それは残念だね。もっと侵略者の情報が欲しいところだけど……何にせよ、最優先で対処すべき相手は決まってる」
俺たち三人はホワイトボードを眺めながら、ほとんど同時につぶやいた。
「月か」
「月でしょ」
「月だよね」
冷静に考えて、こいつが他の侵略者と比較しても群を抜いてやばい。ゾンビやギャングがどれだけ喚き散らしても、月が堕ちればペシャンコだ。
「少なくとも、俺のゾンビじゃどうしようもねえよ」
「魔王様でも月は止められませんよ?」
「なら方針は決まりだね。他の異世界から月に対処できる存在を探し、奪い取る。それ以外に僕たちが生き残る道はない」
アラン・スミスがきれいにまとめてくれた。俺も異論はない。
ならまずは、異世界の情報を得るために、侵略者たちに会う必要がある。
とはいえ、相手は選ぶ。
例えば、ギャングはハズレだ。奴らから月に対処できるほどの力を奪えるかというと、正直、望み薄だと思う。あいつら結局、ただの人間だし。
できれば超常の力を持つ者たちと接触したい。だとすれば、アタリはダークヒーローかエイリアンか、あるいは――。
そうやって思索を巡らせていたとき、リシェルのスマホが急に震えた。画面には非通知の文字が浮かぶ。
「……電話をかけてくる相手はいないはずですが」
いぶかし気な顔をしつつ、リシェルが電話に出る。
『私メリー、今王国広場にいるの』
電話からは少女の声がした。そしてブツリと切れてしまう。
リシェルがしばらく首を傾げて言う。
「多分、怨霊世界からのお客様です」
「おー、やったな。比較的アタリのほうじゃん」
もう一度電話が鳴る。
リシェルからスマホを受け取り、代わりに電話に出る。
『私メリー、今王城の門にいるの』
「あ、そういうのいいんで。小刻みにせずさっさと来てくれ」
『!?』
電話はブツリと切れてしまった。
俺はリシェルに向かって言う。
「リシェル、ゾンビを頼む」
「……入れてるなんて言いましたっけ?」
「どうせストックしてるんだろ? お前のことだし」
リシェルがため息をつく。
再び電話が鳴る。
「『私メリー、今あなたの後ろにいるの』」
突然、俺の背後にワンピース姿の少女が現れた。
少女が包丁を振り上げる。
「え?」
少女が驚愕に目を見開く。
彼女の首を、何もない空間から伸びてきた青白い手がつかんでいた。
その手を中心に輪郭が広がり、やがてゾンビが姿を現す。何処からともなく現れた五体のゾンビが少女の身体に絡みつき、拘束した。
「急かして悪いね、メリーさん。僕らも困っているんだ。何せ、世界の滅亡まで二十四日しか時間がなくて」
アラン・スミスが申し訳なさそうに笑いかける。
あくまで、害意はないと言いたいらしい。まったく、こいつは昔から優しすぎる。
ん? 昔から?
(そうだよ、アラン・スミスとは昔から友達だった)
(ゲイリーに裏切られ、一緒に生き埋めにされかけた仲じゃないか)
そうだ、そうじゃないか。何を今さら。
雑念を振り払うように首を振る。
俺は床に組み伏せられた少女を見下ろす。
「さて怨霊、話を聞かせてもらおうか?」