テラーノベル
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「私たちはね、祟りじゃないの。死者の霊魂でもない」
ゾンビに拘束され、大人しくなったメリーさんが話してくれた。
「語られたから、生まれたの」
リシェルが腕を組み、難しそうな顔をする。
「……もう少し具体的に説明してくれます?」
「人が畏怖の感情を抱くときに生まれる、負の感情エネルギーがあるの。私たちはふ力って呼んでる」
「負力? 怖力? 巫力?」アラン・スミスが割り込むように訊いた。
メリーさんはしばらく首を傾げて考え込んで「ぜんぶ」と答えた。
耳で聞いているだけの俺とリシェルからすれば彼らの会話は意味不明だが、少なくともアランは納得したように頷いた。
「お墓とか病院とか、死に近い場所ではふ力はたまりやすくて、怨霊がよく生まれるの。でも、そうした自然発生する怨霊は雑魚。私たちとは違う」
「君はどこから来たんだい?」アランが聞く。
「怖い話、怪談、都市伝説。たくさんの人に語り継がれ、同一のイメージをもった怪異。その中で生じた恐怖には方向性があるの。数千人、数万人分のふ力が、一つの物語を軸に、一つの怨霊に収束する。信じる人が多いほど、その畏怖の心が強いほど、イメージの同一性が高いほど、怨霊の力が強くなる」
「つまり、お前は妄想の産物ってことか。みんなが『メリーさん』って怪談を語った末に生まれた存在」
メリーさんは俺の言葉に不機嫌そうな顔をした。
「妄想って言い方、好きじゃない。触れられる。形もあるでしょ?」
アラン・スミスがメリーさんに問いかける。
「ちなみに、今この部屋に何人分のふ力があるのかな?」
メリーさんは首を傾げる。
「……八人分。当たり前でしょ?」
八人。五人のゾンビがカウントされている。
アラン・スミスが納得した顔で頷いた。
「じゃあ、話は決まりだね」
彼は窓際に陣取り、俺たちに向けて両手を広げた。
「さあ、月の破壊を始めよう」
俺とリシェルが目を丸くする。
アランは構わず続ける。
「怨霊のパワーは”畏怖する人数×感情の強さ×イメージの同一性”という掛け算で決まる。ここまでは、メリーさんの話を聞いて理解できたろ?」
俺とリシェルがうなずく。
「カイル君はゾンビの脳に干渉できる。彼らの恐怖心を限界まで引き上げることは可能なはず。ゾンビ化したアストリア王都民十五万人。その全員に、同一同様の怪談を語り、畏怖するように命令するのさ」
俺もリシェルも徐々に彼の言いたいことを察し始めた。
アラン・スミスは右手で拳を作る仕草をする。
「人間十五万人に完全同一の信仰をさせ、畏怖の気持ちを抱かせる……集団心理の理論で言えば不可能な領域さ。おそらくは、元の怨霊世界でさえ存在しえなかった史上最悪の怪異になる」
アラン・スミスは拳を右手のひらに落とす仕草をした。
「僕たちが考えた最強の怨霊を、月の真下に召喚する。そいつに月を粉砕してもらうのさ」
メリーさんが顔を青ざめさせる。
「そんな怨霊……聞いたこともないよ」
なるほど、本家の専門家もお墨付きの凶悪な力になるならしい。
「すげえな、アラン・スミス。とんでもねえ発想しやがる」
「はは、知ってるだろ? いつも通りさ」
「ああ。お前は皇子でもない。俺みたいな特異点でもない。でも、おまえはすげー奴だ。いつだって、俺の道しるべだった。お前の判断はどんなときだって正しくて、いつも俺を救ってきた」
月が空から降ってくる――そんな絶望的な状況でも、必ず生き残る術を用意できる。
それがアラン・スミスという男なのだ。
(そうさ、今まで生き延びてきたのは、アラン・スミスのおかげじゃないか)
(ゾンビのパンデミックが起きたとき、生き残りの一団に加われたのは、アラン・スミスのおかげだった)
(ゲイリーに裏切られたとき、崩落した地下通路で、パラサイト・コアをテイムするアイデアを出したのも彼だった)
(動けない俺のために、パラサイト・コアを食わせてくれたのも彼だった)
あれ?
そうだっけ?
じゃあ俺は何でリシェルを魔王にするんだ?
(感謝すべきアラン・スミス)
そうだ、感謝すべきは、アラン・スミスだ。
「いつもありがとう、アラン・スミス」
「何、気にする必要はないさ。僕にも契約があるからね」
「君はいつだって偉ぶらないな。でも、すまない。そんな君に、俺はたった一つだけ、腹の中に隠してて、言えなかったことがあるんだ。いいかな?」
「何だい?」
俺は右手に力いっぱい拳を握り込める。
俺の右ストレートでアラン・スミスの身体が宙を舞う。
彼の身体は窓を飛びぬけ、階下へと堕ちていった。
コメント
4件
私も「誰だっけ…」と1話から読み直してきました。ちょっとスッキリ😅

月○さんかな?