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お股ポテト
29
はるにし
72
人生最大の危機に、僕は必死にもがいた。
(やめて、お願い……誰か助けて!)
できる限り抵抗して、逃げようとした。
「しまった。バルト、そっちに行った」
「任せろ」
待ち構えていたバルトが、腰を落として手を広げた。
「逃がさないぞ、リンネ」
「あにゃぁ!」
泡だらけの体で、僕は高く飛んだ。
使い慣れない羽をパタパタさせる。
「何! こんな時ばっかり、うまく飛びやがって」
バルトが高く飛び上がった。
足を掴まれて、ガクリと体が傾く。
「ににゃ!」
泡のお陰で、バルトの手がつるっと滑った。
「しまった。シュメリ!」
「任された」
シュメリの魔糸が体に巻き付いた。
「にぎゃぁ!」
くいと引っ張られて、体がシュメリにリターンした。
「ぃにゃぁ!」
僕は泣きながら叫んだ。
「リンネがいけないんだよ。葉っぱだらけになったのは、どうして?」
僕のせいです。
飛ぶ練習して、バルトが剪定した植木に突っ込んで、ボロボロにしました。
「怪我がなくて良かったけどな。葉っぱまみれには、なったな」
バルトが石鹸を泡立てながら、呆れている。
「植木から落ちて、地面で泥だらけにもなったね」
水やりした直後だったから、土がぬかるんでいた。
そこに、べちゃっと落ちた。
「というわけで、お風呂だよ」
「ひぎゃぁ!」
シュメリに魔糸で縛られたから、もう逃げられない。
僕の体をシュメリが抱いて、バルトがゴシゴシ洗っている。
(やめてぇ! 毛が濡れるの気持ち悪いぃ! 嫌いぃ!)
「ぃなぁ、あにゃぁ、ひにゃぁ」
僕は情けない声を上げて泣いた。
「リンネ、そんなに泣かないで。じっとしていれば、すぐに終わるから」
シュメリが僕の額にキスをする。
「おい、どさくさに紛れてキスするな」
「スキンシップじゃないか。私にも泡をおくれ」
僕の背中や尻尾や後足を丹念に洗いながら、バルトがシュメリに泡の塊を渡した。
受け取った泡で、僕の前足や肉球をシュメリが洗う。
(いやぁ……肉球濡れるの、いやぁ)
「なおー、なおー」
どれだけ泣いても、二人はやめてくれない。
僕の目から流れた涙を、シュメリが拭ってくれるだけだ。
「腹もしっかり洗おうな、リンネ」
「ひにゃぁ」
(くすぐったいよぉ、やぁ)
「肉球の間や爪の泥も、落とさないとね」
「ぅにゃぁ」
(こしょこしょしないでぇ。いやぁ)
こんな時ばっかり、シュメリとバルトが息ピッタリだ。
仲良しのなのは嬉しいけど、僕は辛い。
結局、どんなに泣いても解放されず。
僕は二人に隅々まで綺麗にされた。
泡をシャワーで流される。
毛がびしょびしょだよ。
もう元気出ないよ。
僕はテチテチと自分の前足を舐めた。
そんな僕を、シュメリがじっと見詰めている。
「思ったより、やせっぽちだね」
「そうか? こんなもんだろ」
バルトがタオルを僕に被せた。
ごしごし拭いてくれる。
「たくさん食べさせているつもりだったけど、足りないかな」
「充分だ。あれ以上、贅沢させるな」
「あの程度、贅沢ではないよ」
「森の暮らしに比べたら、よっぽど贅沢だ」
二人が話しながら僕の体をタオルでゴシゴシする。
ちょっとずつ冷静になってきた僕は、二人を見上げた。
裸足で、服を捲るという同じスタイルで、シュメリとバルトが僕を洗ってたんだ。
しかも、連携抜群だった。
(めっちゃ仲良くなってる!)
僕が想っていたより、シュメバルが進んでる。
感動しているうちに、温かい風が吹いてきた。
(この温風、バルトの風魔法だ)
一緒に住んでいた時、川に落ちたりして乾かしてもらっていた。
「バルトは風魔法が使えるんだね」
「シュメリは?」
「聖騎士は光魔法だよ。だから、私は光で乾かすね」
温かい陽射しに照らされる。
気持ち良くて、眠くなる。
「はにゃぁ」
さっきまでの恐怖とは裏腹に、至福の時間になった。
「さすが、聖騎士様は魔法までお上品だな」
「風魔法も洗練されている。これだけ器用なら、王立魔術師団にも引けをとらないよ」
「……そうかよ」
バルトが照れた。
その顔が可愛くて、僕はにやけた。
(二人、確実に関係が進んでるじゃん!)
温風も光も温かいし、毛はふさふさになるし、二人は仲良しだし、幸せだ。
「さぁ、リンネ。乾いたよ」
シュメリが僕を抱き上げた。
「遅くなったけど、お茶にしようか」
「あにゃ!」
僕はピッと手を上げた。
シュメリがクスリと微笑んだ。
「バルトも一緒にね」
シュメリがバルトを誘った。
「まぁ、たまには、いいかな」
バルトがデレた。
僕の心が躍った。
(やっぱり、やっぱり! シュメバル進展中!)
「にゃ、にゃ」
三人でお茶できるのが嬉しい。
僕はシュメリの腕の中から、バルトの手を舐めた。
「こら、くすぐったいだろ」
バルトが微笑む。
あぁ、なんて良い笑顔なんだ。
「あんまりバルトに懐くのは、感心しないね」
シュメリが僕の体を反対側に抱いた。
「リンネが俺に懐いているのは、元からだ」
「僕にはもっと懐いているよ」
マウント合戦すら、今の僕にはじゃれ合いに聞こえる。
(このまま二人が仲良くなったらいいなぁ)
そんなことを、思ったのに。
ツキン、と胸の奥が、ちょっとだけ痛んだ。
(二人が仲良くなったら、僕はもうシュメリに抱いてもらえないかな)
バルトとあの家には帰れないかな。
どっちも悲しい。
だけど。
(シュメリの涙は、バルトが拭くのかな)
そう考えたら、また胸が痛かった。
コメント
1件
めっちゃ良かった〜!!😭💕 リンネちゃん風呂嫌いで全力バトルしてるのに、最後はシュメリとバルトのWお世話でふわふわになってて可愛すぎるでしょ♡ しかも二人の連携プレーが自然に息合ってて、シュメバル進んでるじゃん!ってニヤニヤしたのに…最後の「僕はもう抱いてもらえないかな」で胸がギュッてなったよ…。温かさと切なさが同時に来るリンネちゃんの心情描写がエモすぎる…! この距離感、大好きです!次の展開が待ちきれない🌸✨