テラーノベル
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シュメリは週に三~四日仕事に行く。
休みが多いが、屋敷では書斎に籠っている時間も長い。
休んでいるようで、忙しいらしい。
バルトは昼間、庭師の仕事をしている。
怪我して以来、中々近付かせてくれない。
近くで飛ぶ練習をしたら、大失敗して風呂に入れられた。
だから最近は、一人で屋敷の中を探検している。
(今日はシュメリが仕事に行っているなぁ。帰り遅いのかなぁ)
そんなことを考えながら、廊下を歩く。
誰かの話声が聞こえた。
「中々に才があると思うよ。器用だし、そつなくこなすタイプだ」
「それは楽しみですね。魔術師団は常に人手不足ですから、来てくれたら嬉しいのですが」
僕の耳がぴくぴくと動いた。
シュメリと、知らない人の声だ。
(知らない人、怖い)
くるりと背を向けて走り出そうとしたら。
「おや、リンネ。お出迎えしてくれたのかい」
あっさり見付かった。
「にゃにゃ!」
抱きかかえられて、体が強張る。
「聖騎士のシュメリが猫魔を飼っているとは、意外ですね」
「僕の伴侶だ」
「伴侶? ……まさか」
隣の背が高い男性が、僕の背中に手を添えた。
「魔種持ちの、獣人?」
「そうなんだ。今は色々あって猫魔のままだけどね」
大きな男性が、僕の背中で手を止めた。
その顔が、見る間に真剣になった。
怖くて、僕はシュメリに縋り付いた。
「リンネ、怖がらなくていいよ。彼は王立魔術師団の団長ムスクだ。この国一番の魔導師だよ」
その名を聞いて、ピクっと耳が立った。
(ムスク? 聞いたことある名前だ。確か、小説に出てきた)
ムスクは挿絵がなかったから、姿を見てもわからなかった。
「私より偉大な魔導師は他にもいますよ。それより、シュメリ。この子は人型になれないのですか?」
「昔は自在だったのだけれどね。今は……最近、一度だけ偶然に、人になれたけれど、すぐに戻ってしまったよ」
「そうですか」
ムスクの顔がどんどん険しくなる。
魔術師団に連れて行かれて実験とかされたら、どうしよう。
「にゅぉ」
お股ポテト
29
はるにし
72
シュメリの服をカリカリして必死に訴える。
ムスクが表情を緩めた。
「怖がらせてしまいましたね。ごめんなさい、リンネ」
ムスクが背中を撫でてくれた。
びくっと体が飛び跳ねそうになった。
でも、思ったより怖くなかった。
「不思議な気配ですが、魔術めいた何かはなさそうですね。むしろ魂が」
「魂? リンネの魂に何かあるのかい?」
シュメリの表情が強張った。
「魂が……殻を被っているような、不思議な感触です」
「それは、大丈夫なのかい?」
「攻撃性や被害性は感じません。むしろ……」
ムスクが僕をじっと見詰める。
「自分で自分を守っているような感覚、でしょうか」
「守っている……」
シュメリが俯いた。
俯いた先で腕の中の僕と目が合った。
(どうしたの、シュメリ。悲しそうな顔)
それに辛そうだ。
どうして、そんな顔をするんだろう。
『私は、諦めない。絶対にリンネを取り戻して見せるから——』
頭の中にシュメリの声が響き渡った。
あの言葉を、僕はいつ聞いたんだっけ。
(あの時、僕はシュメリに、大事なお願いを、したはずで)
遠くから足音が響いた。
「すまん、客人か?」
後ろから声が聞こえた。
シュメリが振り返る。
仕事上がりのバルトが立っていた。
「問題ないよ。バルトに客人なんだ」
「俺に?」
訝しげな顔で、ムスクを眺める。
ムスクが、バルトに向かい丁寧に礼をした。
「王立魔術師団団長のムスクと申します。有能な魔術師が屋敷に滞在しているとシュメリから聞きました。是非お会いしたいと、早速足を運んだ次第です」
ムスクが穏やかに微笑む。
バルトが気まずそうな顔になった。
「シュメリ」
睨むような目を、シュメリに向けた。
「私は事実を伝えたまでだよ。会いたいというから連れてきた。どうするかは、バルトが決めるといい」
何でもないようにシュメリが言ってのけた。
これはもう、確信犯だ。
(バルトに暗殺稼業を辞めさせるための、再就職斡旋だ)
そういうエピソードが、小説にもあった。
(待って……ここでバルトは団長さんの誘いを受けるはず。そうなったら)
バルトは王都に住処を移すため、家を探す。
家が見付かるまで、シュメリの屋敷に仮住まいする。
(つまり、正式な同居が始まる……!)
ラブラブイベント、一歩前進だ。
僕はワクワクしてシュメリとバルトを見比べた。
「ふふ……愛らしい子ですね、リンネ」
僕の仕草を眺めて、ムスクが笑っている。
だって、嬉しいんだもん。
そうなったら、これからも三人で暮らせる。
(……あ、そうか。僕は、三人で暮らせるのが、嬉しいんだ)
僕は猫で、壁で、空気で良いんだけど。
ラブラブなシュメバルを眺めていられたら、良いんだけど。
一緒にお茶したり、ご飯を食べたり、夜空を眺めたり。
そういうの、ずっとしていたいんだ。
(シュメバル、見守りたい。二人と一緒にいたい)
僕はバルトの手をチロチロと舐めた。
頑張って、バルト。
魔術師団に、入って。
「こら、手が汚れているから、舐めるな」
バルトが手を引っ込めた。
「泥を払ってくるから、待っていてくれるか。話くらいは、聞くよ」
バルトが困ったように頭を掻いた。
「機会を頂き、ありがとうございます。待っていますね」
ムスクが軽く礼をする。
「ならば、私とお茶をしながら待つとしようか」
シュメリが僕を抱えて歩き出した。
「えぇ、是非。シュメリの家の焼き菓子は絶品ですから」
ムスクが嬉しそうに後を付いてきた。
僕はシュメリの腕の中から、ムスクを覗いた。
目が合って、微笑まれた。
しゅっと顔を隠す。
(ムスクは優しくて強くて、賢い人だ)
大人らしい狡さも兼ね備えた賢さのある人だ。
だから、優しいけどちょっと怖く感じる。
「こら、また浮気かな?」
シュメリに鼻の頭をちょんと突かれた。
「はにゃ」
顔が上向いて、シュメリと目が合う。
その瞳がやけに優しくて、ドキッとした。
僕はドキドキしながら、シュメリの指に頬擦りした。
(最近、シュメリを見ているとドキドキする)
どうしてなのか、わからない。
だけど、嫌なドキドキじゃなかった。
コメント
1件
第13話読み終えたわ〜!ムスク団長、めっちゃ良いキャラしてるね。優しくて賢くて、でもちょっと怖い感じが絶妙。リンネが「三人で暮らせるのが嬉しいんだ」って気づくシーン、じんわり来た。シュメバルのラブラブを見守りたい気持ち、尊すぎる。そしてシュメリにドキドキし始めたリンネ…!?これは今後の展開が気になりすぎる🔥 霞花怜さん、丁寧な心情描写が刺さりまくりです。続き楽しみにしてます!