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「このように【氷魔法】の魔皮紙に、みんなで魔力を込めることで、周囲の温度が下がります。……さっそく試してみましょう」


前に立ったマジック科の生徒が、教壇の奥に置かれた花束に向けて魔皮紙をかざす。


シュウッ――と魔法が発動し、空気がひんやりと変わった。


「「「おおお……!」」」


生徒はそのうちの一輪を手に取ると、花びらをそっと握る。


パリパリッ――


凍った花びらが砕け散る音に、子供たちは目を丸くする。


「お花さん、パリパリになったー!」


「ユキちゃんユキちゃん! 見た? 魔法ってすごいね!」


「見ましたです! あれを食らったら人間なんてひとたまりもないです!」


……さすがにちょっと物騒だった。


「と、いうわけで! 次はこれを――人に撃ってみまーす」


「「えーっ!?(です)」」


「安心してくださいね。ちゃんと装備をつけた人なので、大丈夫ですよー」


そう言ったマジック科の生徒が合図すると、扉の向こうから全身鎧を着た人がゆっくりと入ってきた。

子供たちの視線が一斉に集中する。


「では、よーく見ててくださいねー。……それっ!」


シュウッ!


魔法が放たれ、鎧の人に命中。

瞬く間に全身が氷に包まれる。


「わーーーーっ!?」


「かたまっちゃったです!」


不安そうな空気が教室に広がる中――

鎧の人から「シューーー……」と音を立てて煙が上がる。


「ふんっ!」


凍りを砕くように、鎧の人がポーズを決めた。


両手をあげて、子供たちに“安心してね”と手を振る。


「「「「わーーーっ!! すごーーーい!!」」」」


拍手と歓声が飛び交い、教室の中は熱気と笑顔に包まれる。


「みんな、楽しんでくれたかな?」


「「「たのしかったーーー!!」」」


「すごかったです!」


先生たちも、子供たちの笑顔にほっとしたような表情を浮かべていた。


「はーいー、じゃあみんなー? マジック科のお兄ちゃんたちに、お礼を言ってから次いくよー?」


「「「「マジック科のおにいちゃんたち、ありがとうございましたー!」」」」


「はいっ、どういたしまして♪」


子供たちは元気よく頭を下げて、きちんと列を作って教室を出ていく。

最後に残ったのは、ユキとミイのふたり。




「プレジさーん? すいませんー」


「はい、どうかされましたか? ドーロ様」


「ここら辺で、子供たちにトイレ休憩をさせたいんだけどー?」


「なるほど。……では、ここからですと、体育館が近いですね」


「あら、いいのー? 体育館って、今“美少女コンテスト”とかやってるんでしょー?」


「はい、美少女・美男子コンテスト、料理一品コンテストも開催中です。一日中盛り上がっておりますので、ぜひ先生方もご覧ください」


「ふふっ、お世辞が上手いのねー」


「いえ、お世辞ではありませんよ? ……それとは別に、体育館の裏に準備室がございます。そちらなら人目も少なく、ちょうどよろしいかと」


「まあ、ありがとうー。甘えさせてもらうわねー?」


「どうぞ、いくらでも甘えてください」


プレジは通信魔法を使いながら、アリスト科の生徒と連携を取り、

人混みの少ないルートを選んで子供たちを案内していく。


巧みに生徒の流れを避けながら、無駄のない誘導で進んだ先――

たどり着いたのは体育館裏の準備室。


「みんなー、おトイレいっておいでー」


「「「はーいー!」」」


子供たちは列になってゾロゾロとトイレへ向かい、

ルクスは女の子を、ウマヅラは男の子たちをそれぞれ引率していく。


「あらー? いいのーユキちゃんはー?」


「はいです! ユキは大丈夫です!」


「いっておかないと、あとで行きたくなるのよー?」


「ふっふっふ、それでも私は大丈夫なのです!」


「そーうー?」


「へへ♪ です!」


そう言ってニコニコしていたユキは、周囲の視線が外れた隙を見計らってトコトコと教室の隅へ移動。

こそこそとポケットの中から、飴のお兄ちゃん――プレジにもらった魔皮紙を取り出した。


「ふへへ……ついに使う時がきましたです……!」


ユキが魔力を通すと、魔皮紙は光を帯び、小さな黒いイヤホンへと形を変える。


「わー! すごいです! このペラペラが、本物になったです!」


指でフニフニと押してみる。やわらかいのに、しっかりしている。

ユキはこっそり耳に装着し、金髪でそれを隠した。


「おー! 聞こえる聞こえるです……!」


耳に広がったのは、人の話し声、足音、遠くの笑い声――

意識を向けると、特定の人の声だけがクリアに届く仕組みのようだった。


……が。


「どうしたのー?」


「うひゃあ!?」


不意に背後から声をかけられ、ユキは飛び跳ねた。


「んー?」


「な、なんでもないです!」


近くの声に気づけなかったのは、イヤホンの“弱点”だった。

ユキは内心で反省しつつ、音の範囲をちゃんと調整しておこうと誓った。




そして数分後、みんなが戻ってきて出発の準備を始めたころ――




「……なんで僕が……」




「?」


「どうしたのーユキちゃん?」


「気のせい……みたいです?」




でも、ユキの耳には確かに聞こえたのだ。

懐かしくて、あたたかくて、胸がきゅっとする声。


(……誰……?)


そう思いながら意識を集中させると――


『美少女コンテストは出ないよ!』


今度ははっきり聞こえた。

忘れようとしても忘れられなかった、あの人の声。


「……おかぁ……さん?」




「えっ、ユキちゃん?」




隣にいたミイが不思議そうに聞き返す。

でも、ユキは答えられなかった。


――イヤホンのことを言ったら、きっと取り上げられてしまう。

プレジさんとの“秘密”も、なくなってしまう。




だから、ユキが選んだ行動は――たったひとつだった。


「せんせー、もれそうです。」













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