テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「このように【氷魔法】の魔皮紙に、みんなで魔力を込めることで、周囲の温度が下がります。……さっそく試してみましょう」
前に立ったマジック科の生徒が、教壇の奥に置かれた花束に向けて魔皮紙をかざす。
シュウッ――と魔法が発動し、空気がひんやりと変わった。
「「「おおお……!」」」
生徒はそのうちの一輪を手に取ると、花びらをそっと握る。
パリパリッ――
凍った花びらが砕け散る音に、子供たちは目を丸くする。
「お花さん、パリパリになったー!」
「ユキちゃんユキちゃん! 見た? 魔法ってすごいね!」
「見ましたです! あれを食らったら人間なんてひとたまりもないです!」
……さすがにちょっと物騒だった。
「と、いうわけで! 次はこれを――人に撃ってみまーす」
「「えーっ!?(です)」」
「安心してくださいね。ちゃんと装備をつけた人なので、大丈夫ですよー」
そう言ったマジック科の生徒が合図すると、扉の向こうから全身鎧を着た人がゆっくりと入ってきた。
子供たちの視線が一斉に集中する。
「では、よーく見ててくださいねー。……それっ!」
シュウッ!
魔法が放たれ、鎧の人に命中。
瞬く間に全身が氷に包まれる。
「わーーーーっ!?」
「かたまっちゃったです!」
不安そうな空気が教室に広がる中――
鎧の人から「シューーー……」と音を立てて煙が上がる。
「ふんっ!」
凍りを砕くように、鎧の人がポーズを決めた。
両手をあげて、子供たちに“安心してね”と手を振る。
「「「「わーーーっ!! すごーーーい!!」」」」
拍手と歓声が飛び交い、教室の中は熱気と笑顔に包まれる。
「みんな、楽しんでくれたかな?」
「「「たのしかったーーー!!」」」
「すごかったです!」
先生たちも、子供たちの笑顔にほっとしたような表情を浮かべていた。
「はーいー、じゃあみんなー? マジック科のお兄ちゃんたちに、お礼を言ってから次いくよー?」
「「「「マジック科のおにいちゃんたち、ありがとうございましたー!」」」」
「はいっ、どういたしまして♪」
子供たちは元気よく頭を下げて、きちんと列を作って教室を出ていく。
最後に残ったのは、ユキとミイのふたり。
「プレジさーん? すいませんー」
「はい、どうかされましたか? ドーロ様」
「ここら辺で、子供たちにトイレ休憩をさせたいんだけどー?」
「なるほど。……では、ここからですと、体育館が近いですね」
「あら、いいのー? 体育館って、今“美少女コンテスト”とかやってるんでしょー?」
「はい、美少女・美男子コンテスト、料理一品コンテストも開催中です。一日中盛り上がっておりますので、ぜひ先生方もご覧ください」
「ふふっ、お世辞が上手いのねー」
「いえ、お世辞ではありませんよ? ……それとは別に、体育館の裏に準備室がございます。そちらなら人目も少なく、ちょうどよろしいかと」
「まあ、ありがとうー。甘えさせてもらうわねー?」
「どうぞ、いくらでも甘えてください」
プレジは通信魔法を使いながら、アリスト科の生徒と連携を取り、
人混みの少ないルートを選んで子供たちを案内していく。
巧みに生徒の流れを避けながら、無駄のない誘導で進んだ先――
たどり着いたのは体育館裏の準備室。
「みんなー、おトイレいっておいでー」
「「「はーいー!」」」
子供たちは列になってゾロゾロとトイレへ向かい、
ルクスは女の子を、ウマヅラは男の子たちをそれぞれ引率していく。
「あらー? いいのーユキちゃんはー?」
「はいです! ユキは大丈夫です!」
「いっておかないと、あとで行きたくなるのよー?」
「ふっふっふ、それでも私は大丈夫なのです!」
「そーうー?」
「へへ♪ です!」
そう言ってニコニコしていたユキは、周囲の視線が外れた隙を見計らってトコトコと教室の隅へ移動。
こそこそとポケットの中から、飴のお兄ちゃん――プレジにもらった魔皮紙を取り出した。
「ふへへ……ついに使う時がきましたです……!」
ユキが魔力を通すと、魔皮紙は光を帯び、小さな黒いイヤホンへと形を変える。
「わー! すごいです! このペラペラが、本物になったです!」
指でフニフニと押してみる。やわらかいのに、しっかりしている。
ユキはこっそり耳に装着し、金髪でそれを隠した。
「おー! 聞こえる聞こえるです……!」
耳に広がったのは、人の話し声、足音、遠くの笑い声――
意識を向けると、特定の人の声だけがクリアに届く仕組みのようだった。
……が。
「どうしたのー?」
「うひゃあ!?」
不意に背後から声をかけられ、ユキは飛び跳ねた。
「んー?」
「な、なんでもないです!」
近くの声に気づけなかったのは、イヤホンの“弱点”だった。
ユキは内心で反省しつつ、音の範囲をちゃんと調整しておこうと誓った。
そして数分後、みんなが戻ってきて出発の準備を始めたころ――
「……なんで僕が……」
「?」
「どうしたのーユキちゃん?」
「気のせい……みたいです?」
でも、ユキの耳には確かに聞こえたのだ。
懐かしくて、あたたかくて、胸がきゅっとする声。
(……誰……?)
そう思いながら意識を集中させると――
『美少女コンテストは出ないよ!』
今度ははっきり聞こえた。
忘れようとしても忘れられなかった、あの人の声。
「……おかぁ……さん?」
「えっ、ユキちゃん?」
隣にいたミイが不思議そうに聞き返す。
でも、ユキは答えられなかった。
――イヤホンのことを言ったら、きっと取り上げられてしまう。
プレジさんとの“秘密”も、なくなってしまう。
だから、ユキが選んだ行動は――たったひとつだった。
「せんせー、もれそうです。」