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ある日の午後。
桜もちらほら咲き出して、ますます春を感じられるようになってきた。
桜の木は、ただそこに静かに佇み、枝にたくさんの花をつけて……
その優雅で気品溢れる姿に誰もが惹き付けられる。
ある人は心が晴れやかになり……
またある人は感傷に浸り……
行き交う人のいろんな思いを引き出してくれてる気がした。
私も、そんな桜の花達に元気をもらって『杏』に向かった。
昼から仕事に入る時は少し気持ちに余裕がある。
店の自動ドアを入り、さらに奥に入ると休憩中のあんこさんがいた。
「お疲れ様です。あんこさん、よろしくお願いします」
「雫ちゃん、お疲れ様。今日もよろしくね。ねえ、今、あの人来てるわよ」
「あの人?」
「そう、あの人。たまに来てくれる超イケメンの彼よ」
あんこさん、嬉しそう。
「スーツの……?」
「そうそう。長身で、イケメンで、あんなにスーツが似合う人ってなかなかいないよね」
少し前からかな?
たまに『杏』に来てくれるようになったイケメンさん。
その人は、あっという間にうちのお店の女子達のハートをガッツリ掴んでしまった。
名前も素性も知らないけど……
この近くの会社に勤めてるらしいことだけはわかってる。
みんなが彼にいろいろ話しかけて聞くんだけど、それ以上は聞き出せなくて、真実は謎に包まれたままなんだ。
だから、みんなでいろいろ勝手に噂してて……
頭が良さそうだから銀行マンじゃないか? とか、オシャレなスーツを着こなしてるからアパレル業界の人じゃないか? とか。
モデルか、俳優じゃないか説もあるくらい。
正直、最初は私も驚いた。
慧君も、希良君も、確かにすごくイケメンだけど、彼はその上をいく……なんていうか、超絶イケメン。
髪型は、黒髪で浅めのツーブロック。
全体的に軽くパーマがかかってて、トップにボリュームを出したスタイルがとても似合ってて清潔な印象。
キリッとした目と整えられた眉。
鼻筋が綺麗に通った高い鼻、少し薄めの唇がセクシーでちょっとクールな印象。
もちろん好みの問題だけど、あの人をイケメンじゃないという人がいたら理由を聞いてみたい。
絶対に……いないと確信する。
それくらい、とんでもないイケメンぶりだ。
「お店入ります」
私は私服にエプロンを着け、あんこさんにそう言った。
「ねえ、あの人に声かけてみたら? 雫ちゃん、1度も話してないでしょ?」
「無理ですよ。何を話せばいいかわからないですから。レジの対応だけで精一杯です」
「みんな話したがってるのに、雫ちゃんは謙虚ね。それともタイプじゃないのかしら?」
あんこさんがちょっと意地悪そうに笑った。
「タイプとかっていう問題じゃないですよ。あんな素敵な人が私なんかを相手にするわけないですから」
そうだよ、こんな私なんか誰からも恋愛対象にされてない。
あんなイケメンならなおさらだ。