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そろそろ両親が帰ってくる頃なので、ゆりは魔女の家をでる。
「あなたにちょっと見せたいものがあるの。」
ゆりはなんだろうと思いながら、魔女のあとに続く。
魔女はあの抜け穴のあるほうに進んで行った。
前に来たときとは違う香りが風に乗ってゆりに届く。
家の角を曲がると、ゆりは言葉を失った。
そこにはいろんな色の百合の花が、強く、そして美しく咲き誇っていた。
「あなたのお名前、”ゆりちゃん”っていうのよね。」
「は、はい。」
─あれ、私名前言ったかな、、?
「スケッチブックに名前が書いてあったから。」
─あ、そうだった。
ゆりはいつも、新しいスケッチブックにはまず名前を書いている。
「百合の花はね、英語でリリーって言うの。
私には1人、娘がいて、今は海外にいるのだけど。彼女の名前もリリーなの。」
魔女はどこか懐かしそうに遠くを見つめる。
「私はイギリスで生まれて、小さい頃に両親の仕事の都合で日本に来たわ。
みんなと違う私はなかなか馴染めなかったの。
それから大人になって、私は日本の人と結婚した。
そしてこの家でリリーが生まれた。」
ゆりは黙って魔女の話を聞く。
「その頃はとっても幸せだった。
でもある時、私はリリーとすれ違ってしまったの。
些細なことだったのに、お互い引かなかった。
そしてリリーはこの家を出ていった。」
顔を上げた魔女の目は光っているように見えた。
「何年か前に夫を亡くした私は、この大きい家に1人で住むようになったわ。
それから少し経ったある日、ここに1輪の百合の花が咲いたの。」
ゆりも魔女の視線の先を見る。
「うちの庭はほとんど日が差さないから、植物を植えてこなかったの。
でもなぜか偶然にも、ここに芽を出した。
そのうえそれは百合の花だった。
私は次の年からここに百合を育て始めたわ。
時間がかかったけれど、今年やっとこれだけきれいに咲いてくれた。」
─そうだったんだ。
「素敵な絵のお礼に見せたかったの。ありがとう。」
魔女が微笑む。
「あの、、」
「何かしら。」
ゆりは勇気を出す。
「今度この百合の絵を描かせてもらえませんか、、?」
魔女は嬉しそうに言う。
「もちろん!」
「いつでもいらっしゃい、待ってるわ。」
魔女が門のところまで見送りにきて手を振る。
「はい!ありがとうございます!」
ゆりも手を振りながら答える。
ゆりは魔女の家をあとにして歩き出す。
なんだか昼間の夢を見ていたような、不思議な心地がした。
少しヒリヒリするひじには確かに絆創膏が貼ってある。
あの家には魔女がいる。
いつも黒い服を着て、黒猫を飼っている。
ある日私は魔法をかけてもらった。
なんていう名前の魔法か分からないけど、確かに私の何かが変わった。
ゆりはもう一度振り返る。
まだ聞いてなかったことがあった。
「お名前聞いてもいいですか?」
魔女は笑顔で答える。
「私の名前はオリヴィア。
よろしくね、ゆりちゃん。」