「あ、なんか近いな。」
第18話:「しばらく、離れよか。」
放課後の屋上。
風が少し冷たくて、夏の終わりを感じさせた。
鉄の手すりに肘をついて、空を見上げる。
雲がゆっくり流れていくのを見てると、
心の中のもやもやも、一緒に流れてくれたらええのにな、って思った。
(なぁ、樹……)
今日もまた、目が合ったのに、
言葉が出えへんかった。
笑いかけたら、何かがバレそうで。
目を逸らしたら、寂しそうな顔されて。
どっちを選んでも、苦しい。
机の上で、何度も手を伸ばしては止めた。
“好き”って気持ちを隠しながら、
“友達”を続けることの難しさに、
ようやく気づいてもうた。
(このままやったら、壊してまうかもしれへん。)
だから、決めた。
逃げるんちゃう。
守るための”距離”や。
放課後、昇降口で樹を見つけた。
笑いながら、他の友達と話してる。
その笑顔を見て、胸の奥がギュッと締めつけられた。
「……樹。」
「おぉ、光輝。どうしたん?」
いつもの声、いつもの調子。
けど、今日はもう、笑えへんかった。
「…ちょっと、話あるねん。」
人気のない廊下に移動して、
俺はゆっくり、息を吸い込んだ。
「なぁ、樹…」
「……ん?」
「しばらく、離れよか。」
樹の目が、驚きに揺れる。
その顔を見た瞬間、
胸の奥がズキンと痛んだ。
「……なんでや?」
「いや、別に……ケンカとかちゃうねん。
ちょっと、今は……自分のこと、整理したいっていうか。」
樹は何か言いかけたけど、
俺はそれを遮るように笑った。
「大丈夫やって。少しの間やから。」
その”笑顔”が、
自分でも分かるくらい、下手くそやった。
樹は、少し黙ってから、
小さくうなずいた。
「…分かった。」
その声が、やけに静かに響いた。
樹の足音が追いかけてこないのを確かめて、
ぎゅっと拳を握る。
(ごめんな、樹……)
好きやから、離れなあかん。
けど、離れたらもっと、好きになってまう気がした。
夕陽が沈む廊下に、
2人の影がゆっくり離れていった。
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